東京を拠点に純度の高いストリートウェアを発信し続ける〈ヘルレイザー(HELLRAZOR)〉と、同じく東京生まれ・東京育ちのISSUGI、Mr.PUG、仙人掌=MONJUの3人のラッパーによるHIP HOPレーベル“Dogear Records”。そんな両者が共鳴し、〈ヘルレイザー〉の10周年を記念したフルアルバム『iNNER FLAMES』を完成させ、今月にレコードがリリースされます。2023年11月25日(土)には渋谷の「クラブ エイジア(club asia)」で、〈ヘルレイザー〉の10周年と“Dogear Records”の17周年を祝福するイベントが開催され、そこで『iNNER FLAMES』のセットで初ライブも行われました。
ここでは当日のライブ写真 & 貴重なリハーサルなどの様子と、〈ヘルレイザー〉のTSUMIと『iNNER FLAMES』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたISSUGIとDJ SCRATCH NICEによる鼎談をお届け。東京のストリートウェアとHIP HOPの最新地点は、ここにあります。
Photo_CAYO IMAEDA
Text & Edit_Yusuke Suzuki
ISSUGI
東京都練馬区出身のラッパー・ビートメーカー。ビートメーカーとDJの時は16FLIP名義で活動。ソロだけでなく、MONJUや5lackとBudamunkとのSICK TEAMとしても活動し、最新アルバムは2022年7月にリリースした『366247』。
インスタグラム:@dogear_gram
DJ SCRATCH NICE
DJ・ビートメーカー・プロデューサー。大阪と東京をメインに活動し、数多くのラッパーへビートを提供。数多くの仲間のラッパーが参加した、Gradis nice & DJ Scratch nice名義での『Twice is nice』はDogear Recordsからのリリース。
インスタグラム:@scratchnice
TSUMI
〈ヘルレイザー〉のディレクターでありスケーター。いち早くショーン・パワーズなど海外のスケーターともリンクし、『Rough Criminal』を発表。今回の『iNNER FLAMES』が示すように、東京を中心としてHIP HOPシーンとも深い親交があります。
インスタグラム:@tsumi
10周年のアニバーサリーを祝う、
現時点での集大成のひとつ。
―今回のアルバムの企画は、TSUMIさんからISSUGIさんへ1年半ほど前にオファーされたのがスタートだと、オフィシャルリリースに書いてありました。その時の詳しい状況を教えてください。
TSUMI:たしか、1番最初はうちの事務所で話したんだと思いますね。
ISSUGI:多分ハンバーガー屋ですね(笑)
TSUMI:そうだ、スケートし終わった後に事務所でハンバーガーかなにか食べながらだった、ような…。いや、ハンバーガー屋で話したんだったけな…。
ISSUGI:自分も全然はっきり覚えてないですね(笑)
TSUMI:最初は自分が夢物語的に、こういうこと(ブランドとして音源のリリース)ができたらマジで最高だなみたいな感じで、ISSUGIくんに話しただけで。具体的にどうしよう、みたいな話では全然なかったんですよね。
―そもそもTSUMIさんは、いつから〈ヘルレイザー〉で音源をリリースしたいってあったんですか?
TSUMI:それはブランドをはじめる(※2013年)前の、22歳くらいから興味がありましたね。〈ヘルレイザー〉をはじめた時に、 裏原のブランドとかが仲間のバンドの人たちや、NYのブランドが音源を出していて。そういうのがきっかけのひとつになっているかもですね。
―ISSUGIさんに相談した最初の時点で、DJ SCRATCH NICEさんにもオファーすることは決めていたんですか?
TSUMI:いや、全然です。ISSUGIくんに相談したそのころ、ちょうどテツくん(※DJ SCRATCH NICE)がNYから戻ってきたタイミングだったんですよ。
ISSUGI:TSUMIくんとてっちゃん(※DJ SCRATCH NICE)が仲いいっていうのは知ってたし、TSUMIくんからをこの話もらった時に、てっちゃんと2人でやった方が自分ひとりよりいいものができるんじゃないかなってイメージはありましたね。
―TSUMIさんはどんな流れっていうか、どちらと先に知り合っているんですか?
