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COLUMN

Vintager

文・写真:田中知之

ご存知のように古着などを表すVintageの語源はブドウやワインの用語。Vintager(ヴィンテージャー)とは、本来"ブドウを収穫する人"のことですが、転じて"古着を収集する人"のことをVintagerと呼ぶのはいかがでしょうか? DJ界随一のVintager = FPMの田中知之によるヴィンテージ・ウエア・クロニクル。今回は〈バーバリー(Burberry)〉のサマーコートを取り上げます。

  • Edit_Yosuke Ishii

第1回 ゴッドハンドと神通力。
Burberrys Cotton Poplin summer coat

どうも。FPM 田中知之です。古着好きを拗らせて早40年。誠に光栄な事に、ヴィンテージ・ウエアにまつわる四方山話を書かせていただくことになりました。『フイナム』と言えば、日本を代表するVintager の皆さまによる対談「古着サミット」が連載されているメディアなわけですが、非常に僭越ながら、その末席を汚させていただきます。皆さま、どうぞお手柔らかに。

さて、連載第1回目は、最近ヴィンテージ市場で加熱の一途を辿る〈バーバリー〉のコート、しかも薄手のサマーコートにまつわるお話。

パリ在住のK氏という有名な日本人ヴィンテージ・ピッカーがいらっしゃるのですが、その銀髪を後ろに束ねた髪型と、(少し脚がお悪いから)いつも持ってらっしゃる杖を刀に見立ててのことなのか、皆は彼のことを”ラスト・サムライ”と呼んでいます。

それこそヨーロッパ中で何十万着という古着を物色し、その中からレアなディティールを含むお宝を過去何百着も抜き取ってきたゴッドハンドの持ち主です。私もパリを訪れる度に彼に古着屋巡りのご同行をお願いするのですが、昨年6月にもパリにDJ仕事で出向いた折、彼と古着屋巡りをすることとなりました。

古着屋に向かう路面バスの車中、私がきっと存在するであろうと思っているのだけれど、未だ古着屋では見たことがないヴィンテージの〈バーバリー〉のシャツの様に薄いタイプライターかポプリンみたいな生地でつくられた夏用のコートを探していることを氏に打ち明けたのですが、彼ほどのゴッドハンドをしても今まで見かけたことがない、との答えが。

しかし奇跡ってあるんですよね。そんな話をした直後に辿り着いたレ・アールの古着屋で、私は〈バーバリー〉のサマーコートをあっさりと見つけてしまったのです。古着の神様の悪戯なのでしょうか? 私の神通力がゴッドハンドを凌駕してしまったのです。その瞬間、ラスト・サムライは切腹を覚悟したかのような苦渋の表情をしてらっしゃいました。

イギリスで1856年創業と歴史があるメーカーであり、王室ご用達の証=ロイヤル・ワラントをトリプルで所持する老舗中の老舗〈バーバリー〉。ウール・ギャバジン素材や、タイロッケン・コート〜トレンチ・コートに代表される、その後の服飾史に多大なる影響を及ぼす素材やデザインを発明したことから世界的に人気を博し、イギリス以外の世界各所でその古着が見つかるのです。日本でもライセンス生産されていたのは皆さまもご存知のとおりですが、現在ヴィンテージ市場を賑わすのは80年代以前に本国イギリス、もしくはライセンス先のフランスで製造されたコートに限られます。

定番人気モデルの綿とポリエステル混のベージュや薄いカーキ色のバルマカーン(ステンカラー)・コートやトレンチ・コートがコレクションのベースとなるのですが、タイロッケン・コートやライダー(ベルテッド・バルマカーン)などの希少デザインや、黒や紺や玉虫色などの希少色の個体はより珍重されます。更にショップ別注や個人オーダーも多かったことから、ちょっとしたディティール違いが数多く存在するから面白いのです。その中でも、「一枚袖」だの「コットン100」だの「MADE IN FRANCE」だの「ライナー付き」だの「アイリッシュ・ツイード」だの、マニアやディーラーはその希少性を麻雀の役の様に表現し、その役が多いほど価値も価格も跳ね上がるという次第。その辺りの狂騒については「古着サミット 6」で〈ネクサスセブン〉の今野さんや「ビームス」の阿部さんが明解に解説されているので、是非そちらもご参照を。

〈バーバリー〉のコートと言えば基本がっちりしたウールギャバや厚手のコットンやコットンポリ、ツイードやローデンウールなど、冬場の防寒着というイメージが強く、比較的に軽い素材のスプリングコートですら中古市場では珍しいのですが、シャツの様に羽織れる夏用のコートとなれば更にレア度は増します。まぁ、春夏物のコートは〈バーバリー〉に限らず今も昔もファッション的にも酔狂なアイテムなので、レアなのは当たり前ですがね。

70’s〜80’s Burberrys Cotton Poplin summer coat

レ・アールで見つけた〈バーバリー〉のバルマカーン・コート。従来のそれと比べて、見た目も着心地も非常に軽やかな一着。

やや張りのがあるけれど超薄手の高密度なコットン・ポプリン生地を使用して、1970年代から80年代くらいにイギリスで製造された夏用のバルマカーン・コートです。ミュンヘンやチューリヒにある高級百貨店「LODENFREY」の発注品のようです。

首元に配したタグにはお馴染みのロゴが。ブランド表記は現在と異なり、〈Burberrys〉と最後に“S”が付く。タグ下部には発注した「LODENFREY」の名が入ります。

左前身ごろの内側にはCOTTON 100%のタグが付きます。ご覧の通り一枚仕立ての軽やかな仕様。

襟周りと前見返しとポケットのスレーキ部分だけが二重になって、背当て布だけが付く裏地の付かない一枚仕立て。非常にライトな着心地は、相当な酷暑の日は無理にしても、夏場も快適に着用できます。

薄手ゆえ袖をロールアップしても嵩張ることはありません。シャツ感覚でラフに着用することができます。

残念ながらアームホールは人気の一枚袖ではありません。しかし、ボテっとしたシルエットと肩の収まり具合が冬物では珍重される一枚袖のディティールですが、このサマーコートに限って言えば、袖周りがタイトな分、ロールアップするのに適しています。しかも何重にもロールアップしても全くボリュームも出ず、まさに薄手のシャツの様です。

襟裏にだけお馴染みのノバ・チェックがあしらわれています。

正直コンデションはイマイチ。袖や襟の布に擦れや切れが見受けられます。冬物コートに比べて堅牢でないこともヴィンテージ市場でレアな原因でしょう。しかし、このボロなラフさも味と言えます。

パリの裏路地を歩く姿。深く採られたセンターベントが、ビルの隙間風に吹かれてはらりと揺れます。

このコートを手に入れたことが嬉しくて、買ったその日のうちに着用して夜のディナーに向かう私の後ろ姿を友人が収めてくれた奇跡的なショット。モデルはさて置き、パリの街並みの中で、風を孕んで軽やかに舞い上がるコートはなかなか優雅ではありませんか?

しかし、私がこのコートを見つけたのが余程悔しかったのでしょう。その2日後に別のパリの古着屋でラスト・サムライも〈バーバリー〉のサマーコートを発見したのであります。正に武士の執念。そちらは、やや厚手のコットンとポリの混紡ではありましたが。さすがはゴッドハンドの面目躍如。めでたく切腹は免れたのでありました。

PROFILE

田中知之
FPM

1966年 京都市生まれ。DJ/音楽プロデューサーとして国内外で活躍。大手アパレル企業のMDや雑誌編集者の経験もあり、ウエア、本、レコード、時計、オーディオ、車などヴィンテージ全般に造詣が深い。正に根っからのVintager。
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