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連載【で、NEW VINTAGEってなんなのさ?】Vol.66 “要素モリモリが逆にいまっぽい?”。そんなニューバランスのミリタリー。

1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに、当時“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。

今回からショップが全て入れ替わって9シーズン目がリスタート。第2打者となる第66回目は「ザ サン ゴーズ ダウン(TheSunGoesDown)」の海野飛竜さん。

Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii


海野飛竜 / TheSunGoesDown オーナー
Vol.66_ニューバランスのUSMC トレーニングジャケット&パンツ

―海野さんにとってのニュー・ヴィンテージとは?

当時の時代背景やデザイナーの歴史、文化的背景などにより現代とは違う当時の天然繊維の使用や独特のデザイン、手作業での縫製などに魅力を感じるこれまでのヴィンテージに対し、産業の発展と技術の進化により高機能化して良質だけどそこまで認知されてない衣類や、日本では話題になっていないが海外では人気の企業モノといった、つまり知ってる人はあまりいないけれどイケていると感じるモノ。これらがニュー・ヴィンテージという存在として、今後残っていくのではないかなと思っています。

―海野さんは一級建築士事務所もされているという異色の経歴をお持ちですが、同業他店と比べて、そういう視点でのセレクトの違いってありますか?

建築設計においては全体のバランスが重要です。出来上がった建物に、家具や什器など色々な要素が入って、そこではじめて完成となります。なので古着屋としても、同じように“全体の色味やバランス感を考慮して、どんなアイテムとも合わせられて、かつ長く着て楽しめる”を仕入れの際にも意識しています。

―多様性に対する順応性という点では、すごく“いま”的な思考といえますね。そこで今回紹介していただくニュー・ヴィンテージなアイテムとは?

アメリカ軍のトレーニングジャケットとパンツをセットアップで用意しました。このジャンルでいえば、 陸軍のIPFUや空軍のPTUなどが人気なのはご存知の通りですが、こちらは1990年代〜2000年頃にUSMC(アメリカ海兵隊)に〈ニューバランス(New balance)〉が供給したものです。

ニューバランスのUSMCトレーニングジャケット ¥12,980(ザ サン ゴーズ ダウン)

これまで同社がアメリカ軍に供給したアイテムとしては、採用されなかった物も含めるとスニーカーやウィンドブレーカー、トレーニングショーツ、トレーニングTシャツ、トランクスなど多岐に渡ります。その中でも、とにかく着心地が良くてオススメなのがこのセットアップ。スポーツ系ブランドだと〈ナイキ(NIKE)〉もミリタリー・コントラクター(軍事請負業者)ですが、市場に出回る全体数ではナイキを上回っているので、比較的入手しやすいかと。

―こういったミリタリーの放出品には、かつて上野アメ横の「中田商店」で安売りされていたイメージがあります。いまってそんなこともないですよね?

そうですね、手に入りやすいとは述べましたが、いまは当時よりもファッションアイテムとして受け入れられたことで人気が高まり、市場でも値上がりしています。そもそもが恒常的に製造されているアイテムではないためタマ数が少ないですし、近年のミリタリー人気もあって需要が供給数を上回っているので、この流れは続くのではないでしょうか。

―なるほど。で、今回紹介してもらうアイテムのポイントは?

先ほど名前を挙げたIPFUやPTUは硬めのナイロン素材を使用していますが、これはとても柔らかなナイロン素材でしかも軽量。生地表面はスイスの〈ショーラー(Scholler)〉の独自コーディング技術であるナノスフィアが施されています。撥水性・撥油性・防汚性と耐久性を有し、メッシュ裏地はアメリカの〈ユニファイ(Unifi)〉製。抗菌作用を繊維に組み込んでいて防臭効果もあったりと、見れば見るほど本当によく出来ているなと。

―さすが軍モノだけあって、機能性抜群ですね。

ジャケットでいえば両サイドのフロントジッパーや、夜間での視認性を高めるために背面と袖に施されたリフレクターパイピング。さらにフロントポケット内には裾の長さを調節できるドローコードも内蔵されていますし…。

そして背中に大きく入った“MARINES”プリントもインパクト大!〈パタゴニア(PATAGONIA)〉のMARSや〈アークテリクス(ARC’TERY)〉のLEAFなどが、実際の軍事行動での着用を想定しているのに対し、こちらはトレーニング用だから目立っても問題ないということで、ロゴが入るのが最大のポイントです。とにかく要素が詰め込まれまくっていて、いい意味でイナタイ感じが逆にいまっぽいんじゃないでしょうか。

―ですね。匿名性を求められる軍モノにあって、この主張の強さたるや(笑)。パンツもイイ感じです。

ニューバランスのUSMCトレーニングパンツ ¥10,980(ザ サン ゴーズ ダウン)

基本的な機能とディテールはジャケットと同じ。なので、セットアップで着てもアリだと思います。もしくは、アウトドアやスポーツ、ミリタリーなどの要素をMIXしたコーディネートをする際にこれらを合わせてみることで、イイ具合に肩の力が抜けた雰囲気も作れます。当然、着心地も期待できますしね。実際、ぼくも趣味の総合格闘技のトレーニング時に愛用していますが、もう他のは着れないくらいハマっています(笑)。

―ファッション性と実用性を兼ね備えているということですね。

やっぱり軍モノって、様々な部隊の活動シチュエーションを想定し、各国が莫大な資金を投入した上で、こだわり抜いて開発・製造されていますからね。優れた機能性と、その機能性を生み出すディティールの数々。その機能性とデザイン性のバランス感が絶妙で、個人的にファッション的観点でも大いに魅力を感じています。これぞまさに“ファッションの原点”なんじゃないかなと。

海野飛竜 / TheSunGoesDown オーナー
2010年にアパレルブランドを設立し、自身のキャリアをスタート。幅広い層から支持を集める下北沢の人気ヴィンテージショップ「ザ サン ゴーズ ダウン(TheSunGoesDown)」のオーナー。アメリカ、ヨーロッパのミリタリーやワークを軸に縫製や、色味、素材感を意識した独自のセレクトでユニセックスに展開。厳選されたセレクトとスタイリングに定評があり、今年で12年目を迎える。また、建築設計のディレクションを多数手掛けるのみならず、以前本連載にも登場した「伊藤商店」「ウェッドストア(WED STORE)」とともにWITとして不定期でイベント運営も。
インスタグラム:@tsgd_tokyo@hiryu_unno

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