PROFILE
編集者として活動する傍ら、2021年に念願だった書店「スタックス ブックストア(stacks bookstore)」をオープン。現在は神保町に場所を移し、本だけにとどまらず音楽やファッション、アートなどのカルチャーを独自のスタンスで発信している。
BESSの家で、趣味に暮らす。
丸太を組んで建てるログハウスを中心に展開し、全国の趣味人たちから熱烈な支持をうける〈BESS〉の家。住まう人しだいで、いかようにもアレンジできる余白を残した作りや、幅広いライフスタイルにも柔軟にフィットする懐の深さを持ち合わせており、その自由度と、年月が経つほどに愉しみが増えていくという「経年愉化」の考え方は、従来の家のあり方を再定義し、新しい暮らしの選択肢として注目を集めています。
今回お邪魔したのは、神奈川県藤沢市にあるモデルハウス。海に近いこの土地に、個性の異なる4つのモデルが揃っています。ここに「stacks bookstore」のディレクター・山下丸郎さんの私物を実際に持ち込み、アート、雑貨、本、音楽という4つの趣味を、それぞれの空間にレイアウト。家の個性と、山下さんが長年かけて採集してきたモノが重なったとき、そこにどんな景色が生まれるのか。最初に訪れるのは、数あるシリーズのなかでも屈指の人気を誇る「WONDER DEVICE」。
Contents
BESSの家と趣味。
CASE 1. WONDER DEVICE × アート 遊び心のある部屋には、好きなアート作品を思うがままに。
「暮らしを楽しむための装置」というコンセプトを掲げるシリーズ「WONDER DEVICE」。外壁はガルバリウムでまとめられているのに、一歩中に入ると本物の木で埋め尽くされています。金属のグレーチング棚や雲梯など、遊び心を最も感じるモデルのひとつでもあります。建物の形は潔いボックス型。
「外から見た印象と、中に入った瞬間の印象が全然違って、まず単純に驚きました。ガルバリウムのクールな見た目からは想像できないくらい、木の匂いがふわっとくるというか。棚とかも遊具っぽくて、テンション上がる部屋ですね」と山下さん。
この空間に、山下さんがおもむろにレイアウトしはじめたのは、アート作品。
「無駄な装飾がない分、壁にも床にも、まだ何も決まっていない余白がそのまま残っていて、アートを飾るにはもってこいですね。それと、壁が木なので釘を遠慮なく打ち込めますし、この色合いは、どんなテイストの作品も受け止めてくれると思って」
その言葉通り、山下さんが壁に飾りつけたのはグラフィティライターの作品から写真まで、カラフルなものからモノクロまで、実にさまざま。それらがしっかりと収まっていきます。
壁面に並んでいるのは『ビューティフル・ルーザーズ』でも知られる造形作家トーマス・キャンベルの作品をはじめ、福岡を拠点に活動するグラフィティライターのLURKさん、「stacks bookstore」でもポップアップを開催したことのあるアーティストのPUTSさんの作品たち。
棚には、世界中にコレクターがいるガラス作家・高橋漠さんのオブジェや、各国で展示を行う陶芸家・宮下サトシさんの器、つい先日まで「stacks bookstore」で個展を開催していたグラフィティライター・ZECSさんのグラフィックが。窓際には写真家・白石晋一朗さんの巨大な写真を無造作に設置。アートとひとくちに言っても、山下さんのコレクションは本当に幅広い。
これらの作家や作品との出会い方も一様ではないといいます。人づてで知ることは実は多くなく、気になるギャラリーやショップを日常的にチェックし、そこで展示しているものを実際に見に行って知ることが多いのだとか。
では、今の自宅ではアートとどう付き合っているのか。
「とにかくすべての部屋にアートピースを飾っていて、飾る隙があるところはアートで埋まってるみたいな状態です。それでもスペースが足りなくて、そこら中に作品が何重にもなって置いてあったりもして…。たまに入れ替えて気分転換をしてますね。でも『WONDER DEVICE』に住んだら、思う存分飾れるし、いまは買おうと思えない大きな作品も置けるなって思います」
これは、単に「収納が増える」「飾れる場所が増える」という話ではありません。飾る場所が足りているかどうかは「次に何を欲するか」にも、そのまま直結するもの。今の自宅では、置き場所を考えて無意識に手を止めていたサイズの作品が、この壁の広さを前にした途端、選択肢として挙がってくる。家が変われば、集める基準そのものが変わる。
まさに「家が趣味を育てる」ということ。アートに限らず、あらゆる趣味にも通じることです。
外はガルバリウム、中は本物の木。金属の棚に、遊具のような無骨なディテール。異なる素材や要素が違和感なく同居している「WONDER DEVICE」の構造は、テイストを統一せず、気になったものからどんどん壁に増やしていく山下さんの飾り方とも、驚くほど相性がいいのです。
