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武田篤典ライター67年大阪生まれ・京都育ち・藤沢住まい。『R25』インタビューとか『スマートモテリーマン講座』とかを書いています。このブログは、かつて『ポパイ』『ハナコウエスト』誌に連載していたコラムのリメイク。街で見かけた赤の他人から勝手にいろいろ学んでいきます。

見知らぬあなた

武田篤典
ライター
67年大阪生まれ・京都育ち・藤沢住まい。『R25』インタビューとか『スマートモテリーマン講座』とかを書いています。このブログは、かつて『ポパイ』『ハナコウエスト』誌に連載していたコラムのリメイク。街で見かけた赤の他人から勝手にいろいろ学んでいきます。

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チッ、そんなこというならメッシなんてキライだよ!

2011.12.21

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今回おれは、ある外国人のひとことに心を揺さぶられました。


11歳の息子(ポジション:ゴールキーパー)とふたりで、横浜へ行ってき

ました。クラブワールドカップの決勝戦を観に。

あのバルセロナと、神様やらキングやらがプレーし、ネイマールが脚光を

浴びているサントスが戦うわけで、スタジアムのある新横浜駅近辺はお祭

り状態になっていました。

だいたい、新横浜駅を出た瞬間にパチモン

マフラーの露店。そんな場所に出してよく怒られないよな

あ、というところに、堂々とオープンしてる。


SHINYOKO.jpg

 


↑ここだもの。
 

バルサのエンブレムが入ったのと、メッシの顔写真がプリントされたのを

それぞれ1000円で売ってました。

そばにいる警備員のオジサンは完全スルー。

たぶん「駅構内ではない」からなんでしょうね。

それにその先、駅の出口から直結した歩道橋には、5メートルおきぐらい

に露店・露店・露店。摘発しようとしてもたぶんおっつかないでしょう。


マフラーだけでなく、ユニフォームも売ってました。そっちも

パチです。何しろスポーツメーカーのロゴが入ってない。

中には「ハイクオリティー」と称した、値段が他のパチの倍ぐらいするも

のも売られてました。......それでもやっぱりパチ。

「ハイクオリティーなパチモン」という意

味なんでしょうね。

普段、Jリーグの試合のときにもパチ・ユニフォーム屋は出るのですが、

駅から離れたところでこっそりやってます。わりときちんと(......って

いうのもヘンだけど)していて、ヨーロッパの有名クラブチームを中心

に品揃えも豊富。ちゃんと「ビジネス」な感じがしています。


でもこの日の露店は、ダンボール何枚か敷いて商

品2〜3種類並べて店舗完成というアマチュア

リズム。店主はほとんどグローバルな感じ

のみなさん。駅前からスタジアム近所まで途切れることなく出

店していました。
 


そんな中を、ビールをグビグビ飲んで大声でサポーターソングを歌いな

がら行進するブラジルの人たちとともにスタジアムに向かえば、そりゃ

もうお祭り気分も高まろうというもの。

 



いつものJリーグとは違います。


ちなみにチケットもこんなに違う。


TICKET.jpg


上のは、わが愛する湘南ベルマーレのチケット。

近所のローソンで発券したヤツ。

クラブワールドカップは、ホログラフィー搭載ですよ! 見るからにラグ

ジュアリー。この特別さ、スタジアムに入るときにも味わわされました。
 




着いた。
yokohma.jpg

FIFAって書いてあります。国際サッカー連盟のことです。

だからこその特別なルールみたいなものが存在するわけです。

チケットをもぎってもらうところではセキュリティチェック。

警備員の人がカバンを開いて中を見るだけなんですが、同時にペット

ボトルもチェック。コカ・コーラ社の製品かどうかを調べるので

す。コカ・コーラ社以外のペットボトル

はここでラベルを剥がされることになります。

コカ・コーラがFIFAのオフィシャルパートナーだからですね。客席にTV

カメラが向いたとき、他社製品が写るとイカンということなのでしょう。

広告の仕事をしているとよくあることです。

巨大な資本主義の小さな歯車になったような気がする一方で、「それだけ

デカイ大会なのだ」ということを実感させてくれて、決してイヤな感じで

はありません。さすがはチケットにホログラ

フィを入れるほどのラグジュアリー野

、などと感心させられます。

で、入るとすぐに何かくれました。

kairo.jpg

使い捨てカイロだ! しかもほら、日付入り。2011年クラブワールド

カップ決勝限定。

さすがのホログラフィクオリティー!

