1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに、当時“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップが全て入れ替わって9シーズン目がリスタート。第71回目は「アーリートゥエンティ(Early20)」の重光孝詩さん。2巡目では、どんなニュー・ヴィンテージが飛び出すのか。乞うご期待!
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
重光孝詩 / Early20 オーナー
Vol.71_デニム トウェンティフォーセブンのデニムフルジップパーカ
―早速ですが、今回紹介してもらうニュー・ヴィンテージなアイテムは?
その前に、こちらのブランドってご存知ですか?
―〈デニム トゥエンティーフォーセブン(Denim 24/7)〉とタグには記されていますが、正直なところ初見です。日本のブランドですか?
古着ではちょいちょい見つかるんですが、近年のブランドで2000年代ですかね。アメリカのいわゆる“モール系ブランド”で、日本だと「イオンモール」や「ららぽーと」のような大型ショッピングモールで売られているみたいな感じ。これはあくまでもぼくの私見ですが、どこか可愛らしさもありつつ気の利いたディテールが特徴的なようです。
―名前から察するに、デニムアイテムを中心に展開しているのではないかなと。
すいません! 紹介しておいて何ですが、ブランドの詳細が全然分かっていません(苦笑)。ただ、過去に入荷したところでいうとブルゾンなどのアウターが多かったので、パンツ特化ではなく、デニム素材を使ったアイテム全般を展開しているのかも。というワケで今回は、〈デニム トゥエンティーフォーセブン〉のデニムフルジップパーカを持ってきました。
―日本だと「ドン・キホーテ」のようなディスカウントショップや、「ジーンズメイト(JEANS MATE)」のようなアメカジチェーン店で売られている、出自不明の謎ブランドにも通ずるというか。
そうそう、ノリ的にはそのイメージです! 前回もお話ししたように、ウチの店でピックアップしているのは“自分の中で、絶頂に面白い人生を歩んでいる”と思えていた90年代後半〜00年代の空気感をそのままパックされたようなアイテムたち。こいつがまさにソレで。多分、でっかいショッピングモールに友達と学校帰りの制服姿で買いに行くんでしょうね。チャリに乗って。
―あ〜、その画ヅラが想像できますね。ここ日本でも置き換えることができそう。前回は地方都市郊外のヤンチャな大人が着ていそうなアイテムでしたし、そういう意味では着用者やシチュエーションの解像度の高いアイテムと言えますね。
「当時はオシャレだと1ミリも思ってなかったけど…いま考えたら良かったかも」という感覚も共通しています。メチャクチャ普通だけど、ある特定の思い出と紐付くことでアリになるという楽しみ方って、古着ならではじゃないですか。そこがぼく自身の心の琴線に触れるといいますか。
―なるほど。そしてメチャクチャ普通とはいえど、細部における見どころはありそう。
生地表面に凹凸があって、縦落ちしているようにも、細かいストライプ柄ようにも見えるっていうのは面白いですね。ブランド名の通り、オレンジ色のステッチやリベットでジーンズ感を演出している点もポイントかと。
―素材にはストレッチが効いているんですね。
ですね。厚みも程良く、袖と裾がリブになっているので着心地もイイ。春先や初秋など中途半端な時期に着るライトアウターとしてオススメです。絶妙なチープ感も含めて、ぼくの好きな要素がドンズバで詰まっています。
―ザックリ大きめシルエットだし、制服の上にガバッと羽織るのにも良さげ。重光さんは学生時代、そういった着方はしていましたか?
ぼくは、スウェットフーディーをブレザーの上から着込んでいました。学校で目立っているようなオシャレなやつはブレザーの中に重ねていましたが、そうすると腕とかパンパンに膨らんでストレスになるんですよ。高校時代はチャリ通学だったので防寒性優先、見た目は二の次。
―珍しい着方ですね(笑)。
当時からフーディーに対する信頼感がヤバくて。服のディテールの中で「フードが一番格好いい」と、いまも強く信じていますし。なんかフードって、若者の服の象徴って感じありません?
―(笑)。たしかにマンガやアニメなどでも、若者をキャラづけする際の定番記号になっています。またフルジップというのが、最近は完全に下火だったので新鮮。どう着こなすのがオススメですか?
いまだとカーゴパンツに合わせても可愛いと思いますし、チノパンツとかでも渋いですよね。で、足元は〈ナイキ(NIKE)〉の「エア・フォース1(AIR FORCE 1)」とか、ある程度ボリューミーなやつを合わせてみたりして。あとはやっぱり制服のブレザーの上に着て欲しいです。修学旅行で東京に来た学生さんにぜひ! 地元でも浮くことなく自然に馴染むと思いますし。逆に大人の方だったら、いつもの着こなしのハズしとして取り入れると新鮮なんじゃないでしょうか。
―古着業界では、希少性から生まれた古着的価値を尊ぶ人が多い中、あえてのチープ感や大量生産感、ちょいダサ感のあるマイナーブランドを選ぶというスタンスは珍しいですよね。
逆にぼくは、そういった部分にこそ愛おしさを感じるんです。「なんでこんなアイテムを作るの?」という単純な好奇心もありますし、マイナーなブランドやジャンルには、“古着を掘って発見する楽しみ”があります。それにまだ誰も注目していないということは、これからまだまだ新たな出会いが尽きないわけですから、楽しさしかありません。
重光孝詩 / Early20 オーナー
「キューバ(CUBA)」「オツ(OTSU)」「フィフティ-フィフティ(FIFTY-FIFTY)」「コウ(COU)」など複数の古着屋を運営する〈CV〉に入社し、キャリアをスタート。その後、25歳の時に”好きな音楽をかけれて好きなものが目に入る職場で働きたい”との想いから、原宿にて自身が手掛ける古着屋「ビジネスアズユージュアル(BUSINESS AS USUAL)」をスタート。以降、下北沢に「ドンタク(zondag)」を開店。さらに2019年、同地に新店「アーリートゥエンティ(Early20)」オープンし、いまへと至る。また同店は、2023年中に移転を予定している。
インスタグラム:@eeearly20
bau-tokyo-online.com