TSUMI:おれとテツくんがISSUGIくんより先だと思います。テツくんとはNYで、木曜日でしたけ? 火曜日?
DJ SCRATCH NICE:木曜日だね。
TSUMI:毎週木曜日にテツくんがDJをしていたイベントがあって、そこで知り合いました。TOYA(HORIUCHI)といっしょに遊びに行って、紹介してもらった感じです。
―それって何年くらい前ですか?
DJ SCRATCH NICE:けっこう前だよね。2017年くらい?
TSUMI:いやいや、もっと前ですよ。2014年とか?
DJ SCRATCH NICE:その可能性もある(笑)。
TSUMI:ショーン・パワーズがオレの家に2週間いたのが2015年なんですよ。その前だから2013年か2014年だと思います。
ISSUGI:へぇー、じゃあブランドをはじめたころって感じなんですね。
TSUMI:そうです、そうです。服を(NYに)持って行って、テツくんに着てもらって写真撮ってるんで。
―じゃあTSUMIさんとISSUGIさんはいつごろですか?
ISSUGI:まず知り合う前に、CRAMをすごくプッシュしている人たちがいるっていうので知ってて。それっておれ的にめちゃくちゃアツいなと思っていたんです。
TSUMI:たぶん2017年か2018年に、CRAMとテープとTシャツのセットを出してるんですよ。だからISSUGIくんとリンクするのは、それ以降だと思いますね。
それで新宿の「バーニーズ ニューヨーク」で〈ヘルレイザー〉のポップアップをやった時に、ISSUGIくんに出てもらったんですよね。でもISSUGIくんは知り合う前からずっと聴いてます、うちのライダーは全員。
―10年前から音源を出したいという夢がある中、いつごろISSUGIさんにオファーしようって決まったんですか?
TSUMI:ずっとアルバムの構想みたいなのはあったんですど、いつだろう…。でもISSUGIくん以外、特定のだれだれ、みたいなのは考えていなかったですね。“フルアルバムをちゃんと組もう”って言ってくれたのも、たしかISSUGIくんだと思います。フルで全部ビートから選んでイチからつくるっていう。
―ISSUGIさんは最初に話を聞いた時から、すぐイチからフルアルバムをつくろうと考えていたんですか?
ISSUGI:はっきり覚えてないですけど…、そんな感じでしたね。
DJ SCRATCH NICE:ふわっと(笑)
ISSUGI:めっちゃふわっとしちゃってますね(笑)。でも気づいたらこの3人でつくるって体制になってて。
プロジェクトのスタートは
ビートメーカー選びから。
―いつも通り最初はビート選びからですか?
ISSUGI:そうですね。と言うより、まずはおれとてっちゃんでビートメーカーを選ぶところからですね。
DJ SCRATCH NICE:そうそう。
ISSUGI:2人でビートメーカーを決めて、さらにその人たちからビートをもらって、その中から1曲を選ぶ形で。その時期にちょうど2人でライブでツアー(※2022年にISSUGIの9thアルバム『366247』のリリースを記念した全国8都市を回るツアー)まわっていたんで、その要所要所で話したりしながらって感じです。
DJ SCRATCH NICE:そう、ツアーで会って話す時間があって、それがよかったよね。
―『iNNER FLAMES』ってタイトルは先にあったんですか? それとも後?
TSUMI:タイトルは後付けになりましたね。
―タイトルがない中で、コンセプトやビート集めのテーマとかはどうされたんですか?
