丸みを帯びたシルエットに惹かれて手に取った〈エルメス(HERMÈS)〉のピーコートに驚いた。背中がまるっとカーフスキンに切り替えられていたのだ。
仔細に観察すれば、ノッチドカラーの裏面やポケットの内側といったちらりと覗く部位にもあしらわれており、カーフスキンが額縁の役割を果たしているのが分かる。
額装されたのはスーパー180’sのコンパクト・ウール。コンパクト・ウールは毛羽が少なく、シルクのような光沢と滑らかな手触りを特徴とするが、このウールはシェヴロン(山型階級章)状に織られており、マットな仕上がりとなっている。撥水性もあり、まさに額縁に見劣りしないウールだ。
キャメルにダークブラウンを挿す色の取り合わせからはノーブルな印象が漂う。今シーズンのカラーパレットを解説するくだりにあった “色彩が豊かに響きあう” という表現がしっくりくる。
襟にセットしたファイヤーマンバックルや隠しポケットも味わい深いピーコートの名は「レクトヴェルソ」。フランス語で “裏表” の意となる。
Photo_Hiroyuki Takashima
Text_Kei Takegawa