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COLUMN

Vintager

文・写真:田中知之

ご存知のように古着などを表すVintageの語源はブドウやワインの用語。Vintager(ヴィンテージャー)とは、本来"ブドウを収穫する人"のことですが、転じて"古着を収集する人"のことをVintagerと呼ぶのはいかがでしょうか? DJ界随一のVintager = FPMの田中知之によるヴィンテージ・ウエア・クロニクル。今回はスウェーデン軍のプリズナージャケットとパンツのセットアップを取り上げます。

  • Edit_Yosuke Ishii

第3回 必然のような偶然のような邂逅。
1940s Swedish Military Prisoner Jacket & Pants

今回は囚人服のお話。古い囚人服が古着市場では常に珍重され、時に高値で取引されているのはご存知でしょうか?「悪いことしたら刑務所に入れられてしまうよー」と両親から育てられ、一生囚人服だけは着たくないと思いながら大人になったはずなのに、我々Vintagerの多くは古い囚人服に目がないのは皮肉な話ですよね。

目の詰まったストライプ生地をあしらったスウェーデン軍のプリズナージャケットとパンツのセットアップ。
ぱっと見の印象は、とても囚人服には見えない。

さて、今回紹介するのは、1930年代終わり頃から1940年代頭くらいにかけてスゥエーデンで作られたと思しき囚人服=プリズナー・ジャケットとパンツのセットアップです。アメリカ製の古い囚人服はそれこそ漫画や映画でもよく登場する白と黒(や紺)の縞模様のものが多いのですが、ヨーロッパ製では見かけません。ただ、ポケットが少なかったり、生地やパターン、縫製が簡素だったり、お粗末だったり、まぁ服としては正直最低なグレードなのが常なのですが、このセットアップは中々良い作りをしていると言えます。ストライプの柄合わせもちゃんとされていますし。コットン製のしっかり目の詰まったストライプの生地の風合いも、当時の一般的なワークウエアと遜色ないかそれ以上と査定できます。しかもややドレッシーなラペル付きのテーラード・ジャケット。狭めのVゾーンと緩やかなAラインのシルエットは、見ようによってはちょっとエレガントですらあります。付属する金属製のボタンが第二次世界対戦の初期以前のスゥエーデン軍のユニフォームに採用されていたものと同じことから、軍に付随する刑務所で使用されていたものと推測されるとのことです。

実は私、まずはこのジャケットだけを京都のヴィンテージ・ショップ「カプリ」で、いまから10年ほど前に購入しました。確かデッドストックでディーラーから仕入れてワンウォッシュを掛けて店頭に並べたものだと聞いた気がします。入手はしたもののイマイチどう着こなして良いかが分からず、10年間タンスの肥やしとなっていたのですが、つい先日、ヨーロッパでの仕入れを終えたばかりの古着店「ストレイシープ」川崎店の店頭で、このジャケットの対となるパンツをデッドストックで発見。サイズもぴったりだったことから即購入。「ストレイシープ」の店主・世田氏はドイツのベルリンに拠点を置く某ディーラーから入手したとおっしゃっていましたが、確か、10年前に「カプリ」の店主・田中氏もドイツのディーラーから買ったとおっしゃっていたような、、、。出処は同じだったのかも知れませんね。とは言え、80年余り前に製造されたスゥエーデン製の囚人服が、一旦ドイツに渡り、それを京都と川崎の古着店が10年の時差で仕入れて、東京に住む私がそれぞれを購入し、晴れてセットアップが完成したと考えると、偶然なのか、必然なのか、中々胸熱な邂逅ではありませんか?

ジャケットは、ヨーロッパの古典的なテーラーリングに見られる斜めの打ち合わせで
脇から緩やかな緩やかに広がるAラインのシルエット。胸ポケットはなく、
パッチポケットが左右に一つづつ付く。ベントと袖ボタンは無い。

肩のシームのラインが後ろ下がりなのも古いジャケットの特徴。

ジャケットの背面中央脇割部には生地の耳(セルビッヂ)が。

パンツには、ベルトループは無く、サスペンダーボタンとシンチベルトが付く。
背面がV字に割られて魚の尾ビレのようにせり上がる形状は、
1940年代以前のディティール。

パンツのフロントデザイン。
ご覧通り、ベルトにはメタルのサスペンダーボタンが付く。

V字の切り込みとシンチベルトが付く後ろ姿。囚人服ゆえにヒップポケットは無い。

レングスはズドンと太く真っ直ぐなストレート。

フロントは当然ボタンフライ。

ボタンは上下ともに4つ穴のメタルボタンがあしらわれている。

上下、同じミリタリーユースのメタルボタンが使われていますが、ジャケットは白い綿糸で=型の縫い付け、パンツは黒い綿糸で×型の縫い付けになっています。工場が違ったのか、はたまた縫製時期が違ったのかは謎ではありますが、生地は確実に同じで、色ブレもありません。

囚人服のセットアップを着てパーティへと向かう田中氏。
まさかこの服が囚人服とは、街行く人は誰も思わないでしょう。

そんなこんなで、酷暑も一段落して、急に過ごしやすくなったので、銀座で開催されたとあるパーティに着用して出かけることにしました。写真は、パーティに同席させてもらったWeb Media『OPENERS』の松本編集長が銀座四丁目の交差点で、私の後姿を撮影してくださったもの。

あらゆる欲望の囚われ者達が集う街=銀座に、80年前のスゥエーデン製の囚人服が中々にマッチしているでしょ?笑

PROFILE

田中知之
FPM

1966年 京都市生まれ。DJ/音楽プロデューサーとして国内外で活躍。大手アパレル企業のMDや雑誌編集者の経験もあり、ウエア、本、レコード、時計、オーディオ、車などヴィンテージ全般に造詣が深い。正に根っからのVintager。
www.fpmnet.com

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