ISSUGI:〈ヘルレイザー〉はスケートブランドだし、てっちゃんも〈ズーヨーク(ZOO YORK)〉のROC RAIDAがやってるあのミックスの感覚とか分かってるんで、808とかのドラムでBPM遅めの倍で録れるような曲っていうよりかは、もうちょっとなんなんだろう…。あの、ざらっとした感覚っていうか…。
DJ SCRATCH NICE:そうそう、わかるよ。
ISSUGI:3人の共有認識にある、ざらっとしたHIP HOPでまとめたいってイメージがありましたね。
DJ SCRATCH NICE:口にしなくても“こういうのでしょ?”って言う同じ感覚を持っていて。
―リファレンスを出しあうとかでもなく、感覚やちょっとした会話の中でって感じなんですね。
DJ SCRATCH NICE:ぼやっと自分らの中でリファレンスはあるんですけどね。質感とか、メロディーとかの。
ISSUGI:こういうビートがスケートのHIP HOPには合うものだろう、みたいな。それこそ雰囲気とか、そういう雰囲気のビートがあると思ってます。
―ビートメーカーの方には、スケートボードや〈ヘルレイザー〉といったテーマでビートがほしい、みたいなオファーですか?
ISSUGI:〈ヘルレイザー〉とDogear(Records)でALBUMを作りたいからということは話したと思います。それで送られてきた中から、おれらがそれを感じるものを選びました。
DJ SCRATCH NICE:まず送られてきたビートを2人で選んで絞って。
TSUMI:その中から2曲ぐらいを自分も聴くって感じでしたね。
―すごく個人的に気になったのが、16FLIPのビートがないなと思って。
ISSUGI:あー、そうなんですよね(笑)。もちろん入っててもよかったんですけど、やってるうちに(16FLIPのビートがなくても)もう完成してるかなってすごい思ったんで。入れる予定ももちろんあったんですけど、今回は無しで完璧かなって感じです。
―ビートが決まってきたら次にラッパーへのオファーになりますが、それはどのようにオファーするラッパーを決めていったんですか?
ISSUGI:自分が選んだのは今まで面識がある人というか、Dogear(Records)のアーティストがほぼ全てになってます。このビートにこいつら(のラップ)が乗ってたら面白いだろうなとか、今までにまだやってないパターンで聴いてみたいなって感じですね。
―〈ヘルレイザー〉のフルアルバムとなると、スケートやブランドについてリリックを描いてもらおうとか、TSUMIさんと知り合いのラッパーだけで固めようみたいのはあったんですか?
ISSUGI:〈ヘルレイザー〉だからっていうよりか、おれとてっちゃん的に違和感のないラッパーのセレクトにしたいみたいなのが、ちょっとあったかもしれないですね。後はそれぞれの持ち味を活かしてくれればと思っていたので。TSUMIくんのアイデアで、DoofとかEyedressが入ってるんで、そういうところがさらに面白くまとまってるなって。
―結果的に今回関わってるラッパーとビートメイカーの方は、TSUMIさんの知り合いが多くなっていますね。
TSUMI:たぶんISSUGIくんはそんなに気にしてないと思いますけど、流れでそういう風になっていったんだなって思いますね。“これどう思う?”っていう時に出てくる名前は、やっぱり知ってる人だと信頼できたり安心感もあるので。
ISSUGI:今回は〈ヘルレイザー〉とDogear(Records)でこういうのを作ってる、っていうことがそもそものテーマみたいに提示してて、曲の内容に対してこういうのを作ってほしいとかは、特に言ってなかったですね。
―『iNNER FLAMES』はDogear Records名義ですが、制作過程でMr.PUGさんと英雄さん(※ラッパーの仙人掌)に相談とか、聴いてもらったりとかってあったんですか?
ISSUGI:最初にSCRATCH NICEとTSUMIくんとで“こういうのつくろうと思うんだけど”っていうぐらいを話して、2人も信頼してくれているので細かいやり取りはこれに関しては完成までなかったですね。
―なるほど。そしてミックスとマスタリングはAru-2さんです。
ISSUGI:Aru-2が今回ぴったりかなって。ただそれだけのシンプルな理由ですね。
配信でもCDでもなく、
最初はレコードというフォーマットで。
―『iNNER FLAMES』は配信でもCDでもなく、まずレコードでのリリースが1番先です。これも最初から決めていた形ですか?
