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小嶋享County Line Showroom代表元フリーライター、現在「County Line」ショールームの管理人。19年ぶりの日本に戸惑いながら、恵比寿にアメリカンスタイルのショールームをスタート。毎年2月にカリフォルニアで開催されるヴィンテージファッション・イベント「Inspiration」のメディアディレクターも兼務。www.countyline.jpinspirationla.com

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小嶋享
County Line Showroom代表
元フリーライター、現在「County Line」ショールームの管理人。19年ぶりの日本に戸惑いながら、恵比寿にアメリカンスタイルのショールームをスタート。毎年2月にカリフォルニアで開催されるヴィンテージファッション・イベント「Inspiration」のメディアディレクターも兼務。

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カリフォルニア回顧録:アメリカから最も遠い国キューバ④ 〜出国編〜

2013.09.25

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ネ〜クスト!

ぴーーーーーーーんと張り詰めた空気。響き渡る高圧的な言葉。

そう、ここはアメリカ入国審査場。

キューバを出国し、メキシコシティを経由して、ロサンゼルス国際空港に降り立った。そして、入国審査の列に並んでいる。

経験者なら分かると思うが、アメリカ入国審査はかなりドキドキする。
後ろめたさがなくても顔面が強ばる。
後ろめたさがあると顔面がフリーズして、レインボーマークがクルクルまわりだす。しかし、こんなところで強制終了されるわけにはいかない。

ここは自由の国アメリカでしょ? エディ・マーフィーのような笑顔で「Welcome to America! Wow!」と迎え入れてほしいが、そんな入国審査官はここにはいない。"アメリカに入れてやってる感"がヒシヒシと伝わってくる。入国審査官はかなりの権力者だ。

アメリカ在住者がキューバを訪れるリスクについては入国編に記した。決して足跡を残してはいけないことも。

なーのーにー

俺のパスポートにはキューバ入国の足跡がくっきりと残ってしまった。

キューバに入国した日に、ジャーナリストビザが必要と急に言われ、役所で提出したパスポートが手元に戻ってきたのは帰国の朝。たぶん、いやほぼ間違いなく軟禁だ。「ビザスタンプはパスポートに直接押さないように!」と何度も念を押したのに、パスポートにクッキリと直押しされたビザスタンプ。万事休す。

このスタンプを入国審査官に見られたら、怒られる。どころの騒ぎじゃない。入国拒否もあり得る。まずい。

バックパックには勢いで買ってしまったキューバの名産品、コヒーバ(葉巻)も入っている。葉巻なんて吸わないのにラテンノリに負けて買ってしまったことを後悔する。状況証拠はすべて揃った。さて、この困難をどう乗り切ろうか?

てんぱる頭で考えた苦肉の策:パスポート折り曲げ作戦。

手順①:キューバのビザが押されたページが開かないように、ガムを細かくチギってページの隅を貼り合わせる。あくまでもさりげなく。コンマ1ミリの勝負。
手順②:真っ白なページが開きやすいように、何度も折り曲げてクセをつける。あくまでもさりげなく。1/40ページの勝負。

Nothing but 小細工。

かなり原始的な方法だが、これ以外の策は思いつかない。

パスポートに小細工をしている間に入国審査の順番がどんどん迫ってくる。残すはあと二人。心拍数はドドンパ状態。口から心臓が飛び出して、カリブ海の彼方へと飛んで行きそうだ。

俺が並んだ列の先には入国審査の窓口が2つ。右には意地悪そうなおじさん。左には意地悪そうなおばさん。前門のおじさん後門のおばさん。ここ自由の国に天使はいないようだ。

まずい。並ぶ列を間違えた。隣の列の窓口には、にこやかな笑顔のアジア系のおじさんがいるではないか! 

隣の芝生が青すぎる。

今から隣の列に並び直すわけにもいかない。どう考えても怪しすぎる。よーし、もう開き直るしかない。やること(=小細工)はやった。いまからできることは、満面の笑みでハキハキと受け答えをして、平常心を保つのみ。そうこうしている間に順番が。

ネ〜クスト!

勝負のときがやってきた。

イメトレ通りに満面の笑顔でパスポートを提示する。心臓の音が審査官まで届きそうだ。パスポートをめくりながらの質疑応答が始まる。

質) 入国の目的は?
疑) 取材です。

応) アメリカでの滞在先は?
答) ここです、といい運転免許書の住所欄を指さす。

質) どこから来た?
疑) メキシコシティです。

メキシコシティは天気が良くて最高だった、タコスが美味しかった、などフィクションの旅行話で必死に沈黙を埋める。一問一答が恐怖。イマスグオウチニカエリタイ。

パラパラパラパラ、ピタっ。

パスポートをめくる審査官の手が止まった。俺の心臓も止まりそう。

恐る恐るのぞいた視線の先には、なんと真っ白なページが輝いている。どうやら、自由の国にも救いの天使はいたようだ。

前門のおっさんはパスポートの白紙のページをグッと開き、右手に入国スタンプを握りしめた。

おせ、おせ、とっととそのスタンプを押しやがれ。そしてパスポートを返しやがれ。

はやる気持ちを抑えながら、笑顔でさらなる質疑に応じる。

ガチャ、ガチャ、ガシャーン。

勢いよくスタンプを押す音が心地良い。ここでコヒーバを一服したらどんなに気持ちが良いだろう。

指紋を取り、顔写真を撮り、入国審査は無事に終わった。そして前門のおっさんから予想外の一言が。

「Welcome to the United States」

ワーオ!は付いていなかったが、予想外な一言が心を打った。見た目とは違いとても紳士的な審査官だった。前門のおっさん扱いしてごめん、と心の中で詫びてパスポートを受け取った。見た目で人を判断しちゃいけないね。

こうして、姑息な作戦で絶体絶命のピンチを乗り切り、アメリカに入国することができた。そして、キューバ行きは"なかったこと"として無事に処理された。

翌日、パスポート更新手続きに行ったのは言うまでもない。

THE END.
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