Boolog A Go-Go!
石光 史明
VISUAL CONNEXION C.E.O
NY発のヴィジュアル誌、VISIONAIRE<ヴィジョネアー>の日本総代理店を営んでいますが、最近はもっぱら映画鑑賞家として「つぶやいて」います。昨年は自腹観賞232本! 今年も観まくるぞぉ~♪
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It's... It's my heart...
2011.04.23
「明日は時間通り始まるから」。
今から23年前、当時の「ファッション通信」のプロデューサーで現WWD編集長の山室さんに教えてもらった事のうちのひとつ。そして、それはまるで毎年1月と7月にインターコンチネンタルホテル(現:Westin)の同じサロンで時間通りに執り行われる儀式のようでした。
1週間におよぶオートクチュールの最後を飾るのは、今世紀を代表するクチュリエ、イヴ・サンローランのオート・クチュールのショーが行われる日でした。
僕はと言えばまず早朝から三脚を持ってカメラの場所取りが先でしたが、夢にまで見たサンローランのクチュールが間近で観られるのですから、朝6時だろうが何時だろうがどこ吹く風。前日からガムテープでバミった場所に三脚をセッティングしたらあとはひたすら待つだけ。
でも時間が経つにつれ、モデルや照明、セットの飾り付けに勤しむフローリストやアタッシュドプレスと、この日のために頑張ってきた人たちが一同に会し、最後の仕上げに向けて奮い立つ姿に感銘を受け、関係ないこちらまで興奮したものです。
そして無事にクルーも入り、ひと安心したのも束の間。
今度は自分が観る場所の確保です(笑)。
とりあえずそこら辺に座ってれば大丈夫だよなんて気軽に言われたものの(結構招待状を受け取って来ない人っているんです)いつ来るかわからない相手の事を考えながら、誰も来ない事を祈りながらもとにかく緊張したのを覚えています。
そして会場の明かりが落とされ、カメラマンたちの感嘆の声が聞こえると同時に音楽が始まり、一人目のモデルが出て来たのでした...
これは決してサンローランの軌跡を記したドキュメンタリー作品ではありません。
長年のパートナーであるピエール・ベルジェ氏との間に育まれた、二人の人間の尊敬と愛情が入り交じった、ほかに比較するものがないくらいピュアで真っ直ぐなラブストーリーです。
始まってからすぐに涙がこみ上げてきました。
それは、あの最初のクチュールを観わったあとに終鳴り止まないスタンディングオベーションの中、あまりの感動に流した涙の続きのように...
正直7割方泣いてたんじゃないですかね、自分。
初めて訪れた際にあまりの気品溢れる佇まいに感動した Avenue Marceau のアトリエも、誰も出資しなかったが故に資金がなかったから目抜き通りに構える事が出来なかったなんて、想像もしていませんでした。
ただ何よりも出会ったその日から、最後を看取るその日までの記憶の鮮明さ、几帳面というよりもそれほど愛情をもって接していたのが痛いほどにわかりました。それは何よりも彼の事を必ずフルネームで、敬意を表して呼んでいた事でわかるでしょう。
そして、あんなにまで思い出の詰まったものを処分するなんて、とても真似できる事ではないはず。だれもが思い出に浸ろうとする中で、キチンと最後まで自分の手で見届けたいという思いはもはや単なる愛を超越しているでしょう。
僕が7割方泣いていたのには、別の理由もあります。
それはあるシーズンのクチュールショー終わりのバックステージ取材の際に、大内順子さんがサンローラン本人に「あなたにとってオートクチュールとは?」と咄嗟に質問した際の事。
「It's...」と言ったきり物思いに耽るかのように熟考し、時間が過ぎる中、ベルジェさんやスタッフが手を差し伸べようと近づこうとした瞬間に彼が発した言葉...
その瞬間、我々取材陣はおろか、周りのスタッフからも拍手が沸き起こったのは言うまでもありません。
そして、今でもこの事を思い出すだけで、実際今この瞬間に文字にしているだけでも、胸がジーンとして目頭が熱くなってしまいます。
It's...It's my heart.
そう言った彼の声が耳の奥にずっと響いているかのようです。
勝手なノスタルジーなのですが、この作品を観ていると何かあの頃頑張って取材を続けていた事へのご褒美のように感じてしまったのかもしれません。とても個人的な事で申し訳ないのですが、でもそれ以上にこのとても個人的な作品を世に送り出す決意に心から感謝したいと思います。
僕が大好きだったファッションというものを思い出す事ができました。
何かベルジェ氏のが発していた開場前やバックステージでの近寄りがたいオーラの理由が、ほんの少しですがわかった気がします。それは今思えばまるでジャングルの真ん中で子供を守るライオンの母親のように深い愛情で外敵から守っているのと同じだったのかもしれませんね...
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