TSUMI:ずっと昔に自分がDJをしていたこともあってレコードがすきだし、最近またレコードがいいなって思うことが多いんですよ。音の良さだったりサイズだったり重さだったり。物としてしっかりとした物をつくりたいっていう気持ちも込めて、レコードを最初に出そうって思ったんです。
あとあと配信は必要になってくるので配信もするんですけど、まずはコンセプトとしてはレコードのいい音で聴いてもらおうって。あとはレコードだけ先に出した時に、どんな人がどんな反応をするんだろう?っていう興味もありますね。
―レコードのカッティングなどは、どんな形で進めたんでしょうか?
TSUMI:今回お願いした工場はFitz Ambro$eが紹介してくれて。まずは自分が挨拶っていうか打ち合わせに行きました。
ISSUGI:自分はマスタリングの日にいっしょに行きました。データを作った後(工場で)レコードにするときに、そこでさらにミキシングをしてくれるっていうことが分かって。その場で1曲ずつ、色々調整してくれるんですよ。
TSUMI:そうそう、結局全曲やってもらって。
ISSUGI:結構珍しいっていうか、今までそんな経験なくて。
―ISSUGIさんも初めてだったんですね。
ISSUGI:レコードプレスできる場所で、1曲ずつ調整してくれるのは聞いたことなかったですね。ヤバかったです。
TSUMI:(レコードをプレスしてくれた)あのマスターカッターのおじさん、上がってましたよね。そもそも最初は全曲その場で聞いて、その全体に対して慣らしてじゃないけどそれくらいしかやれません、みたいに聞いていたんです。
DJ SCRATCH NICE:結局1曲1曲やらしてくれたんだ。すごいね。
―やっぱりその人の感覚というか加減で音も変わっちゃうってことですもんね。
ISSUGI:自分もリファレンスのレコードを持っていって、“1LPだったらこれくらいかな”とかイメージを伝えながら、“でもこの曲はもうちょっと低音を効かせたいです”とか、こっち側の意見をしっかり聞いて尊重してくれて。そういうことをやってくれる人でしたね。
TSUMI:なんかそこにあるカットの機械が、日本に何個かしかないって話してくれましたね。すごく貴重な経験だったなと思います。
―『iNNER FLAMES』のジャケット、この写真はどなたが撮影したものですか?
TSUMI:これはNYで自分がフィルムで撮った写真で。ショーン・パワーズは〈パレス(スケートボーズ)〉のライダーなんですけど、 そいつ写真に写らないんですよ、まじで(笑)。10回撮って6回綺麗に写ったらいいほうみたいな。日本に来てうちにいた時も、あいつ撮るとともう白いモヤみたいなのが出たりとか(笑)
DJ SCRATCH NICE:どういうこと?って感じだね(笑)
ISSUGI:それは動いてるからとかじゃなくて、人物的に写らない人間ってこと?
TSUMI:ばっちりな時もあるんですけどね。でも室内でも写らないことが起こったり、 なぞなんですよ。で、このジャケットの写真は裏にショーンがいるはずです。結構自分的に好きな写真で、『iNNER FLAMES』ってタイトルにもハマってるなと思って。
―どのタイミングで『iNNER FLAMES』って言葉が出てきたんですか?
TSUMI:ずっと思ってたけどやれてなかったこと、みたいなの何個かあるんですけど、その中の1個がレコードをつくることだったんです。これが完成することによって1個夢が叶う。それをずっと自分の中で“iNNER FLAMES”ってものっていうか概念みたいに捉えているんですよ。ものとして捉えると、あと3個ぐらい(実現したいことが)あるんですけどね。
―曲順はどう決めたんですか?
ISSUGI:曲順は2人で考えたっけ?
