Kashimi's political message in his clothes.

Qasimi talks about career, identity, fashion...

The political message that Qasimi puts into his clothes.

The designs have a street-like playfulness with a somewhat nomadic atmosphere. QASIMI's collections are a mixture of Middle Eastern and Western cultures, and have a sense of beauty not found in other brands. The designer's name is Khalid Al Qasimi. Tracing the source of his delicate creations reveals the social background of his childhood. To explore his identity, we interviewed him during his visit to Japan in late March.

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カリッド・アル・カシミ

〈カシミ〉デザイナー。アラブ首長国連邦・シャールジャ生まれ、イギリス育ち。ボーディングスクールを卒業後、「ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン」に進学するが、ファッションが好きだったこともあり、「セントラルマーティンズ美術大学」の基礎科に転学。修了後、建築学校を経て、セントマーティンズに復学し、ウィメンズウェア・デザインを専攻。卒業後、パリとロンドンでいくつかのコレクションを発表したのち、2008年に自身の名を冠したブランドを正式にスタート。

幼少時代の記憶。家族からの影響。

その美しいTシャツには、アラビア語で「The End」と書かれてあった。裏側には英語で「It ended before it begins(始まる前に終わった)」の文字。何が終わって、何が始まったのか(あるいは始まらなかったのか)、これらの言葉だけではその真意を推し量ることは難しい。END=終焉という言葉には、どこか悲しい記憶が隠れていそうだけれど、あるいは悲しい過去に終止符が打たれたという明るいメッセージなのかもしれない。でも、少なくとも、〈カシミ〉の2019年春夏コレクションは、エレガントで軽やかで、ノマド的な自由さに溢れた、力強い日差しが似合う服であることは確かだ。

9歳で渡英するまでの間に、〈カシミ〉率いるデザイナー、カリッド・アル・カシミは、生まれ故郷である中東で2つの戦争を目の当たりにした。イラン・イラク戦争と、湾岸戦争だ。だから、幼いながらに戦争がなんであるのかについて考え、理解した。政治はいつも、身近なものだった。デザイナーとしてデビューしてからも、湾岸戦争をテーマにしたコレクションなど、その洗練された見た目からは容易に想像もつかないポリティカルなメッセージをデザインに込めてきた。

「学校から帰って家族と食卓を囲むときには、いつも政治の話題になった。家で『お前はどう思う?』って質問されることがわかっていたから、こっちも回答を準備しておかないといけない。緊張感があるよ(笑)。でも、例え家族でも、それぞれに異なる見解を持っていて、それを知ることはとてもいい経験だった。世の中には、さまざまなものの見方があることを幼いながらにわかったから」

こうした背景が自身の価値観に大きな影響を与えていることを認める一方、彼は、“中東出身のデザイナー” という枠組みに押し込められることを回避するため、声高にそれを主張することはしない。ファッション業界に吹き荒れる “ダイバーシティー” や “インクルージョン” 旋風には大いに共感するが、それに乗じることは彼の美意識に反するのかもしれない。

「それは家族から受けた影響かもしれない。自分の背景や知識をひけらかすことは、あまり美しいことじゃないという認識が小さいころからぼくのなかにあったように思う。ぼくの家族には、そういう控えめなところがあったんだ」

激動の中東にあって、彼の幼少時代はとてもクリエイティブなものだった。建築や歴史、写真に明るい父と、ファッション好きで自身でも服を手づくりしていた母のもと育った。母親が布地を買いに行くのについていっては、幼いながらにあれこれアドバイスしていたそうだ。双子の妹は、現在、アートのキュレーターとして世界を飛び回っている。

けれど、彼がファッションデザイナーになることは、家族の誰も想像してなかったようだ。イギリスのボーディングスクールを卒業後、彼は「ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン」(UCL)に進学し、フランス語とスペイン語を専攻したが、ファッションへの愛が冷めることはなく、「セントラルマーティンズ美術大学」の基礎科に転学する。周知の通り、ファッションの名門だ。ゆえに、そこでは多くがファッションデザイナーを志す。そんな状況に「ちょっと辟易した」カリッドは、基礎科修了後、空間デザインを学ぶために建築学校である「AAスクール」に進学した。

「すごくいい経験だった。空間の捉え方や人と空間の関係性など、多くを学んだ。でも、やはりファッションのことが頭から離れなかった。そして、セントマーティンズに復学し、ウィメンズウェア・デザインを専攻したんだ」

卒業後、パリやロンドンでいくつかのコレクションを発表したのち、2008年、拠点のロンドンで〈カシミ〉をローンチした。当時はウィメンズウェアも展開していたが、2014年に、メンズウェアに特化したブランドとして再出発している。

タフな時代に人々に夢を与えてくれるもの。

彼のコレクションは、視覚的なアイデアを集めるところからスタートする。自身の興味を捉えたさまざまなビジュアルを “イメージバンク” に溜めた中から、直感的にいいと感じたものを選び、編集して、ストーリーを紡いでいく。すべてのコレクションに共通するのは、ミリタリーの要素とアーシーなカラーパレット、そしてノマド的な雰囲気。それらがストリートっぽい遊び心とともに、知的でミニマルなデザインに落とし込まれている。

サンプリングに長けたプロデューサータイプのデザイナーが大活躍する時代のファッション業界においては、どちらかというと正統的なデザイナーという印象を受ける。彼にとってこうした業界の流れは、どんなふうに映っているのだろうか?

「かつてのファッションシステムは、ロンドンでもパリでも、もう機能しなくなっている。デザイナーよりも、ソーシャルメディアを通じて消費者がトレンドを牽引していく時代だしね。だから、他のデザイナーがどういう方向に向かっているかを気にすることはないよ。ぼくはそもそも、ファッション業界のグラマラスなファンタジーには、あまり興味がないんだ。これは空間デザインを学んだことも影響しているかもしれないけど、ぼくはただ、美しいプロダクトをつくりたいだけ。ソーシャルメディアなどを通して、消費者と繋がり、対話を大切にしつつも、彼らの欲求を満たすことにとらわれないようにしている。それが目的になると、自分が何者かを見失ってしまうから。結局のところ、自分が一番得意とすることを追求するのがベストだと思うんだ」

2019-20年秋冬コレクションは、これまでの〈カシミ〉のコレクションの中でもっとも冒険的かもしれない。彼が好んで用いてきた過去のカラーパレットにはあまりなかった強い色彩にも挑戦したほか、敬愛するアーティストのメル・オドム(Mel Odom)とコラボレーションし、ロマンティックで妖艶なオドムの代表的な水彩画をプリントしたアイテムも発表した。

「イギリスのブレクジット然り、いまの世界には、政治や文化、あらゆる面で多くの緊張が生まれている。今回のコレクションでは、あえてそうした張り詰めた空気をデザインに盛り込みたいと思ったんだ。ぼくにとってファッションとは、芸術的なプラットフォームというよりも、メッセージを伝達するためのメディア。中東と西欧、タフネスとロマンティシズムといったことの間に横たわるボーダーを、ファッションの力で押し広げていきたいんだ」

ブレクジット後の世界が見え始めたら、再びウィメンズウェアにも挑戦したいと語るカリッド。さまざまなことを分かつ境界線を超えた先に、彼はどんな世界を築こうとしているのだろうか?

「ファッションは、クオリティ・オブ・ライフのほんの一部に過ぎない。だから最終的には、空間、家具、香り、食まで、生活を質をあらゆる角度から高めるようなライフスタイルブランドを目指したい。それこそが、タフな時代に人々に夢を与えてくれるものだと思うから」

QASIMI

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