1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップが全て入れ替わり、遂に連載は13シーズン目に! 第102回目は、世田谷線沿線は上町にある「BLANK BLACK MARKET」のSinさんの2巡目! 今回は、どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
Sin / BLANK BLACK MARKET オーナー
Vol.102_ローライダーのモーターサイクルジャケット&ジップフーディ&スウェットジップジャケット
―早速ですが、今回紹介いただくニュー・ヴィンテージなアイテムは?
前回は〈ファニー・ファーム(FUNNY FARM)〉を紹介しましたが、今回も同年代のブランドということで〈ローライダー(LOW RIDER)〉を取り挙げたいと思います。
―雑誌でいうと『スマート(smart)』や『アサヤン(ASAYAN)』でよく見たイメージがあります。
両誌ともよく掲載されていたので、1990年代〜2000年代のストリートを知る世代からご存知の方も多いはずです。
―そもそもどういうブランドなんですか?
その説明をするためには「パーヴ(PERV)」というセレクトショップについて話さねばなりません。1994年に、DJ HarveyとDJ Marboのふたりが東京・原宿にオープンさせた同店は〈マルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)〉や〈ジュディ・ブレイム(JUDY BLAME)〉〈フセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)〉などをピックアップし、ロンドンのレイヴカルチャーやユースカルチャーをキュレーションしたような世界観で注目されていました。そこのオリジナルブランドとして1997年に立ち上げたのが〈ローライダー〉です。
―元々、レイヴなど音楽カルチャーがベースにあったんですね。
そうですね。DJ Marboさんは1980年代に渡英し、当時UKにてムーブメントとなったセカンド・サマー・オブ・ラブを実体験し、DJ HARVEYと出会い共演。英国で日本人初のDJとなった人物です。対するDJ HARVEYはハウス、バレアリック、ディスコを軸とするレジェンドDJ。そんな世界的に活躍するDJ2人がキュレーションするショップだけあって、店内にはレコードショップさながらの大量のレコードが販売されていたり、音楽イベントやラジオ配信など、ファッションとカルチャーの融合を体現していた先駆的なブランドだったと思います。
―当時のポジショニングでいうと?
ざっくり“裏原系”として括られていましたが、〈グッドイナフ(GOODENOUGH)〉や〈アンダーカバー(UNDERCOVER)〉のようなロックやアメカジの匂いは感じず、グラフィックもポップアートなどからの引用も多く、shop33のブランドのようなエレクトリックで無機質なイメージで「裏原系?」というふうに感じていました。
―〈ローライダー〉を着ていた人って、他にどんなブランドを合わせていたんですか?
同じくイギリス発の〈サイラス(SILAS)〉とか、サラッとしたクリーンなストリートブランドなんかとミックスしていたイメージといいますか。
―あぁ、なんとなく理解できました。で、今回はどんなアイテムを紹介いただけるのでしょうか?
〈ローライダー〉ではウェアをフルラインナップで展開していましたが、やはりグラフィックが入ったものがわかりやすいと思うので、代表的なアウターとスウェット物を中心に用意しました。
まずは代表的な1着として、モーターサイクルジャケットから。素材はコットン×ナイロンのリップストップ。ブランドアイコンのスター刺繍が左腕に入っていて、フロントはダブルジップ仕様。このタイプはハリスツイードなど素材や細部をイジった、色んなバリエーションが展開されていました。
―すごくシンプルですね。
ワークやモーターサイクル、ミリタリーなど無骨で重厚感のあるモチーフを素材やディテールで“クリーン” “ミニマル” “スポーティー”にアップデートするっていうのが当時のトレンドというか定番手法で、これも同じニュアンスですね。ただしそこはメイド・イン・ジャパンなので、つくりはしっかりしています。
―続いてはスウェット物。まずはジップフーディから教えてください。
スウェットに関しては、サーマル裏地を張ったヘビーオンスな生地を使用しているというのが共通項。オリジナルボディで〈キャンバー(CAMBER)〉の「チルバスター」的な。フロントのロゴグラフィックはフロッキープリントで、フードにはお馴染みのスター刺繍。リブもがっつり太くて、まさにアウター感覚。これはぼくの想像ですが、DJがつくっている服なのでクラブでの着用を想定していて、こういった厚手のフルジップスウェットなら、外でも中でもどっちでも着れるよねってノリなんだと思います。
―たしかに、かなりのヘビーオンス。で、こちらのスウェットジップジャケットもやはりシンプル。
ですね。フロントのロゴグラフィックはフロッキープリントで、フードにはお馴染みのスター刺繍。リブもがっつり太くて、まさにアウター感覚という以外はサッパリしているというか。高校時代にバイトしていた地元のセレクトショップで、ぼくも〈ローライダー〉を制服のような感覚で着ていましたが、正直パンク少年だった自分的にはイマイチで渋々着ていたって感じではありました。それが、いまこうして改めて手に取ってみると「いいもの着てたんだなぁ」って(笑)。
―いまになってわかる良さ(笑)。やはりロゴグラフィックが人気だったんですか?
