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【FOCUS IT.】野村訓市とナイジェルグラフが選んだ、メガネが似合う108人。『ONE HUNDRED EIGHT CLUB』の知られざる製作秘話。

先日発売された作品集『ONE HUNDRED EIGHT CLUB』はもう手に取りましたか? これは、クリエイティブディレクター・野村訓市さんが選ぶ“メガネをかけた”著名人108人を、ナイジェルグラフさんが軽快なタッチで描いた一冊。3年という制作期間、二人が手塩にかけたこの本にはどんな想いが込められているのでしょうか。完成までのエピソードとともに、根掘り葉掘り聞いていきましょう。

Photo_Hideaki Nagata
Text_Kana Yoshioka
Edit_Amame Yasuda


PROFILE

野村訓市
クリエイティブディレクター

「TRIPSTER INC」代表としてインテリアデザインを手がける傍ら、エディター、ライター、デザイナー、ラジオパーソナリティとしても活動中。さまざまなカルチャーの分野で世界的に活躍するクリエイティブディレクター。
Instagram:@kunichi_nomura

PROFILE

NAIJEL GRAPH(ナイジェルグラフ)
アーティスト

東京を拠点に活動するアーティスト。イラスト、コラージュ、⽴体など様々な作品を制作。ビースティ・ボーイズのオフィシャルグッズや海外映画のオフィシャルポスターを⼿掛けるなど、グローバルな作品コラボレーション活動も展開。国内での個展に加え、アジア、北⽶、ヨーロッパ等、各地で展覧会を開催。〈アディダス オリジナルス〉、〈ニューバランス〉、〈アンダーカバー〉をはじめ、アパレルやライフスタイルブランドなどグローバル企業とのコラボレーションプロダクトの展開も⾏う。
Instagram:@naigelgraph


互いのリスペクトが共鳴した一冊に。

ー 今回の企画は、何がきっかけで始まったのですか?

野村:ぼくが「EYEVAN Tokyo Gallery」の内装を手がけたのがきっかけです。その店の形は細長くて、ファサードもないし、つくるのが難しいなと思っていたんだけど、メガネの販売だけじゃなくてギャラリーも併設した方がいいなと考えついて。そこで、せっかくならメガネと関連する絵を展示したかったので、ナイジェルさんに描いてもらおうと思ったんです。

ナイジェル:そうでしたね。

野村:いざ頼んだら二つ返事で承諾してくれて。サングラスやメガネをかけている著名人のポートレートを描いてもらいたかったんだけど、たくさんいるからひとりには絞れないじゃないですか。最初はいろんなひとを並べてみて、これなら続けていけそうだねっていう話になったんですよね。

ー訓市さんは、今回の取り組みのお相手になぜナイジェルさんを選んだのでしょう?

野村:やっぱり、作風が好きだからかな。 こういう言い方すると失礼かもしれないけど、ちょっとヘタウマみたいな。似ているけど似ていない感じ。ただ似ている絵ってネットで探せばたくさん出てくるんですよ。それに、いまはAIだって描けるじゃないですか。だから、自分の視点で描くのって難しいと思うんです。でもそれをナイジェルさんはやっていますよね。あとは、描くものに対してすごく愛情を感じるし、趣味趣向がしっかり出ていて、ちゃんと自分の作品として描いている。それがアーティストとして素敵だなと。

ナイジェル:うれしいお言葉を本当にありがとうございます。

野村:たとえばスパイク・リーなんかは、この中で一番似ていないと思う(笑)。でもナイジェルさんの視点で特徴を掴んで描かれているから、ちゃんとスパイク・リーに見えるんですよね。

ナイジェル:今回の企画を実現するなら、たくさんのひとを描きたかったし、そもそも本をつくりたいと言い出したのはぼくだったんです。

野村:ナイジェルさんが「やるならたくさんのひとを描きましょう。それでぼくが本をつくるんで。」って言い出して。最初は「本当に!?」って思いましたよ。

ー この本では、メガネをかけた人物を108人紹介していますが、その数字にこだわった理由はあるのですか?