「やったー」「もらった!」「記念だ」「おみやげだ!」と、おれたち下

流親子のテンションも急上昇。大事にクリアファイルに挟み、席に向かい

ます。






席はゴール裏の2階。
victor.jpg

おお! 非常に観やすい。

あ、実際にはこの写真は柏レイソルとアル・サッドによる3位決定戦のあ

とに撮ったのですが、その試合中、驚くべき光景を目にしました。

われわれ親子が「おみやげ」として大事にしまった認定したあのカイロを、

何のためらい開けて「単なるカイロ」として使う人がいたのです!


これぞ格差社会......

すまぬ息子よ! おれもっと頑張る!

おれの気持ちを慮ってか、心なしかしょんぼり歩くビクトール・バルデス

に続いて、次々と両チームの選手が登場。キックオフまでのカウントダウ

ンも始まって、もう、お祭り感も

MAAAAAAAX!






とはいえ。

ここまではあくまで、お祭り"感"。

当たり前なんですが、決勝のゲームこそがお祭りの本番でした。

サントスを4−0で破ったバルセロナのサッカーは異次元でした。


正直、ありとあらゆる人たちがバルサバルサメッシメッシ言ってるから、

「いやー、そんな言うほどバルサ好きなわけじゃないでしょう」とか

「よくわからず時流に乗ってるだけでしょう」とかって、おれはうっすら

思っていて、なんだったらちょっとへそを曲げてサントスを応援するよう

な気分にすらなっていたわけですが、ホントすんませんでした。


あのー、



 


メッシ最高。

あと、シャビの2点目も。 

 





で、表彰式が行われて、

バーンって金色の何かが空に打ち上げられて。
gold.jpg

で、ひらひら落ちてきたので、すかさず拾う。

gold02.jpg
こういうヤツ。

当然おみやげファイルに挟み込んでやりましたわ!

1枚1枚に日付とか"Final"とかプリントしてあって、これもまたラグジュ

アリー!


スタジアムは祭りの熱狂さめやらぬ感じ。プジョルが! ピケが!

ブスケツが! バルデスが! シャビが! アウベスが! メッシが!

after.jpg

おれと同じ空間にいるのです!(あれ? イニエスタは?) 場内を練り

歩いてピッチに戻って、踊り狂っていたりします。

さっき超すごいサッカーをした人たちが肉眼で見える位置にいて、まだお

祭りは続いていて、おれたちが自分から帰らない限り、しばらくは観てい

ることができるのです。





ああ、帰りたくない。

高校の文化祭の最終日のような、

ディズニーランドから去るときのような、

圧倒的な喪失感に胸を満たされながら、おれは息子に問いました。

「どうする? もう帰るか?」

だいぶ迷った挙げ句に彼は答えました。

「............うん」

もし「もう少し」と言われたら、平気で残っていたでしょう。

彼が「帰る」と言ったから、おれも決心したのです。

見下ろしたらそこにまだみんないるんだもん。

だから見下ろさず、振り返らず、おれたちはスタンドをあとにしました。

互いに「明日仕事だよ、やだなー」「おれも学校行きたくないや」などと

言い合いながら。

あと10時間かそこらで、何の変哲もない日常に戻るのが寂しすぎたから。

世界屈指のプレーを男ふたりで堪能し、

「いい一日だった。この気持ちが長く続かんことを!」と祈りつ、

スタジアムから一歩足を踏み出した瞬間、その声が聞こえました。

 


「メッシメッシメッシ、

1000え〜ん!」


グローバルな感じの露店の方です。売れ残ったパチモンメッシマフラー

を、肩から20本ぐらいかけて、そのセリフを連呼しているのでした。
 



なんと、雑!
 


新横浜駅の露店から徐々に盛り上がり、「メッシメッシ言うのはミー

ハー」という偏見に満ちたイメージを、実際のプレーを観て乗り越え、

"金色のバーン"でクライマックスを迎え、

バルサ観、メッシ観においてめっちゃ成長したおれの1日を、

なんかものすごーくざっくりコピーして、適当にパッケージングして

「ほれ、結局オマエたち、メッシを与

えてりゃ満足なんだろ?」

とか言われてるような気がして。

びっくりしたことに、

「チッ、そんなこというならメッシな

んてキライだよ!」

とか。

ようやく自力で認めたメッシのことを、一瞬そんなふうに考えたりしてし

まうのでした。

さっきまでの瑞々しい青春小説みたいな気分は薄れ、熱狂の余韻は頭の片

隅においやられ、「いやー、ホント"雑"っておそろしいなー」と、考え

つつ、おれたち(あ、息子は、まだ営業してたパチ露店にどんどん吸い寄

せられていたけど)は家路を急いだのでした。


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