第2回
決して命は守ってくれそうにない防護服。
Israel Army Nylon Vest
ミリタリー〜軍モノの服って、あくまで機能性を重視し、本来デザインは二の次としてつくられているところが、男心〜ヴィンテージャー心を刺激するわけですよね。機能性を重視するがあまり、とてつもなく奇特な服が生まれてしまうこともあったりするのですが、それはそれでデザインされた理由やスペックを知って納得して嬉しくなったりするのです。また、何を目的にデザインされ、採用され、使用されたのかが、一見わからないけれど、とにかく心惹かれるデザインのアイテムに遭遇することもあります。
今回紹介するイスラエル軍のナイロン製のベストも、私にとっては正にそんな一着。高円寺にあるミリタリー物が得意な古着店「ミリタリア」の店頭で見つけて、値段も手頃だったことから深く考えずに衝動買いしたのですが、とにかく軽くて快適。猛暑日が続く今年の夏に一番重宝しているアイテムかもしれません。
着用していると、いろんな方から「それ何?」と尋ねられたり、褒められたりするのですが、よくわからないので明確には答えられず、毎回お茶を濁していました。ですが先日とあるパーティで着用してDJしていたら、デザイナーの菊池武夫先生がたまたま会場にいらっしゃって、私のベストを見るなり「ぼくもこのベストを持ってるんだけど、何に使うベストかわからないんだよね。わかったら教えて!」とおっしゃるではありませんか。これはちょっと調べてみなきゃなぁと思いたったのでありました。
防寒の為の服にはなり得ないペラペラ具合だし、よくある軍用のタクティカル・ベストのようにポケットや収納スペースがたくさんあるわけでもありません。パッと見たところアメリカ軍がベトナム戦争時に採用していたM69 ボディアーマーに極めて酷似しています。
特に脇部分の編み上げのパーツになっているところとか。ただこちらはフロントの開閉が巨大なマジックテープを採用していて、着脱時にバリバリバリっと人が振り返るくらいの大きな音がします。
ボディアーマー(body armor)とは、銃弾や爆発による破片などから身を守るために使用されるベスト状の身体防護服のことで、フラックジャケット(Flak Jacket)、日本では防弾チョッキなどと呼ばれます。しかし、このイスラエル軍のベストは、とにかくシャカシャカと音のするような薄いナイロン製、「M69ボディアーマー」には仕込まれている身体を守る為のアーマーパッド(アンコみたいなもの)は一切入っていませんし、入れるスペースもありません。
首周りのデザインも「M69」はアンコが入っているので、スタンドカラーのように襟が起立して首元を守るようにデザインされているのですが、こちらはフニャりと垂れ下がって、Vゾーンが出来上がり、ソフトなショールカラーのジャケットのようになっています。この襟がなんとも不思議なニュアンスでお洒落な感じがします。
首の後ろ部分にはフック用の紐が付き、ゴムが通してあり、ギャザーが生まれています。これも余り軍物では見かけないディテールですよね。
イスラエル軍の物なのでヘブライ語と思しきフォントであれこれ用途やスペックが書いてあるようですが、1984年製という以外、全く判読できません(笑)。しかし、最近のテクノロジーはすごいもので、ラベルの画像をスキャンして「グーグル翻訳」でヘブライ語から英語に即座に翻訳してくれました(直接日本語だとちょっと不安だったので)。
Protective Anti-Grit Vest
This vest may protect your life! Wearing it properly will protect your main body from shrapnel damage and grenades.
なるほど、アイテム名は「砂避けベスト」という意味ですね。しかし、そのあとなかなか大袈裟なことが書いてありますね。「このベストはあなたの命を守ってくれるかもしれません!適切に着用すると、散弾の損傷や手榴弾から身体を保護します」。いやいや、到底これで爆発時の破片などから身を守る役目は果たせそうにありませんよねぇ。
まぁ結局はデザインやコンセプトの能書きはアメリカ軍の「M69ボディアーマー」を流用しつつも、暑い戦地用に軽い素材でつくられた砂避けくらいにはなるベストってことでしょうか。タケ先生、すみません、結局イマイチよくわからなかったです。
PROFILE
1966年 京都市生まれ。DJ/音楽プロデューサーとして国内外で活躍。大手アパレル企業のMDや雑誌編集者の経験もあり、ウエア、本、レコード、時計、オーディオ、車などヴィンテージ全般に造詣が深い。正に根っからのVintager。
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