CASE 2. 程々の家 × 雑貨 重厚感のある部屋に、手仕事の温度を。
続いて訪れたのは「程々の家」。〈BESS〉のなかでも一番どっしりとした、風格のあるシリーズです。
広い土間は玄関でもあり、薪ストーブを焚く場所でもあります。隣接するデッキとも地続きにつながることで、内と外の境界をあえて曖昧にする設計に。
仕切り扉には竹が使われ、天井は竹細工の網代編みのような表情をしています。なぐり加工された木材からは、日本の意匠もにじみ出ています。
「造り過ぎず、飾り過ぎず」という〈BESS〉のカタログの一節がそのまま似合う、どこか古民家的な佇まい。
「入った瞬間の土間の広さと開放感がよかったですし、人の手の温もりを感じる家ですよね。それと、大叔母が軽井沢に持っていた別荘にどことなく似ていることもあって、とても落ち着きます。個人的には一番好みの家でした」と山下さん。
この空間にレイアウトしたのは、民藝や郷土玩具を中心とした雑貨たち。
「どっしりとした重厚感のある空間で、かつ和の雰囲気もあります。なので、自然と民芸・工芸をはじめクラフト感のある雑貨をいろいろと置きたくなりました。基本的に、家に飾るものはそんなに気負わずにいたいと思っていて。ベースはありながらもあくまで自由に、自分が良いなと思ったものを置いています。すべてにおいて言えるんですが、ミックス感が好きなので、バチっと統一はしたくないんですよね」
ここには、母方の実家があるという福島県会津若松の郷土玩具「赤べこ」や、静岡のリサイクルショップ「スペイシー」の木彫りの熊、ボタンを編んで作られたアメリカ製のフラワーベース、ガラス作家・小牧広平さんのペコリグラス、そしてヴィンテージのUSPS(アメリカの郵便局)の木製おもちゃなど、新旧も、国も関係なく、あらゆるジャンルのものが置かれていきます。
「型染め作家の芹沢銈介さんが好きで、展示があるたびに美術館まで足を運んでいるんです。芹沢さんは異なる性質のものを自然と同居させるのに長けていると思っているんですけど、そういうところに少なからず影響を受けていると思います。日本があって、アメリカもある。そして新旧も混在している、みたいなのが好きなんです」
最近になって、趣味も増えたと言います。器です。
「改めて、いろいろなギャラリーやお店を周るなかで、器って面白いなと思ったんですよね。日常的に使えるものでもあるのに、作家性がとても強かったり。大量生産のもののなかにも、ユニークなものがあったり。最近は、気になる展示を回ったり、地方の道の駅などに立ち寄ってみたりしながら、色々と情報収集しています」
福岡の作家・福村龍太さんの器や、益子の佐々木康弘さんの作品も、そうしたフィールドワークの延長で出会ったもの。
「『統一したくない』と先ほど言いましたけど、こう眺めていると、この空間だからこそできたことだと思います。家の度量が深いというか、不思議とバラバラなはずのものも喧嘩せずにまとまるというか」
造りすぎない。揃えすぎない。そして、どんな住人にも寄り添えるよう余白を残す。この〈BESS〉の哲学があるからこそ、山下さんの多様なコレクションも違和感なく同居できているのかもしれません。
CASE 3. G-LOGなつ × 本 開放的なベランダと隠れ家で、読書欲を満たしていく。
3軒目は「G-LOGなつ」。天井や壁が白く塗られ、明るくモダンな空気が漂うモデル。三角屋根に一目惚れして購入を決める人も少なくないといいます。
最大の特徴は2階にある広々としたベランダ。イタリア語で「巣」を意味する「NIDO(ニド)」と名付けられ、植物をおいたり、ピクニック気分で家族で食事をしたりと思い思いの使い方ができる場所。そして、三角屋根の先端を利用してつくられた小部屋も人気です。
「開けたベランダと、梯子の先の小部屋。同じ屋根の下に、真逆の場所が両方揃っている。ここを見たときに、読書が捗りそうだなと思ったんです。気分や本の内容で、使い分けてもいいなと」
山下さんと言えば大の読書好きであり、度々雑誌でも取り上げられるほど。神保町にある自身の店「stacks bookstore」の選書も行っていて、いまだに毎月たくさんの本を購入されているそう。朝から晩まで隙間をみつけては本を開き、本を読むために電車に乗るほどの本好きです。カバンには常に二冊がお決まり。
さて、ベランダにあるソファに置かれたのは、自身も大好きだというホラー映画のガイド本『ホラー映画 超現代史』(DU BOOKS)や、食にまつわる小説『海と山のオムレツ』 (新潮クレスト・ブックス)、お金の価値を新しい角度で描くヤマザキOKコンピュータ著『お金信仰さようなら』(六書)、マーガレット・キルガレンの作品集など。人文も小説もアートブックも写真集も、気になるものがあれば、とにかく読むようにしていると言います。
