そもそもニュー・ヴィンテージとは?
1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
気が付けば7シーズン目に突入した本連載。というワケで、今回からショップが入れ替わってリスタート。1巡目のトップバッターとなる第49回目は、原宿にある「ダメージドーン 2nd(DAMAGEDONE 2nd)」の酒井元太さん。
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
酒井元太/DAMAGEDONE 2nd バイヤー
Vol.49_ユーロ企画(90’s〜00’s)のリーボックのトラックジャケット
―酒井さんにとっての、ニュー・ヴィンテージとは?
自分もある程度は、いわゆるトゥルー・ヴィンテージと呼ばれる古着を見てきているし、通ってきてはいるんですが、現在の古着市場では、気軽に手が出せないプライスにまで高騰しちゃっているじゃないですか。それに対して、90‘s〜00’sの古着だったら、まだ日常の中のアイテムとして手頃なプライスで手に入れることが叶う。この“普段着として取り入れられる”というのが、ニュー・ヴィンテージな古着のひとつの基準なのかなと考えています。
―なるほど。ということで今回、ご紹介いただくのは?
ぼくが買い付けで訪れているイギリスでは、オシャレな人がロンドンの中心部に僅かにいるのみで、大多数は普通の格好をしています。で、そんな中で目を引くのが、イーストロンドン、マンチェスター、グラスゴーといったエリアで街角に溜まっている不良たちの姿。そんな彼らの着用率が高いのが〈リーボック(Reebok)〉です。理由は、スポーツウェアはスリフトショップで安く手に入るからというのと、ギャングたちが動きやすさを求めてスポーツウェアを着るカルチャーからきたもの、その両方があると思われます。
―アイテムとしては、どんなモノが面白いのでしょうか?
元々、ブランド自体はイギリス生まれですが、1980年代以降はアメリカ進出したこともあって、色使いもデザインも派手めのナイロンジャケットなどが主流に。それらに比べると、ヨーロッパ企画のアイテムは明らかにデザイン思想からして別物で。ということで今回は、90‘s〜00’sに年代を限定し、ヨーロッパテイストなトラックジャケットを持ってきました。まずはこちら。マイクロファイバー素材の質感と、意味がありそうでなさそうなパイピングラインに加え、スポーティーなロゴデザインも当時の空気感を忍ばせるフルジップタイプ。真っ白なボディにスカイブルーという組み合わせは、一見爽やかですが、逆に不良っぽいっていう。
―もう1着のプルオーバータイプは、ちょっとフューチャリスティックな雰囲気が今っぽいなと。
素材は光沢感のあるリップストップナイロンで、裏地はメッシュ素材と着心地はこちらもスポーティ。何より目を引くレンチキュラー素材のロゴパッチは、角度を変えても特に変化がないという意味不明な仕様ですし、フロントポケットもなぜかダミー(笑)。見た目に反してローテクっていうズレも含めて、面白みと捉えられるのではとセレクトしてみました。
―ローカルたちは、どうやって合わせるのかが気になります。
あちらでは日本と違って、ブランド同士を揃えるべきという感覚がないので、〈ナイキ(NIKE)〉のトラックパンツに、足元はハイテク系のランシューでエア・マックス プラスなんかを合わせるのが定番パターン。で、インナーは春秋だったら白の無地Tシャツ。懐に余裕があるヤツらは、ゴールドのネックレスやグリルズを着けたりも。日本人がやると結構ギリギリな感じになりがちですが、“あえての適当に選んでいる感”や“動きやすさ重視で着ているようなリアルクローズ感”がポイント。要は“あっちのヤツらなら、こう着ていそう”という感覚を、いかにさり気なく表現できるか。それに尽きます。
―先に述べられた“普段着として取り入れられる”という観点からも、そこは重要なポイントでしょうね。
ですね。これが〈アディダス(adidas)〉の場合だと、オアシスのノエル・ギャラガーやジャミロクワイのJQなどのアーティストが着用していたりと、ユーロ圏ならではの音楽的・カルチャー的な背景がありますよね? それが〈リーボック〉では、そういった部分での繋がりをあまり聞きません。まぁ、近年はラッパーとコラボなんかもしているので、あくまで00’s以前の話ではありますが。でもそこがイイというのはあります。オシャレなヤツらの間でフォーカスされているかといったら全くそんなことないし、古着のディーラーでも相手にされていないので手垢が付いておらず、まだまだ面白いモノを見つけることができますし。
―酒井さん的には、どんな着こなし方を提案されますか?
願わくば、何も考えずに着てもらいたいですね。合わせるボトムスだってデニムでもスラックスでもイイし、◯◯だから××を合わせなきゃではなく、各々のスタイルにうまくハメてもらえればなって。調べたところで情報が出てくるようなアイテムでもないし、ローカルの連中も適当に着ているので、それで正解なんだと思います。そもそもみんなが“同じモノを選んで同じように着る”という、昨今の古着の選び方に逆行したいという思惑もあったので、皆さん適当にどうぞ(笑)。
酒井元太 / DAMAGEDONE 2nd バイヤー
20歳で有限会社UTMに入社し、同社が運営するセレクトショップ「ロウドリップ(RAWDRIP)」のショップスタッフとなる。以降は「ロウドリップ 2nd(RAWDRIP 2nd)」、「ダメージドーン2nd(DAMAGEDONE 2nd)」と順調にキャリアを重ね、アパレル歴は14年。現在はプレス業務と並行してバイイングも担当している。
公式サイト:damagedone2nd.stores.jp
インスタグラム:@damagedone2nd