DJ SCRATCH NICE:うん、そうだね。
TSUMI:アルバムの(曲の)並びは、“ISSUGIくんにやってもらったほうが絶対いい!”って、最初からテツくんが言ってましたね。
―それはなぜですか?
DJ SCRATCH NICE:エグゼクティブ的な能力があるんですよ、突出して。Puff Daddy的な(笑)。
―ヤバいですね(笑)。HIP HOPはもちろん、音楽はプロデューサーがとても大事だと思うんですけど、ISSUGIさんがいま好きなプロデューサーを3人挙げてって言われたら、だれを挙げますか?
ISSUGI:難しいな…。(しばらく考えた上で)HIT-BOY、BACH LOGIC、DJ PREMIERですね。 ラッパーよりビートメーカーの方が、まとめるのが上手いイメージはありますね。
DJ SCRATCH NICE:その質問は難しいね(笑)。DJ CRUとかWHOO KIDとかもプロデューサーって言えるわけじゃないですか? つくってるわけじゃないけど、エグゼプティブ(プロデューサー)っていう意味では。
―DJ SCRATCH NICEさんは日本に帰ってきて、“このラッパーをプロデュースしてみたいな”って人いますか?
DJ SCRATCH NICE:もちろん何人かいますよ。今ここで名前は言えませんが、いつか実現できたらなって思っています。
TSUMI:レコードの裏にエクゼクティブ・プロデューサーでISSUGI & DJ SCRATCH NICEって入ってるものが、いまこの世にうちのしかない。これってめちゃくちゃヤバいことだと思うんですよ。
DJ SCRATCH NICE:日本のアルバムって、エグゼクティブ・プロデューサーっていうのをあんま書かないですよね。アメリカはめっちゃ書いてある。
―配信になるとプロデューサー名すら載ってることが少ないですもんね。ビートメーカーもあるかないかで。
TSUMI:今回うちらはスタジオまで書いてありますからね(笑)。
ISSUGI:配信でもビートメーカーは絶対載っててほしい。クレジット見て載ってなかった時、Googleで調べてそいつのまた他の曲を聴くってところまでは絶対しちゃうし。
DJ SCRATCH NICE:そうだよね。それは絶対やっちゃう。
TSUMI:自分は全部載っていることがカッコいいと思うので、今回は載せれるものは全部載せましたね。
―レコードのリリースは今月で、配信はいつ予定ですか?
TSUMI:配信は1年後です。
―だいぶ期間が空きますね。
TSUMI:なのでその時にまたなにかつくったり、色々と企画を考えていたりします。レコードはリミテッド500枚なので、どんな浸透の仕方をしてくれるのかが楽しみですね。あと例えば〈シュプリーム(Supreme)〉がJ・ROCCでMIX CDをずっとつくっているように、その間に〈ヘルレイザー〉としての音楽コンテンツを準備できたらいいなとも考えています。
―「クラブ エイジア」でのイベントの前に、大阪と福岡でレコードのリスニング・ツアーを行ったり、クラブ エイジア」の2FフロアではDogear Recordsとのコラボウェアをチェックできるだけでなく、レコードのリスニングができる仕掛けも面白かったです。
TSUMI:自分が知らないだけかもしれないですけど、クラブでレコードのリスニングをやってるの初めて見ましたね。リスニング・ツアーもすごい面白かったですね。
12曲すべてに込められた3人の共通意識がアルバムに。
―最後にそれぞれの曲について少しお聞きしたいと思います。まず1曲目はFitz Ambro$eさんのインストで。2曲目は弗猫建物さんにビートはCedar Law$さんです。
ISSUGI:Cedar Law$の中でもけっこうな数のビートを聴いて選んで、その中で弗猫建物がいいんじゃないかってなって。
DJ SCRATCH NICE:送られてきたビートの中で1番っていうより、この企画に1番しっくりくるかっていう基準ですべて選んでいるんですね。Fitz Ambro$eのもそうで、めちゃくちゃ大量に送られてきた中から選んでいて。
ISSUGI:そうだね。ハンパない量だったね(笑)
DJ SCRATCH NICE:その中で共通意識で“これがいいんじゃないか”っていうのを2人決めて。
ISSUGI:メロウすぎるものもいいかもしれないけど、今回は入れなかったよね。もうちょっとハードにしたいイメージというか。
―3曲目はDoofさんにIll Sugiさんの組み合わせで。
