一貫生産が可能とした圧巻の手間暇。
〈AG〉は2010年、オゾンテクノロジーを導入した。洗いの工程で使用される化学薬品、水の消費量を大幅に削減する技術で、いずれも従来比56%ダウンを達成、さらに残布、軽石をリサイクルするシステムも構築した。
一貫生産で生じた余力を、みなが手をこまねいていた部分に振り向ける──これこそが〈AG〉のプライオリティであり、余力はものづくりそのものにも遺憾なく発揮された。二本針で留めるボタンやバリエーション豊富な股上に対応すべく取り揃えたオリジナルのジッパーは好例だろう。手間のかかる工程やパーツ開発に惜しみなく力が注げるのはまさにクーズ・マニュファクチャリングの強みである。
なかでも縫製に対するケアは圧巻だ。一般に内股の縫製は左、あるいは右から股下を通り、ぐるりと一周縫うが、〈AG〉では左右それぞれ縫い進め、股下で縫合する方法をとる。これにより糸の方向が揃い、アタリなどのエイジングも均一に進む。
縫製や加工につづく仕上げの乾燥工程も注目に値する。〈AG〉は低温でじっくりと時間をかける。生地本来の柔らかさが保たれるのは明らかだが、コストや納期を考えればそんな悠長なことはやっていられない。
生地それ自体のクオリティも高い。〈AG〉では日本、イタリア、アメリカの生地のなかから不均一な糸で織られたスラブ生地を中心に仕入れている。タテ落ちに独特の表情が生まれるのがその理由だが、これに飽き足らない〈AG〉はオリジナルの開発にも乗り出している。晴れて縫製ラインに乗るまでにそのデニム・ファブリックは縮率、カラー、糸……他ブランドに比べてはるかに細分化された、そしていずれも抜きん出て厳しい検査基準をクリアしなければならない。
穿き込んだ年数を謳う加工。
人体構造を熟知したシルエットは〈AG〉のデニムに共通する魅力だ。スリムストレートの「マッチボックス」やスリムテーパードの「テリス」など顔となるモデルも数多く存在する。そのシルエットに合わせ、ステッチのピッチやポケットの位置まで計算し尽くされているのも特筆すべき点だろう。
作業着というレッテルを剥がすのみならず、スタイル、シーンを超えたボトムとして認知させるのに研ぎ澄まされたシルエットが貢献したのは間違いないが、〈AG〉といえば加工技術も見逃せない。
新生〈AG〉の地力をみせつけたコレクション「AG-ed」はまるでワインのように3年もの、5年ものといった具合に穿き込まれた想定年数を記している。そのユニークな仕掛けもさることながら、唸らざるを得ないのは年数表記に真実味を感じさせる精密な加工っぷりだった。これを支える自慢の工程がシワ加工とレーザー加工だ。
シワのリアリティは職人が一本一本刻んでいく気の遠くなるような作業があってはじめてカタチになる。まさしく根気と年季がいる工程である。一方のヒゲ加工に代表されるレーザーを駆使した3D表現もひけをとらない。レーザー加工にはその型となるテンプレートがいるが、〈AG〉のそれはこだわりが高じて一からつくり込んだオリジナルだ(競合他社のほとんどはありものを使用している)。必要とあらば通常は1〜2回の加工工程を3回、4回と重ねることも厭わない。
メキシコに第二の工場を設けて増産体制を整えた〈AG〉だが、いまなお一本のデニムに最低でも100人! 近い職人が携わっている生産背景は変わらない。