映画と服における、アナログの豊かさ。
―なぜノーランはそこまでアナログにこだわるのでしょうか。
入江: CGを使わずアナログで、というそのストーリーって映画のプロモーションとしては正直弱いんですよ。秒針をアナログで撮りましたと言っても、それを目当てに映画館に来るひとはそう多くない。でも、今日ずっと考えながら来たんですけど、青臭い言葉で言うと、多分ね、奇跡みたいなことを信じているんだと思うんです。秒針をCGで動かすと、プログラミングで予測可能な動きになる。でもアナログの装置で撮ると、それをつくったひとの手のクセとか個性が絶対に混入してくる。爆発だって、火薬をセットするひとのクセ、その日の風、爆風を受けた俳優の微妙な反応。そういう小さな奇跡の集積を、このひとは求めているんじゃないかと。CGだと自分の脳内にあるものが100パーセント反映されるだけで、多分ノーラン自身があまり嬉しくないんじゃないかな。自分の想像を超えたものが生まれる余地として、アナログを選んでいる気がするんですよね。よりお金も手間もかかるアナログを採用することを、プロデューサー相手に毎回説得しながらやり続けているノーランの、そこは本当に狂気だと思いますし、同業者として頭が下がります(笑)。
Continent: 自分の専門分野で言えば、服も実は全部、ひとの手で縫われています。ロボットが自動でつくっていると思っているひとが意外と多いみたいなんですけど、どんな服でも誰かがミシンで縫っている。岡山に、ぼくがずっとデニムを縫ってもらっている職人さんがいるんですが、そのひとじゃないと出せない線がある。フリーハンドで、自由な縫い目で仕上げてもらうんですけど、機械では絶対に出せない風合いで。だからノーランがアナログにこだわる感覚、すごく分かります。
―AIが映像制作にも入り込んできたいま、アナログで撮ることにはどんな意味があると思いますか。
入江: ノーランのSF映画って、実はアニメとすごく相性がいい題材なんですよ。『インセプション』も『インターステラー』も、アニメ化しやすいじゃないですか。だからアナログ的なこだわりを手放したら、あっという間にアニメや映像生成AIに代替されてしまう。実写でやる意味を、このひとはずっと問い続けているんだと思うんですよね。10年後には、あの世界観をひとりでAIを使ってつくってしまう10代が出てくるかもしれない。その時代に、時計を〈ハミルトン〉と一緒に開発するとか、衣装をキャラクターに合わせて一つひとつ探してくるとか、そういうところにノーランは価値を見出しているんじゃないかと。
Continent: 服の世界でも、使い続けないと失われていく技術があって。和歌山に約100年前の編み機をそのまま稼働させているメリヤス編みの工場があるんですけど、めちゃくちゃ遅いんですよ、当然。でもそこでしか出せない風合いがある。ミシンがなくなって縫えなくなったもの、職人がいなくなってつくれなくなった加工、そういうものが現実にどんどん消えていっている。続けることでしか守れないものって確かにあって。
入江: 今日お話を聞いていて、ストーリーの豊かさがあるものが残っていくんだなとすごく感じました。このデニムはあのひとが縫ったという話もそうだし、ノーランが時計の秒針をわざわざアナログで動かすというのもそう。AIによって映像がどんどんデータとしてつくれるようになっていく時代に、そういうバックストーリーがあるものとそうでないものとで、これから二極化が起きていくんじゃないかと。
Continent: だからノーランの映画はこんなに好きなんだなと、今日話して改めて思いました。映画のストーリーとは別のストーリーが肉付けされていくような感じで、ノーランの映画はそれがいろんな角度からすごく多い。
入江: 誰かが介在しているということで、作品がまったく違って見えてくるんですよね。ノーランって多分、そのことを誰よりも知っている監督だと思います。
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