当時のファンクやハウスのレコードジャケットなんかに見られるようなフォント使いだったりで、ロゴグラフィックは何種類か存在していて、、Tシャツやフーディだけでなく、多種多様なアイテムに採用されて人気でした。中でも1番ベタなのがこちら。“LOW RIDER”の頭文字の“L”と“R”を“!”で挟んでいる定番デザインです。
―プリントはフロッキーなんですね。
ここのブランドはプリントにこだわっていて、中にはラバーインクもありますが基本的にはフロッキー。今回用意したもう1着はリフレクタープリントですね。この2着は背中に、反骨精神や自由の象徴として当時人気の高かったチェ・ゲバラのシルエットがデザインされています。
―こう見ると、たしかに前回の〈ファニー・ファーム〉とは毛色が大きく異なるなと。
引き算的なデザインですよね。そこにリフレクター仕様だったり、クラブユースを意識したディテールを加えるという、大人が着られるストリートブランド的な。前回お話ししましたが、モノに対する見方や捉え方を着る人自身に委ねる“余白を持たせる”ように意識し、当時の落とし込み方をまんまトレースするのではなく、現代のブランドや着方とのリミックスをウチの店では提案しています。その上で、裏原宿ブランドのようにカルチャーとして後世に残していきたいアイテムと、まだ今の段階では価値が見出されていないけど面白いアイテム。この2つがウチの考えるニュー・ヴィンテージなので、この〈ローライダー〉もまさにそこなんじゃないかなと。
―しかもどれも状態がすごく良いなと。古着市場に出てくる際も、大体こんな感じですか?
いえ、それが逆で。クラブウェアの感覚なので割と着込まれていて、リブも伸びたり焼けたり裂けてしまっているのが大多数。しかも時代的にサイズは小さいものがほとんど。なので逆説的に大きなサイズ=あまり着ていなくて状態も良い。ってことになります。
―90年代〜00年代のストリートブランドが古着で再評価されている中、裏原宿という文脈から離れているからこそのスタンドアローンな世界観が非常に興味深く、この記事で〈ローライダー〉を知って掘る人も出てきそうですね。
前回もそうでしたが、ファッションを通してそれ以外のカルチャーと触れるきっかけになると嬉しいですね。今回用意したのは大きめサイズですが、それでもいまの感覚だとビッグシルエットというほどではないですし、着てみると独自のカッティングが施されたシルエットはモードに捉えることもできるので、ボトムスはきれいめのウールスラックス、足下はレザーシューズと合わせたりと、モードを取り入れたミクスチャー感覚で着ると面白いのかなって思います。
Sin / BLANK BLACK MARKET オーナー
販売から企画生産までひと通りの仕事を経験し、アパレル歴は約16年。オンラインからスタートし、2023年11月11日に、モード・ストリート・アメカジ・ミリタリー…ジャンルレスにディテールやサイジングにこだわった“少し捻くれたアイテム”をセレクトすると同時に、古本やビールを交えてカルチャーを体験できるコミュニティストア「BLANK BLACK MARKET」の実店舗をオープン。2024年11月11日で1周年を迎えたばかり。
インスタグラム:@blank_blackmarket
公式サイト:b-blackmarket.stores.jp