DJ SCRATCH NICE:Doofは元々NYの時にずっと遊んでたおれの友達で。彼はIll SugiとかBudamunkのことを知っていて、めっちゃ(いっしょに)やりたい言ってて。
DoofのRAPはハードなラップっていうよりも、いい意味でもう少しナードよりな感じがあるから合うビートが決まってくるんですよ。それでIll Sugiのビートが1番合うなと思った感じですね。
―4曲目はだいぶテンションが変わるというか、結構おぉって思いました。
ISSUGI:最初に聴いた時にいいなと思いましたね。Eyedressはこの曲と最終的に送ってくれた2曲の中で、おれらが選ぶみたい感じで。
―なるほど。分かりやすく意外性のある曲が、けっこうアルバムの中で早めにくる印象でした。
ISSUGI:これ(曲)が実はすげぇデカくて、アルバムの流れを決めているなっておれは思ってますね。
―5曲目がShinobiさんとEpicさん、ビートがCRAMです。
ISSUGI:たしかCRAMのビートでShinobi & EpicのRAPの曲ってなかったから、自分的にやってもらいたいなって思っていて。
―ISSUGIさんは昔から、それこそブログで書いたりCRAMさんのPodcastに出演したりと、すごくずっとフックアップしてますよね。
ISSUGI:そうですね、単純にセンスよくてヤバいビートメーカーだと思ってるので。それにおれがTSUMIくんと知り合う前から、情報として〈ヘルレイザー〉ってブランドはCRAMのことをかなりプッシュしてるって知ってたので、CRAMは自分と〈ヘルレイザー〉共通の好きな何かを放っているアーティストだと思っているんですよね。
まだ全然知られてない時だったのに、自分以外の人が自分が好きなアーティストを全力で推してる。それって絶対センスとして信用できることなんで、このコンピレーションには当然入ってほしいし2曲やってもらいました。ShinobiとEpicもCRAMのヤバさをわかってくれているから、やっぱりすごいヤバい曲ができたなって思います。
―6曲目がBESさん & ISSUGIさんにScratch Niceさん。BESさんがすごく分かりやすくスケートボードに振ってくれたリリックで、描写がすぐパッと頭に浮かぶ感じでした。
ISSUGI:そうですね、おれもマジで思いました(笑)。好きなんですよね、このリリック。
DJ SCRATCH NICE:たしかにめっちゃいいよね(笑)
ISSUGI:“まぁまだあんな小さい子なのに”の頭に浮かんでくる感じとか、ハンパないです。こんな光景があったんだろうなって、簡単に想像させるが本当にすごいなって思いますね。
―7曲目がGradis Niceさんのインストで、8曲目がKojoeさんにGradis NiceさんとScratch Niceさん。
TSUMI:前にCRAMの曲でISSUGIくんとBESさんとKojoeさんがRAPしている曲があって、「ウェイビー ストア(WAVEY STORE)」の中でMV撮ってるんですよ。その時にKojoeさんは初めましてでしたね。
DJ SCRATCH NICE:自分とGradis Niceがいっしょにやっているのはこの曲だけですね。
―9曲目がMONJUにBudamunkさん、そしてスクラッチがDJ SCRATCH NICEさんです。
ISSUGI:最近はBudaくんとはイベントとかで会ったりするんですけど、3人でBudaくんの家にお邪魔するとかは最近あんまりないですね。昔のBudaくんのミックスに入ってる『Slow Down』って曲とかはジャジスポ(※Jazzy Sport)のスタジオに3人で入ったり。あと『Five Elements feat.MONJU & OYG』もそうでしたね。
―10曲目がDoubleDoubleでビートがCRAMさん。DoubleDouble名義のクレジット、久しぶりに目にした気がします。
ISSUGI:DoubleDoubleがTSUMIくんと仲良くて、〈ヘルレイザー〉の周年イベントとかにも出ていたのもあって、入ってもらったらいい感じかなと思って。
TSUMI:ケビン(※DoubleDoubleのOYG)、三茶に住んでたんで(笑)
―11曲目が小宮守さんと仙人掌さん、それにビートとミックスがIll Sugiさんで。この曲だけミックスもIll Sugiさんですよね? 例えばISSUGIさんの16FLIP名義でリリースした『Atomosphere’22』でも、1曲だけAru-2がミックスを手がけたりと、アルバムの中で1曲だけミキシングを違う人にお願いする理由ってなんでですか?