野村:ガス・ヴァン・サントが、キャスティングしたひとたちのポートレートをポラロイドで撮っていて。彼はそれを全部プリントして『108 PORTRAITS』という写真集を出していたんです。その写真集には、『マイ・プライベート・アイダホ』のリバー・フェニックスやキアヌ・リーヴス、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーなんかのポートレートが載っていて、個人的に好きだったっていうのと、人間の煩悩の数とリンクするっていう理由で108人に決めました。

ナイジェル:その話を聞くとなおさら「108人いないと!」と思いましたよ。

野村:108人も人物を考えるのは、面倒くさかったんだけどね(笑)。

ナイジェル:そうですよね(笑)。

野村:その108人には、アーティストだけじゃなくて起業家、建築家など、いろんな分野から選びたいなと思いました。なかでも自分たちが影響を受けたひとたちじゃないと。でも挙げるときりがないから、アイコニックなメガネをかけたひとたちを中心にセレクトしています。たくさん考えないといけないのでなかなか大変でした。ナイジェルさんに「このひと、どう?」と言っても「いいですね!」としか言ってくれないので(笑)。

ナイジェル:だって、本当にいいじゃないですか!

野村:で、ぼくが考えた人選をナイジェルさんに投げてたら、この108人の絵が上がってきました。

ナイジェル:最初の7人くらいは描くのにものすごく時間がかかっていたんですが、徐々に早くなっていきましたね。本当にお待たせしすぎてしまっていたので、描けるタイミングで気合い入れて制作しないとと思って一気に仕上げた感じです。

ー最初の方に完成したのは誰でしたか?

野村:ビル・エヴァンス、アレサ・フランクリン、オードリー・ヘプバーン、トム・ウェイツ、あとチェット・ベイカーとマイルス・デイビスでしたね。メガネといわれて、まず思い出すひとだったのかもしれません。

ーなるほど。メガネをかけている姿がアイコニックになっていて、誰もがピンと来る人物となるとなかなか絞られますよね。

野村:そうなんですよね。いわれてみれば確かにメガネかけてたなってひとはいるでしょ。スティーブ・ジョブスやキース・ヘリングなんかそうですし。ナイジェルさん、メガネをかけたひとの絵をこんなにたくさん描いたことないでしょ?

ナイジェル:ないですね。訓市さんはぼくの絵に関してはまったく口を出してこないので、逆にこっちが心配になってしまいました。これで大丈夫かなって。

野村:だって、自分の作品にあれこれ言われるのって嫌じゃん。

ナイジェル:そこら辺を訓市さんは分かってくれているので、本当に楽しかったです。


人生に影響を与えてくれた108人。

ー訓市さんの後ろには、ジェイ・ZとJ・ディラの絵が見えます。

野村:J・ディラは亡くなってしまったけど、自分が歳を取っても聴き続けると思うんです。そういうひとは絶対に入れたいなって思って。エイフェックス・ツイン、トーキング・ヘッズ、トム・ウェイツ、スティーヴィー・ワンダーとか。逆に、このなかには自分が若い頃めちゃくちゃ好きだったけど、いまはそんなに聴いてないアーティストもいるんですよ。たとえば、N.W.A.のイージー・イーなんかはものすごく影響を受けたけど、今年はまだ一回も聴いていない。ただ、初めて知ったときのインパクトはすごかったよね。

ナイジェル:本当にそうですよね。

ーナイジェルさんにとって思い入れのある人物は誰でしょう?

ナイジェル:ぼくは、ルー・リードですかね。実は、訓市さんと初めて絡んだのはラジオ番組だったんですが、訓市さんが番組を始めて少し経ってぐらいの頃に、ぼくはリスナーとしてルー・リードに関するメッセージを送っているんです。

野村:やば! 知らなかった(笑)。

ナイジェル:そのときたしか「ニューヨークの街でルー・リードの『Walk on the Wild Side』を聴いたらどういう気持ちになるか確かめに行った」っていう内容を送りました。 それをたまたま訓市さんに読んでもらって、めちゃくちゃうれしかったことを覚えています。

野村:まじか。全然気がついていなかった(笑)。

ーそのほかに影響を受けた方はいますか?

