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【FOCUS IT.】10周年を迎えたバテンウェア。変わったこと変わらないことをデザイナーの長谷川晋也さんに聞きました、脇道に大いにそれながら。

2022年秋冬コレクションで創業10周年を迎えた〈バテンウェア(Battenwear)〉。この夏、久しぶりにデザイナーの長谷川晋也さんが来日していました。

創業からずっとアメリカに拠点を置き、いまもなおそのペースを崩さずにいられるというのは、コロナ禍のことを考えても、並大抵のことではありません。

激動の10年を振り返ってもらうべく、長谷川さんにインタビューを申し込みました。ブランドのクリエイティブについて真面目に聞くというよりは、最近どうですか?的なユルいノリで。

久しぶりにお会いした長谷川さんは、前と変わらずレイドバックしたピースフルなキャラクターでした。

PROFILE

長谷川晋也
バテンウェア デザイナー

2011年にニューヨークで〈バテンウェア〉を設立。今年の秋冬シーズンでブランド創設10年を迎えた。2017年にはカリフォルニア州トパンガキャニオンにデザインスタジオをオープン。機能的で快適なアウトドアウェアを長年追求し続けている。

ーお久しぶりです。今の拠点はNYではなくて、LAですよね?

長谷川:はい。2017年の年初に引っ越したので、もう5年以上経ちますね。その後もNYにオフィスは残していて、行ったり来たりの生活をしていました。で、たまたまなんですが、パンデミックになる直前にNYの事務所を閉めることにしていたんです。タイミングがもう少し遅かったら大変でしたね。

ーそれは運がよかったですね。パンデミック初期のNYは大変なことになってましたもんね。

長谷川:そうですね。すごいことになってました。

ー慣れ親しんだNYを離れて、LAに移住したきっかけはなんだったんですか?

長谷川:大きいのは子供のことですかね。家族4人で暮らすには少し窮屈になってきたっていうのと、元々うちの妻がいま住んでるあたりの出身なんですよ。自然が多いところで、やっぱり子供はそういうところでのびのび育てた方がいいんじゃないかと思って。

ーLAのどのあたりなんですか?

長谷川:トパンガです。いまでもヒッピーが住んでるエリアですね。昔、学校だった施設のなかのひとつの教室がうちのオフィスなんです。

ーすごく良さそうですね。

長谷川:はい。自然のなかにあって、クルマでちょっと行けばサーフスポットがあります。

2022FW LOOK

ーそもそもアメリカに行ったのはいつ頃なんでしたっけ?

長谷川:2002年だから、もう20年ですね。

ースタッフはいまどれくらいいるんですか?

長谷川:僕と妻だけです。あとインターンみたいな子が1人いますけど、基本的には二人でやってます。

ーニューヨークのときはもっと規模が大きかったんですか?

長谷川:はい。最大で5人くらいいたと思います。そういうのを経験して、いまは2人いればなんとか回せるかな、という感じです。あと土地柄なのか、トパンガのひとはみんなのんびりしてるから、自分たちでやっちゃった方が早いかなって(笑)。

ーそれに比べると、ニューヨークのひとたちは勤勉ということなんですかね。

長谷川:勤勉というかやっぱりリズムが早いですね。洋服を作るときも工場はすごく早いです。持っていけばすぐ作ってくれて、作り終わったらすぐに次のブランドにいって、みたいな。とにかく回転してるし、つねにせかせかしてますね。

ーそれは意外でもあり、納得できる部分でもあります。

長谷川:ニューヨークは洋服を作る環境がすごく整ってるんです。ガーメントディストリクトという一角に、あらゆる工場が収まってるので。企画して、パターンナーとミーティングして、縫製工場に持っていってカットしてという流れが、そのブロックのなかで全部できるんです。

ーLAのダウンタウンにもそういうエリアありませんでしたっけ?

長谷川:ファッションディストリクトですね。20年ぐらい前だと、ダウンタウンのビルのなかに工場があったらしいんですけど、いまは地価が高騰して、そういう工場が散らばっちゃったんです。全部クルマでものを動かさなくちゃいけない環境なので、ニューヨークだと1時間で済むようなことが、LAだと丸1日かかっちゃう感じですね。

ーいまも、ほとんどがアメリカ製ですか?

長谷川:はい、全部ではないですけど大部分は。スエットなんかはカナダ製で、あとは日本製も結構増えました。

ー適材適所というか。

長谷川:そうですね。スタイルに合わせて適正な工場を選んでいます。

ーLA周りはどんな工場があるんですか?