ISSUGI:今回の弗猫建物とCedar Law$との曲も、弗猫建物の仲間がミキシングまでしてると思いますね。
―あ、本当だ。『MAZE』はミキシングがTAPPO GREENHILLですね。
ISSUGI:ビートメーカーとかラッパーもそうなんですけど、自分たちでミキシングまでやって送りたいって人と、ミキシングも任せるよっていう人たちで別れるんですよね。
Ill Sugiは自分もRAPやってるし、“ミックスまでして送っちゃった方がいいでしょ”っていうのでやってきてくれて。弗猫建物もそういう奴らで、そういうスタイルでっ感じですね。
―なるほどです。最後の12曲目はScatch Niceさんのインストですが、これは最後に締める感じをイメージしてつくったビートですか?
DJ SCRATCH NICE:いや、元々作っていたものの中からISSUGIくんに15、6曲くらいバーっと送って、その中から“これでいこう”ってすぐなって。ハメてみたら明らかにこれはOutroだなって感じでしたね。
―ちなみに今回声をかけたビートメーカーやラッパーの方って、結構コンスタントに連絡を取り合う感じですか?
DJ SCRATCH NICE:それもあれやんな。だからCedar Law$とかめちゃくちゃ連絡取るし。あとDoofも、もちろんGradis Niceも。
ISSUGI:そうだね。そこはもうどっちかが普通に連絡取り合ってる人間っていう感じじゃないですかね。あとはどっかクラブで会ったりとかしますし。
―実際に完成しこうしてレコードになって、ライブもやってみて『iNNER FALMES』に対してどんな気持ちですか?
ISSUGI:おれとてっちゃんで1個のアルバムを作ったことはあるけど、2人で1個のものをディレクションするっていうのはやったことがなかったし、そこにさらにTSUMIくんもいるから面白かったですね。
DJ SCRATCH NICE:その面白さをすごい感じたし、自分のビートをだれかに渡したりプロデュースしたりっているのはあったけど、人のビートを組み合わせてやるっていうことがあまりなかったんで。ISSUGIくんの言うようにそこにTSUMIくんのフレーバーが加わるので、完成した時にすごくいいのができたなって思いましたね。
―TSUMIさんは夢が叶ってどうでしたか?
TSUMI:おれは本当に感無量ですね。レコードをミキシングしてくれたおっちゃんも“これ、いいんじゃない?”って言ってくれてたし(笑)
ISSUGI:言ってたかも(笑)
―それめちゃめちゃいいですね。シンプルにそういうのが、1番うれしいかもしれないですね。
TSUMI:『iNNER FLAMES』にはいろんな要素が入ってると思うんですよ。Dogear(Records)なんですけど、〈ヘルレイザー〉っぽさでちょっと違う方向に持っていけてるっていうか。その感じが 新しいって思ってもらえたらいいなと思いますね。
1月27日(土)にリリースパーティが「マンハッタン レコード(Manhattan Records®)」であって、そこではISSUGIくんとテツくんにDJをやってもらって。そのアフター(パーティ)として同じ日の夜に「不眠遊戯ライオン」でライブとかもあるので、ぜひ遊びに来てください。