野村:トーキング・ヘッズも神様みたいな存在。ニューヨークに行くと朝まで遊んでることが多いんですが、閉店間際に『This Must Be the Place』っていうトーキング・ヘッズの曲がかかることがあるんですよ。その時間がなんかすごい好きで。あと、エイフェックス・ツインは、曲が出る度に音が違っていて、本当に天才。ぼくはテクノ界のジミ・ヘンドリックスだと思っていますよ。ジミヘンはモーツァルト並の天才と言われていて、エイフェックス・ツインもテクノではそれぐらいすごいひとだよね。

ーそれぞれのアーティストの背景を知ると、よりおもしろいですね。

ナイジェル:掘っていったら、語り尽くせないような人々ばかりです。次はそれを訓市さんが本にするとかどうですか? それ、めっちゃ読みたいですよ。

野村:伝記作家じゃないんだから(笑)。もちろん、この108人のなかにはアンチヒーローみたいなひともいますよ。でもアンチ=絶対嫌いってわけじゃなくて、こうやってみるとやっぱり偉大なひとだなって思います。


あの頃夢中になった『週刊少年ジャンプ』が着想源。

ONE HUNDRED EIGHT CLUB ¥10,000

ー今回の作品集『ONE HUNDRED EIGHT CLUB』の体裁は少し特殊ですよね。

ナイジェル:ぼくが子供の頃に読んでた『週刊少年ジャンプ』をイメージしています。ハードカバーで制作する方が普通だし、安い場合もあるんですが。それでも、自分が本当につくってみたいなと思うものを改めて考えると、影響を受けた『ジャンプ』や『ヤンマガ』、『ドラゴンボール』や『スラムダンク』みたいなものでした。だから、表紙の紙はあえて薄いものを選んだり、ポスターをつけたりして寄せています。この本も漫画みたいに、ページをめくる毎に「このひとだ!」「こうきたか!」みたいな感じで楽しんでもらえたらいいですね。

アートピースセット(作品集、作品証明書、風呂敷、ステッカーシート、白手袋、木箱)¥20,000

ナイジェル:こちらのスペシャルエディションは、日本人が「つまらないものですが」と言いながら渡す手土産をイメージしてつくっています。 歳をとるにつれて、日本の古き良き文化にも魅力を感じるようになってきて。風呂敷や、茶器が入っているような桐箱風のものを選んでいるのもそういった理由です。その中には、手袋、シール、作品証明書を入れて、どこかチープな感じも加えたかったんです。

ーナイジェルさんらしいアイデアですね。

ナイジェル:自分が納得がいくものをつくるのはもちろん、訓市さんにも納得してもらわないと意味がないなと。本は一生残るものだからこそ、自分の気持ちに正直に向き合いたいと思いました。

ー今回の制作を通して、お二人が考えたことを教えてください。

野村:メガネだけは、流行りを気にして選ぶものではないなと思います。顔の形とか鼻の高さとかいろいろあるから、そのひとに合うメガネをかけるのが一番ですよね。ブランド名だけで決めちゃうひとも多いと思うけど、ある程度の目星をつけたら、かけやすいメガネが一番自分にとっていいメガネだと思うから。だって、カート・コバーンが好きで同じようなメガネをかけても、似合わないひともいるでしょ? だから真似するんじゃなくて、自分のことを理解して似合うものを見つけることが大事。『ONE HUNDRED EIGHT CLUB』の中には、こんな風に歳を取りたいなって思える素敵な人々がたくさん載っていますよ。

ナイジェル:作品集の奥付けにも書いてあるんですけど、そこに今回のコンセプトが詰まっていて。訓市さんは、ただ“メガネをかけた人を描いた作品集”をつくりたかったわけじゃないんです。この本に載っているヒーローたちを、なぜぼくらがヒーローだと思うのか。問題だらけのこの時代に、改めて偉人の素晴らしさを振り返って、次の世代に繋げたいという訓市さんの考えに、ぼくは強く共感します。

INFORMATION

EYEVAN Tokyo Gallery

会期:〜6月30日(月)
住所:東京都港区南⻘山5-13-2
時間:11:00〜20:00 火曜定休
取扱い内容:作品集の原画、関連グッズ(Tシャツ、トートバッグ、ポストカード他)
公式インスタグラム

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