長谷川:例えばずっとマウンテンパーカを作ってきたようなところとか。サンフランシスコというか、オークランドあたりにそういうのがあります。

ーなるほど。けど、アメリカも工場は減ってきてますよね?

長谷川:そうですね。10年前と比べても随分環境は変わりました。とにかく働くひとが減ってるので、工賃、人件費も上がってきてます。

ーそうですよね。しかもいまってアメリカはインフレですよね。

長谷川:はい。家賃も上がって物価も上がって。さっきも言ったように人手不足なので、賃金も上がってます。

ーということは、働くところはたくさんあるわけですね。

長谷川:あるんですけど、みんな工場みたいなところでは働きたがらないんですよね。同じ給料ならウェイターをやった方がチップがもらえるから、ってそっちに行ったり。例えばニューヨークだと、最初に移住してきたひとたちが工場を始めたんですけど、自分の子供には高等教育を受けさせているので、工場では働かないんですよね。みんな弁護士になったり医者になったりで。だから跡取りがいないんです。これは本当にシビアな問題で。

ー日本にもそうした問題はありますが、アメリカもやっぱりそんな感じなんですね。

BATTEN-DOWN PARKA V.2 ¥92,400

BATTEN-DOWN DECK JACKET ¥82,500

ーアメリカに来るまでというか、来ることになった経緯を改めて伺ってもいいですか?

長谷川:日本ではずっとサラリーマンをやってました。それで2002年、30歳のときにニューヨークに行ったんです。FIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学)に行くためです。そこではマーケティングの学科を専攻していました。

ー元々アメリカには行きたかったんですか?

長谷川:そうですね。最初は2年間だけ行くつもりでした。親とか周りにも猛反対されたので。ただ、卒業してから向こうで仕事先が見つかったので、そのまま滞在したという感じです。初めはウエストブロードウェイにあった「What Comes Around Goes Around」という古着屋さんに勤めたんです。そこで2年くらい働きました。そのうちに〈エンジニアド ガーメンツ(ENGINEERED GARMENTS)〉の鈴木大器さんが参画したイタリアの会社「WP」の〈ウールリッチ ウーレンミルズ(Woolrich Woolen Mills)〉のプロジェクトに、アシスタントデザイナーして拾ってもらえることになって。

ーその辺りからの経歴はよく知られているかもしれません。

長谷川:そのあと大器さんが「WP」と契約が終わるときに、僕もそろそろ次のステップに行くときかな、というタイミングだったんです。最初は自分でやろうとは全く思ってなくて普通に就職活動してたんですけど「あなたくらいのキャリアを積んでるなら自分でやった方がいいんじゃない?」ってアドバイスしてくれるひとがいて。そこで初めて自分でやることを考えて、大器さんにも相談して背中を押してもらったりして、ようやく自分のブランドをスタートさせたという感じです。

ーわりと紆余曲折あってからのブランドスタートですよね。ただ、そこからはブランドの世界観がほとんどブレてませんよね。

長谷川:そうかもしれないですね。趣味がずっとサーフィンで、いわゆるサーフブランドってそのほとんどがウエストコーストから来るものが多いじゃないですか。だから、ニューヨークから発信するサーフテイストのものがあったら面白いんじゃないかな、というのはずっと思っていて。

ー確かにそのマッチングはちょっと新しい感じがしますね。そもそもニューヨークにサーフィンのイメージがあまりなかったんですが、いいポイントがあるわけですよね。

長谷川:ありますね。地下鉄で行けるところだとロッカウェービーチ。クルマで行くとなるとロングビーチですね。JFKエアポートの向こうです。大西洋の海流が来るんで結構いい波がくるんです。

ー10年間、ご自身の好きな世界観を貫いてやってこられているというのは本当に素晴らしいなと思うんですが、そんななかでも最近とくに気になることってありますか?

長谷川:こないだまで23SSのものづくりをしていたんですが、いまは70年〜80年くらいの西海岸のものが面白いなと思ってます。

ー移住して5年目にして。

長谷川:はい。これまではLAにいても、西海岸のことを全然気にしてなかったんです。むしろ逆に意識するのは嫌だなくらいに思っていて。それが変わったのは、うちのオフィスの敷地内にあるエアストリームに住んでるおじいさんの話しを聞いてからなんです。もう91歳になる方なんですが、その方も元々ニューヨーク出身で、70年初頭にLAに引っ越してこられたそうなんです。で、当時のことをいろいろ聞いてたんですけど、カジュアルの概念についての話を聞いて。