「日常ではもちろんですけど、旅行中でも本は持ち歩きます。眺めがいい部屋で読書をするのは好きですね。もちろん建てる場所によるんでしょうけど、ここもベランダが広くて外の景色を一望できるので、それに近い感覚があるというか。ゆっくり自分の世界に浸りきって本を読めそうです。ひとりでこもりたいときは、上の部屋でひっそりもできますし」
読書は、実は環境に依存する趣味でもあります。空間を整えることで、より没頭できるというもの。晴れた日はそよ風を感じながら、雨の日は雨音をBGMにすれば、ページをめくるペースも早まるはずです。
CASE 4. COUNTRY LOG × 音楽 木の特性を利用して、音をもっと楽しむ。
最後に訪れたのは「COUNTRY LOG」。削り出しの無垢材を積み上げてつくる、正真正銘のログハウス。
長く折れる大きな屋根の下、玄関から続く土間と吹き抜けが、そのまま上階へとつながっていきます。仕切りは最小限で、部屋の使い方を決めつけない自由度の高さも魅力のひとつ。〈BESS〉がこのシリーズのキャッチコピーに掲げているのは「1/fのゆらぎ」という言葉。規則正しすぎず、かといって不規則すぎもしない、自然の音や光に含まれるという、あの心地よい揺らぎのこと。
薪ストーブの炎の揺れや、木目の不揃いさにもよく重ねられる概念ですが、今回はこの言葉が、思いがけず「音楽」というテーマと重なることに。山下さんが、この家で楽しみたいと思ったのが偶然にも「音楽」だったのです。
「本当に偶然なんですけど、階段をあがったこの空間で、太陽を浴びながら音楽を聞いたら気持ちいだろうなって」
元々は、レコードが大好きで集めていた山下さん。最盛期には部屋を一部屋埋め尽くすほどあったというレコードは、次第に収集の歯止めが効かなくなり、ある時にどんと処分。それでも音楽の熱は冷めることはなく、現在は家でも店でも、CDを聞く日々を送っています。
持ち込まれたオーディオは〈BOSE〉の名機として知られる「サウンドウェーブ」の最終世代モデル。10年ほど前に手に入れたものだそう。
「これは解像度が高すぎず落ち着く音にくわえて、見た目も好きです。お店でも自宅でもこれを使っていて、音量のメモリー20パーセントぐらいのところでもう十分な音量になるんです」
そしていま、山下さんが集めているのはCDはCDでも、ミックスCD。自身の店でも年に一度くらいのペースでミックスCDを企画・制作している。久しぶりに会う友人たちから、近況報告代わりにミックスCDを渡しあったりするのもミックスCDの魅力だという。この日、持参したのは「stacks bookstore」でも販売していたという、神戸のショップ「EPOCH」のものや、DJ HOLIDAYさんから頂いたものなど、約20枚。
「昔からコンピレーションやミックステープが好きでした。MIXCDは、サブスクとは違ってジャケットも楽しめるし、モノとしての満足感も全然違うんですよね。そういえば、山下達郎さんの存在もMUROさんのミックステープで知りました(笑)」
ちなみに、ログハウスというのは全体が木でできていて、音の跳ね返りがとても柔らかい。木が音を適度に吸収し、反響させるという特性があります。その証拠に、コンサートホールに使用されるのも、ほとんどが木材です。「たしかに、音がマイルドになっているかも」と山下さん。
山下さんが、この空間で音楽を聴きたいと思ったのは直感だったそう。けれど、実はログハウスの反響という物理的な理由や、家のコンセプトともしっかり繋がる。「なんとなく」にも、理由はちゃんと隠れているものなのかもしれません。
「あと、ぼくがいいと思ったのが、『COUNTRY LOG』は仕切りが少ないので、ほかのモデルに比べて、誰かの気配をどこにいても感じられること。ぼくがここで流す曲が他の部屋にも届くだろうし。家族との生活がとても想像しやすいです」
住む家が変われば、趣味はもっと広がっていく。
ひと通り部屋を巡り終えたところで、あらためて〈BESS〉の魅力を尋ねると、山下さんはこう答えてくれました。
「いちばん感じたのは手触り感だったり、ぬくもりですよね。どこにいても木材を感じられるし、窓も多くて外との距離も近い。自分の趣味とログハウスの相性はいいと思うし、すごく自分の好きな雰囲気でした」
都会のど真ん中で育った山下さんですが、かつて過ごした軽井沢の別荘への憧れは、今も変わらず持ち続けているといいます。そして、こう続けます。
「自分は仕事と趣味がわりと直結していることもあって、自分の空間がとても大事だし、自分の好きなことと黙々と向き合っていたくて。だからこそ、家という空間がとても大事なんです」
誰かと出かけて共有するのではなく、一人で家にこもり、趣味とじっくり向き合う。そうして趣味を醸成させることで、山下さんならではの審美眼が育っていきました。
〈BESS〉の家であれば、より趣味は広がり、深くなっていく…。家と趣味の相互関係は、思っているよりも強く結びついているものなのかもしれません。