1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップが全て入れ替わり、この連載も12シーズン目に! 1巡目のラストとなる第92回目は、5thシーズン以来の登場となる「ヌーク(NOOK)」の木野山 佳之さん。どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
木野山 佳之 / NOOK 店主
Vol.92_Levi’s Slatesのスラックス
ー久しぶりのご登場ですが、今回紹介いただくニュー・ヴィンテージなアイテムとは?
最初にお断りしておきますが、今回のネタに関しては完全にアイテムの雰囲気だけで選んでいるので、ウンチク要素は薄めです(汗)。
ー全然問題ありません! で、スラックスというワケですね。
一見ただのスラックスですが、実は〈リーバイス®︎(Levi’s®︎)〉。1980年〜00年代頭までドレス&ビジネストラウザーレーベルとして展開されていた〈スレイツ®︎(Slates®︎)〉を紹介したいと思います。
ー〈リーバイス®︎〉といえば色々なレーベルが存在していますよね。〈ドッカーズ®︎(DOCKERS®︎)〉なんかもスラックスのイメージがあります。
〈ドッカーズ®︎〉は、オフィスにも穿いていけるカジュアルなコットンチノを提案するチノパンレーベルとして誕生し、現在はスラックスのみならずチノパンやショーツ、デニムパンツ、さらにトップスまでフルアイテム揃うレーベルとして人気ですが、そこに吸収合併されたのが〈スレイツ®︎〉です。170年以上を誇る長い歴史の中で、スラックスのみを作っていたのは多分、このラインが唯一じゃないでしょうか。スラックス全般の魅力としては、合わせやすく汎用性が高いという点が挙げられます。でもだからこそ、古着で探そうとした時に頭を悩ませるのが、選択肢が多すぎる問題。
ーたしかにスラックスの良し悪しって、素材やシルエットなど実際に手に取ってみないと分からない部分が多いかもしれません。
そこで、自分自身の知識とセンスだけでチョイス出来る自信があれば良いのですが、それがないから困ったもの。なんてお悩みの人も「ココのなら間違いない!」という安心感があるのが〈スレイツ®︎〉。と言っても全部のアイテムが総じて格好いいワケではないので、あくまで選ぶ際に有利なスタート地点といった感じには過ぎないのですが。
ーそういえば、「アクションスラックス(ACTION SLACKS)」というのもありましたよね?
1964年にノンデニム素材に、耐久性があるシャープなセンタープレスを施すことで、シワになりにくく実用的なシリーズとして生み出されたのが〈ステイ・プレスト(STA-PREST)〉、通称“スタプレ”。その後継モデルが、名前通りに運動性の高いスラックスである「アクションスラックス」で、〈スレイツ®︎〉はさらにその系譜に連なるのですが、スタプレ自体も現行でリリースされているシリーズというのが、ややこしい話で(苦笑)。要は、そこから〈ドッカーズ®︎〉へと繋がっていったとザックリ覚えておけば良いかなと。
ー了解です(笑)。市場で見つかるアイテムには何かしらの共通点があるんですか?
う〜ん。移行期には股上が浅かったり細めのタイプもあるかもですが、90年代という時代を反映してか、基本的にシルエットはゆとりのあるワタリ幅で太め&股上深めのルーズなシルエットが多い気はしています。素材はアイロンいらずのポリエステル100%が基本。そこにコットンやウールやレーヨンとの混紡もありますし、ノータックやツータックもあったりで、どちらかといえばカチッとしているというよりもドレッシーな印象。
ーバリエーションも多いんですね。このタグには“CLASSIC FIT”、そして“STAIN DEFENDER(ステイン ディフェンダー)”と記されています。
ツータック&太めでドレープの効いたシルエットは、たしかにクラシカル。素材はポリエステルにビスコースレーヨンも入っていて、汚れに強い化繊混紡の生地=ステイン ディフェンダーみたいですね。この生地はドッカーズ移行後にも見られます。
もう一本のタグには、“ORIGINAL FIT”と記されていますね。ウエストサイズが大きいため、やや分かりづらくはありますが、ノータックでレッグラインはストレートっぽい感じ。こちらはポリエステル100%でややカジュアルな趣きで。
ー最近は、若い世代たちの間でこういったスラックスに革靴ってスタイルが多いですよね。これまでもスラックスが流行った時期はあったので、いままたそのタームがきているのかなと。
たしかに多いですね。約20年前の美容師ブームの頃にも流行って、ぼくも好きでよくスラックスを穿いていました。いまと同じように、足元は革靴だったり〈コンバース(CONVERSE)〉の「オールスター」が定番。当時は細めでローライズのタイプを穿いている人も多かった気がしますが、いまはタイトめのトップスにルーズで股上深めが主流。それだけで簡単にオシャレに見えるし、なにより動きやすい。ぼく自身、スケートする時もスラックスを履いていますが、かなり調子イイですよ。
ー木野山さんが話すように、汎用性の高さはスラックスの魅力だと思いますが、これを大人世代が穿いた際にオジサンっぽくなってしまうのを避けるには?
自分のセンスのなさを痛感し、何て答えるのが正解なのかさっぱりわからずなんですが…、たとえばシャンブレーのシャツやデニムジャケットを合わせたりして、ドレスめのボトムスにワークテイストを加味するのは定番。同じようにミリタリージャケットもアリ。またはカレッジもののスウェットにスラックスというのも、カジュアルだけれど品があってオシャレな気がします。あとは最近の気分で、色褪せていたり穴が開いていたりダメージのあるシャツをサラリと合わせるのもすごく格好いいと思うし、こなれた感じも出せるかと。
ースラックスが欲しいけど何を買えばイイのか分からない時も、これで悩まずに済みそうです。
まだこのレーベル自体を知らない人も多いと思うので、指名買いをする人がいないというのも狙い目ですし、「ちょっと他の人は違うモノを」という人にはオススメ。とはいえ先ほども述べたように〈ドッカーズ®︎〉に吸収合併されてしまうので、〈スレイツ®︎〉が見つからなければ、まだ見つかりやすいそっちで同じノリのスラックスを探すのもアリ。あ、でもそれじゃ本末転倒か(苦笑)
木野山 佳之 / NOOK 店主
大学卒業後、紆余曲折を経てスケートボードショップ「ホーク(Hawk)原宿」で約2年間働いた後、古着屋「ループ(LOOP)」大宮店→中目黒店で合計7〜8年間勤め、2011年に独立。自身の古着屋「ヌーク(NOOK)」をオープンし、2015年に都立大学駅徒歩5分の場所に移転リニューアル経て、今年11年目に突入。業界関係者にファンが多く、ジャズのフリースタイルセッションのように、誰もが自分のスタイルで自由に合わせることのできるグッドレギュラー古着&セレクトアイテムが店には並ぶ。
インスタグラム:@nook_toritsudai
公式サイト:https://ameblo.jp/nooker/