Vol.05
THE BEACH BOYS / STACK-O-TRACKS(1968)
夏が好きでたまりません。早く夏が訪れて欲しい。それはひとえに、ビーチボーイズのせい。

THE BEACH BOYS / STACK-O-TRACKS(1968)
7、8才の頃、小学校に行く前の朝7時半から、8チャンネルでアニメが再放送されていました。「朝のマンガ劇場」です。「トム・ソーヤーの冒険」とか「ふしぎな島のフローネ」とか。懐かしい。
「朝のマンガ劇場」は30分番組。15分経ったくらいにCMが流れるのですが、そこで、最新のCDプレーヤーのテレビショッピングが毎度のごとく流れていて。海の上をへんな板に乗って滑る映像に、テケテケした意味不明の言葉で歌っている音楽。一体なんなんだ?と。
それが、サーフィンを知ったきっかけ。そして意味不明な音楽はビーチボーイズの『サーフィンUSA』だったのです。
すぐさま母親に「ビーチボーイズ買って!」とねだりました。手に入れてからというもの、毎日ビーチボーイズを聴く日々がはじまったのです。これが洋楽との最初の出会い。
余談ですが、ぼくは東京生まれの東京育ち。ただ、父親の出身が愛媛ということもあり、小さい頃から毎年夏になると愛媛に行き、海に行っては拾ってきた板でサーフィンの真似事をして遊んでいました。あと、親父の従兄弟が漁師だったから、漁船で無人島や人がいない海岸に連れて行ってもらったりもして。その度に「カリフォルニアはどっち?」と聞いていたものです。
オープンリールのマスターテープをビーチボーイズの面々が取り囲む構図が完璧。
さて、ここで触れておきますが、これから紹介するビーチボーイズの『STACK-O-TRACKS』。全く売れていません…。
実はこのアルバム、世界初のカラオケレコードなのです。いまやカラオケトラックが入っているのは普通ですが、1968年当時は前代未聞の出来事でした。
では、なぜこんな珍しいアルバムが世に出されたのか?
当時のビーチボーイズは、ブライアン・ウィルソンがドラッグによる半引退生活を送っていました。そのためリリースが遅くなり、『Smiley Smile』以降のアルバムセールスは低迷していたのです。その最中、1968年の8月(『Friends』がリリースされた2カ月後)に、『Stack-O-Tracks』はリリースされます。要は、所属先の「CAPITOL」が怒ったわけです。「なんでもいいからレコードを作れよ!」って。
そこで、ギターのアル・ジャーディンが思いついた苦肉の策が、過去のインストトラックを、1枚のレコードにまとめてリリースしようじゃないかというアイデアでした。
ビーチボーイズは1961年に結成し、「CANDIX」というレーベルから『SURFIN’』でデビュー。その後、1962年に「CAPITOL」から『SURFIN’ SAFARI』でメジャーデビュー。そして1968年に『Stack-O-Tracks』をリリースし、本作が初めて、チャートにランクインしませんでした。でも、ぼくはビーチボーイズのアルバムのなかで、このジャケットが一番好きなのです。音じゃないですよ! ジャケットですからね。
うずたかく積まれたオープンリールのマスターテープの両脇に、ビーチボーイズの面々が取り囲むこの構図。ナイスアングル! ブライアンの眼鏡もシャレオツですね。途中で加入したブルース・ジョンストンがジャケットに初登場するのもこのアルバム。
この頃のビーチボーイズのアルバムジャケットは「Capitol Photo Studio」で撮っており、フォトグラファーやイラストレーターの名前がクレジットされています。しかしこの『STACK-O-TRACKS』に限って、どこにもクレジットがありません…。謎です。
前作の『Friends』は、Cover design by Geller&Butler, Advertising Cover illastration by David McMacken、後作の『20/20』ではCapitol photo studio / Ed Simpsonとクレジットされています。おそらく、ビーチボーイズのジャケ写に関しては、リリースごとに「Capitol」が適当なフォトグラファーを起用し、会社内のアートディレクターたちで完成させていたのかと思います。ちなみに初期の作品は、Ken Veederというフォトグラファーが多くクレジットされています。
普通、カラオケはアレンジのネタばれになるので、よくこんな企画ものをリリースしたなと思います。福生の仙人こと、大滝詠一大先生が「ロンバケ」の純カラを出したのもリリースから30年後です…ネタばれは嫌ですよね。当時のブライアンはまだ、優秀なアレンジャーという認識はありませんでした。なので、アレンジを細かく聴けるという魅力も当然ありません。

『Stack-O-Tracks』は楽譜付き。これを見ることで、いかにビーチボーイズの音楽が複雑かを再認識することができる。
つまり『Stack-O-Tracks』は、純粋にビーチボーイズの演奏で歌ったり、ギターを弾いたりして楽しむレコードなのです。コードや各楽器のソロパートの楽譜に歌詞まで付いたブックレットが付録としてインサートされています。
とくに『Pet Sounds』からの4曲は貴重ですね。コード進行とかめちゃくちゃ複雑でかなり歌いづらいです。メロディーとインスト部分が歌とは別のハーモニーを作り出すというか…。これがビーチボーイズなんですね。素晴らしいです。
ぼくが中1の頃、映画『カクテル』がトム・クルーズ主演で大ヒットしました。主題歌はビーチボーイズの『Kokomo』。そっこうで8センチシングルを買いに行ったなぁ。映画のなかに、トム・クルーズがシェイカーや瓶をくるくる回してカクテルを作るシーンがあるのですが、ぼくも影響され、暫くの間、いろいろなものを『Kokomo』をBGMにして回していました。あー懐かしい。
それではまた、次回ということで。
PROFILE

1974年、東京都生まれ。1996年、桑沢デザイン研究所を中退後、劇団や芸能人のために衣装を手掛ける傍ら、シャツのオーダーメードブランドを立ち上げる。2000AWよりファッションブランド〈ユージュ(Yuge)〉をスタート。土岐麻子のアルバム『乱反射ガール』や一十三十一のアルバム『CITY DIVE』のアートディレクションを手がけるなど、アートディレクターとしての一面も持つ。2018年6月、代々木上原に〈アダルト オリエンテッド レコーズ〉をオープンし、“現代のAOR”を発信中。