鯉斗さんはお酒がお好きと伺っています。どんな場所で、どんな人たちと飲むことが多いですか？

Koito そうですね。お酒は大好きです。いろんな場所でよく飲んでいますが、我々噺家は打ち上げが多いですからね。落語会では、初日、中日、楽日に打ち上げへ行くのが決まっていて、師匠たちや仲間と一緒に、ああでもない、こうでもない、と落語について話しながら飲んでいます。みんなお酒が好きなんですよ。

鯉斗さんは、どんなお酒が好きですか？

Koito ハイボールが好きなんです。口あたりがいいし、口の中をクリアにリフレッシュしてくれるから、ハイボールを頼みます。

ラジオでは、三遊亭 小遊三師匠とのエピソードを例に、気遣いの大切さについてお話をされていました。鯉斗さんは、昨年真打に昇進されましたが、前座・二ツ目・真打と階級によって気遣いはどのように変わりますか？

Koito まず、前座は、打ち上げの席で、まだお酒を飲んじゃいけないんですよ。先輩方にお酌をしたり、お酒を作ったりするのがお仕事。当然、僕も前座のときはやっていました。二ツ目になると、前座さんの補助になります。自由にお酒を飲めるんですけど、まだ修行の身。前座さんの手が足りていないところを補います。そして、真打に昇進すると、師匠たちと同じ階級になるので、対等にお話させていただけるようになります。もちろん、気を遣いますけどね（笑）。

師匠たちと一緒に飲むと、学ぶことが多そうですね。

Koito 僕が生まれる前から噺家をやられている師匠たちなので、絶対的な存在です。僕が70歳になったときの、噺家としての在り方や姿勢を見せてもらっています。

収録で披露された師匠である瀧川鯉昇さんのお話から、お互いの信頼関係が目に浮かびました。師匠とは、どういった存在でしょう？

Koito 肉親の親父と一緒です。本名は小川直也なんですけど、その親父じゃなくて、瀧川鯉斗の親父。

鯉昇師匠以外に、小遊三師匠や春風亭 小朝師匠の存在も大きいですよね。

Koito 僕は本当に恵まれていると思います。鯉昇師匠以外に、小遊三師匠や小朝師匠といった、すでに完成されてらっしゃる師匠たちに教えていただいていたので、他のスパイスも効かせながら成長できたと思います。歳の近い仲間たちとだけつるんでいたら、自分のほうが先に売れたいからって、足の引っ張り合いになっていたかもしれませんし。

弟子入りをした鯉昇師匠の、どういうところに憧れていますか？

Koito 師匠は、もちろん噺のテクニックがあって、笑わせることに飛び抜けているので、前座・二ツ目の修行時代に学ぶことが多かったです。昨年、真打に昇進したので、今は“瀧川鯉斗とは”というところを伸ばしている最中です。だから今は、師匠に教わった噺を、師匠の前ではやらないようにしています。なぜかというと、師匠には敵わないから。真打になって、そういうことを考えるようになりました。

師匠とは別の方向性で、自分らしさを伸ばしていくということですね。

Koito 師弟関係は変わりませんので、師匠は僕の高座を見てくれていますし、親心としての心配事を飲みの席で言っていただくこともあって、ありがたいです。二ツ目までは噺を学んだり、どういう落語会を開催したりするのがいいのか教わる期間でしたが、真打に上がると、急にと言っていいほど、環境や考え方が変わりました。

真打に昇進して1年以上経ちましたが、他に心持ちが変わったことはありますか？

Koito 高座での責任感が変わりました。勉強している場合じゃないし、今まで培った噺でお客さんを楽しませる責任があります。前座・二つ目のころ、小遊三師匠の独演会で前方（まえかた）をやらせていただいたとき、お客さんにまだ稽古中だと感づかれて全然ウケなくて。それを舞台袖で小遊三師匠が見ていて、「お前のケツ拭いてこないとな」って高座に上がって行ったんですよ。小遊三師匠もスベっていましたけど（笑）。……嘘ですよ（笑）。きっちり笑いをとっていました。