長谷川:ニューヨークにいたときは、ジャケットとかブレザーを着ずに、シャツを着てネクタイをするっていうのが、カジュアルの基準だったらしいんです。けど西海岸に来てみたらみんなTシャツにショーツじゃないですか、それがLAではカジュアルの基準だから。同じカジュアルでもアメリカのなかでものすごい差があるというのに、彼はショックを受けたらしくて。

ー大陸の両端ですし、同じ国とは思えないほど文化は違いますよね。

長谷川:そうなんです。それで、今回初めて東海岸のものと西海岸のものをミックスした感じを意識してみました。デザイナーってどうしても東海岸のひと、西海岸のひとって分かれがちで、僕みたいに両方を経験してるひとってあんまりいないから、そういう表現をしたら面白いんじゃないかって。どこにどう出ているかはなかなか説明しづらいんですけど、色使いなんかには表れてるんじゃないですかね。

SCOUT ANORAK ¥52,800

WARM-UP FLEECE ¥30,800

AMY PANTS by Post O’alls ¥39,600

ーどんなことからインスピレーションを受けることが多いですか?

長谷川:仕事がらみでよく旅行に行くんですけど、その旅行先で会ったひとだったり、いろいろなものを見たり聞いたりすることで、アイデアが出てきたりします。

ー旅行というのはアメリカ国内が多いんですか?

長谷川:そうですね。パンデミックの間は国外に出れなかったので、その間は子供を連れてキャンプしたりドライブしたり、って感じでした。

ー最高ですね! 日本ではキャンプがすごく流行ったんですが、アメリカはどうでしたか?

長谷川:アメリカもすごかったですよ。キャンプ場の予約も全然取れなかったです。あとはサーフィンが急に人気になって、サーフボードが買えなくなっちゃったりとか。

ーベタなことを聞くようですが、アメリカ横断ってしたことあるんですか?

長谷川:ないです。アメリカに住み始めた頃は夢見たんですけど、いざ住み始めるとやらないですね。

ー家族もいるし、大変だしみたいなことですか?

長谷川:というよりも、僕って結局ニューヨークとLAの両端しか住んだことないので、大陸の真ん中あたりの州に行くことはそんなにないんですけど、そのあたりってやっぱり結構危ないんですよね。

ー例えば差別とかそういうことですか?

長谷川:そうですね。住むと気付くことって結構あって。いろいろな考え方のひとがいるので、そういうところにアジア人が行ったらいい気持ちがしないひともいると思うんです。そうなるとわざわざ横断しなくてもいいのかなって。

ーなるほど。。僕らがアメリカ横断という言葉に夢を見ているのとは、全然違う解像度でアメリカを見ているということですよね。ただ、そういう一面はもちろんあると思うんですけど、長谷川さんにとってアメリカの魅力ってどんなところにあるんですか?

長谷川:やったことは評価してもらえる場所ということですかね。FITを2年で卒業して、日本に帰ってきてたらおそらく自分のブランドはやってなかったと思うんです。自分が作ったものを素直に評価してくれたひとたちのおかげで、今の自分があるというか。

ー逆に、2年半ぶりに日本に来られて思ったことはありますか?

長谷川:食べ物が美味しいですね(笑)。今回は家族みんなで帰ってきたんですけど、箱根とか千葉とか、結構いろいろなところに行って、なんか夏休みみたいでしたね。けど不思議なことに3〜4週間くらい経つとそろそろ帰った方がいいのかな、っていう風に思い始めるんですよね。

tenのところが青文字になっているタグが、10周年記念アイテム。

ーアメリカがいまの住まいですもんね。将来的にどうしたいとかはありますか?

長谷川:日本にも住めるような環境を作れたら理想ですね。子供たちにも日本の教育を受けさせてみたいですし。せっかく二重国籍を持ってるわけだから、両国の文化を味わえるというのはメリットだと思うので。

ー日本人って、昔はアメリカに憧れるひとがすごく多かったと思うんですが、いまは韓国などのアジアに最初に興味を持つようになっていると思うんです。それがむしろ普通というか。しかも今は強烈な円安ドル高で、簡単にアメリカに行くことは難しくなりました。そんななかで、アメリカを拠点とする日本人として、なにか若い世代に伝えたいメッセージのようなことはありますか?

長谷川:メッセージ!?(笑) そうですね。。アメリカはとにかくいろんな人種がいて、いろんな考え方をしているひとがいるので、そういった環境のなかいると、すごく自分を客観的に見れるようになるんですよね。世界の広さがわかるというか。そういうことって実際に現地に行かないとわからないことなので、ぜひ経験してほしいですね。もちろん東京もすごく面白い街だと思いますけど、違った意味で毎日発見があるので。

INFORMATION

アリガインターナショナル

電話:03-6659-4126
公式サイト

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