そもそもニュー・ヴィンテージとは?
1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
気が付けば7シーズン目に突入した本連載。というワケで、ショップも入れ替わってリスタート。記念すべき第50回目は、下北沢にある「ソーワットヴィンテージ(sowhat vintage)」の加藤太郎さん。
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
加藤太郎/sowhat vintage オーナー
Vol.50_バラクラバ(U.S.ミリタリー、オークリー、アークテリクス)
―加藤さんにとっての、ニュー・ヴィンテージとは?
基本的には、この連載でこれまで皆さんがお話しされていた通りかなって。その上で、個人的には自分がレギュラーとして触れてきた80〜90年代以降の、新しい年代のモノという認識はあります。2000年代以降だって、もはや10年〜20年前ですからね。それに加えて、これまで他の古着屋さんが扱ってこなかったモノ。この2つを備えているのが、ウチにとってのニュー・ヴィンテージだと思います。
―ヘッドウェアを専門に扱われていますが、その中で中古と古着の判断基準はありますか?
ファッションブランドではないモノに関しては、古着として認めてもいいのかなと。例えばアウトドアギアとか企業の販促モノだったり、要はファッションとしての視点が混入せず、用途に沿ってつくられたギアですよね。そうでないと、ちょっとオシャレすぎるんですよ、ぼくには(笑)。
―そんな加藤さんに今回紹介していただくニュー・ヴィンテージなアイテムとは?
バラクラバです。コロナ禍のこの2、3年で流行りだしたので注目していた人も多いのでは? ぼく自身、冬に自転車に乗る際に〈コロンビア(Columbia)〉のバラクラバを愛用していたこともあって、スケーターやチャリ乗りの防寒用として以前は提案していましたが、最近はファッションアイテムとして認知されるようになりました。これには、マスク着用が常識になったことで顔を隠すのに抵抗がなくなったっていうのも、理由のひとつにあると思います。
―先ほども“用途に沿ってつくられたギア”という話がありましたが、バラクラバは、そもそもどういったモノなんですか?
ひと口に“バラグラバ”といっても種類も色々で。発祥は1800年代半ば。クリミア戦争時に、兵士たちが被っていた防寒用具がルーツだそうです。以降、第二次世界大戦まではミリタリーギアとして使用されていて、形状はいわゆる目出し帽。その後の1950年代にレディスのファッションアイテムとして流行ったようですね。その頃には顔の露出面積が広がって、よりファッション性の高いものに。その後にスキーが広まった流れで、よりデザイン性の利いたものが増えていきました。
―いま、レディスでも流行っているようですね。
2021年に〈ミュウミュウ(MIU MIU)〉がコレクションで発表したことも追い風となり、韓国でも日本でも火がつきました。そちらは1950〜70年代のスキーファッションの流れを汲む文脈で、今回紹介するのは別の文脈になります。のちの1980年代になると〈パタゴニア(Patagonia)〉や〈エル・エル・ビーン(L.L.BEAN)〉などのアウトドアブランドからのリリースが増加し、この頃からデザインや素材のバリエーションも増え、1990年代以降はフリースやストレッチ素材などにアップデートされます。そして、2020年以降にトラヴィス・スコットやエイサップ・ロッキー、イェ(ex.カニエ・ウェスト)などラッパーたちが被り始めるようになり、いまに至ると。
―90年代後半、一部のストリートでミリタリー・特殊部隊ブームがあった際に、たまに見かけましたね。
そんな中で紹介したいのが、まずこちら。〈U.S.ミリタリー〉のフレームレジスタントフードで、2000年代のもので軍のファイヤーマンなどが着用するもの。見た目は普通のスウェットっぽいけど、難燃素材が使われています。首まであるタイプなので、これを被った上からリバースウィーブを重ねたり、アウターの下に仕込んでフードのように使ったりも。あまり見たことがないアイテムなので面白いんじゃないかなと。
―こちらは〈オークリー(OAKLEY)〉ですね。
〈パタゴニア〉や〈アークテリクス(ARC’TERYX)〉、〈アウトドアリサーチ(OUTDOOR RESEARCH)〉など、アウトドアブランドには、軍に納入するタクティカルラインがあるんですが、こちらも同様にStandard Issue(SI)シリーズという、軍や法執行機関などに向けて制作したシリーズのもの…だと思います。もしかしたらそれの民間モデルの可能性もありますが。ポイントはボディに使用された“カーボンテックス”という耐火素材。ネックウォーマーとフードが合体したようなデザインで、両方の使い方が可能です。テック系のファッションに合わせるのが良さそう。最近のラッパーたちは、こっちのノリですね。
―それこそ〈アークテリクス〉に、〈ナイキ(NIKE)〉のエア・マックス・プラスを合わせる的な。
最後はその〈アークテリクス〉で、2010年代以降の本当に最近のモノ。他ふたつとは違って、登山で使われるような普通のポリエステル100%でストレッチの効いた素材。ランニングで被ったり気軽に使えるモデルです。ブランドとしても旬ですし、変なクセがないので取り入れやすいのかなと。
―そもそもバラクラバって、古着屋でひとつのジャンルとして仕入れるものなんですか?
見たことがないですね。いわゆる古着として出てくることは滅多にないかも。なので、ぼくらもミリタリーショップやサバイバルゲーム用品店でデッドストックを買ったりすることが多いですし。多分、バラクラバを日本でいちばん探しているのはウチだと思います(笑)。そもそも歴史が長い割に、ファッションアイテムとして注目されたのは、ここ最近。前例がないからこそ、現代のファッションの中で“どう取り入れるか?”と考える面白さがあると思います。最近はテック系に合わせるのが主流ですが、何だったらスーツに合わせても面白いですし。逆に、若い世代に新しい取り入れ方を提案してもらえたら、もっと盛り上がるんじゃないでしょうか。
加藤太郎 / sowhat vintage オーナー
20歳で「フラミンゴ(FLAMINGO)」に入社し、「フラミンゴ 下北沢店」で5年間勤務。その後、独立してヴィンテージ・オンラインストア「ソーワットヴィンテージ(sowhat vintage)」を開店。2021年に下北沢に実店舗をオープン。古着のヘッドウェアとのヴィンテージのフラワーベースをセレクトし、早くも多くのファンを擁する人気店に。
公式サイト:sowhatused.thebase.in
インスタグラム:@sowhatvintage_shimokitazawa