（笑）。では、どうすれば、師匠である鯉昇さんを超えたという実感が湧くのでしょうか？

Koito 師匠とまったく違うネタをやって、お客さんを満足させることですかね。師匠がやらないような、瀧川鯉斗のカラーを十分に出したネタをお客さんに提供すること。ですけど、それだけじゃなくて、僕が50、60歳になって、師匠から何十席も学んだ滑稽噺が似合うと言われるような人相になったら、師匠を超えたと言えると思います。

真打は弟子をとれますが、弟子が入門してきたら、どんなことを教えていきたいですか？

Koito 鯉昇師匠やお世話になった小遊三師匠、小朝師匠の教えを、そっくりそのまま同じ言葉で教えたいです。僕が前座に入ったばかりのころ、小遊三師匠から、「凶暴な目をしているな。芸人がそれじゃダメだ。常に笑っていなさい」と言われたことが印象深いです。

噺家として、落語界にどのように貢献したいですか？

Koito 　（三遊亭）遊雀師匠に、「鯉斗くんは、落語界を引っ張っていかなきゃいけないからね」って言われたことがありますし、小遊三師匠には、「俺の目が黒いうちに、なんとか成れ」と言われたこともあります。それを裏切らないように、いろんなことに挑戦して、落語を広めていきたいです。テレビとかにも出演させてもらっていますが、僕はタレントじゃないので、ずっとテレビに出続けたいというより、落語を知らないお客さんを寄席に呼ぶのが、僕の使命だと思っています。

落語は、歳を重ねるごとに、深みが増していく芸だと思います。それは、ウイスキーと似ている部分があるのではないでしょうか？

Koito 確かに。ウイスキーも若いとキリッとした味ですよね。若いなら若い良さがありますし、歳月を経ることで味わいが増しますね。

ラジオの収録で、瞬時に人が変わる芝居の仕方や間の取り方を深掘りしているとおっしゃっていましたが、それが噺家としての深みにつながりますか？

Koito それは技術であって、深みとはまた違うんです。

芸の技術と深み、どう違います？

Koito 深みは、人として在り方。技術は稽古で磨けますが、深みは人生が物語るんじゃないですかね。

なるほど。では、深みを増して熟成するためには、どうすれば？

Koito 噺家はこういうものだという、師匠たちからの教えを日常生活で実践していれば、自然と身に付くと思います。そういう環境にいますからね。例えば、大工さんになりたいなら、大工さんの環境にいれば、職人に染まっていくはず。その環境に居続けることが大事だと思います。

初歩的な質問ですが、落語に興味が湧いたらどうすればいいですか？　やっぱり予習は必要？

Koito 寄席に来ていただくのが一番いいと思います。寄席には14人くらい出演するんですよ。例えば、最初は僕を目当てに来てくれたとしても、他の師匠たちの噺を聞いて、好みの噺家を見つけてもらいたい。僕らは料理なんです。僕がハンバーグだとしたら、15分間ハンバーグを味わってもらう。別の噺家がパスタだとしたら、15分間パスタを味わってもらう。堅苦しく考えず、気軽に、好きな料理を見つけてもらえればいいと思います。

それでは恒例の質問です。ジョニーウォーカーのボトルには前を向いて歩いている人が描かれていて、それは人と支え合いながら常に前進するという意味を持ったコンセプト“KeepWalking”が表現されています。鯉斗さんは、“自分の可能性を広げていく”ためにやっていることはありますか？

Koito 落語をやり続けること。それに尽きます。いただいたお仕事は断らずに、必ず一度は受けるようにしているんですよ。それは、大師匠の春風亭 柳昇の教えで、鯉昇師匠から受け継ぎました。一度現場を見てから、良し悪しの判断をしなさい、と。

物事は、悩むより即決するタイプですか？

Koito なるべく早めに決断をしたいです。深く考えることも大事ですが、瞬時に判断する能力も大事だと思います。必要とされるのであれば、いろんなお仕事を積極的にやっていって、落語のおもしろさを広めていきたいです。