「攻殻機動隊という作品に絡むことはきっとない」。そう思っていたのに……。
PROFILE
1984年生まれ。静岡県富士宮市出身。GAINAXを経て、現在はTRIGGER所属のフリーランスアニメーター。2017年、『リトルウィッチアカデミア』TVシリーズでキャラクターデザイン・総作画監督に抜擢。以降、『スプリガン』や『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』でキャラクターデザインを務め、活躍の場を広げている。
自分には関係ないと好き放題言ってたら、それがまさかの特大ブーメランに。
ーそもそも総作画監督とキャラクターデザインというのは、それぞれどんな役割なんでしょうか?
半田: キャラクターデザインと聞くと“ゼロイチでオリジナルのキャラクターを創り出すこと”を指すと思われがちですが、アニメの世界でいうところのキャラクターデザイン、それも今回のように原作漫画のアニメ化というケースでいえばちょっと違います。そもそもアニメの制作というのは集団作業で本当にたくさんの方たちが関わっていて、絵の部分だけでもワンクールで原画マン(原画を描く人)が200人から300人、下手すればさらに多くのアニメーターが描くことになります。
ーテレビシリーズでもそんなに多いんですね。
半田: ビックリしますよね。で、その方たちが描きやすいようにディテールを整理したり記号化するのが、アニメのキャラクターデザインという役割です。ぼくはゼロからイチを生み出すよりも、元々あるモノを整理する方がどちらかといえば得意だし、「どうすれば他のみんなが描きやすくなるかな?」と考えるのも割と好きなので、楽しんでやれています。
ー雑誌の編集者の仕事とも近い感覚ですね。情報を分かりやすく伝わりやすくし受け手側にパスする。
半田: そうですね。で、総作画監督はたくさんのアニメーターの方たちが描いてきた絵をチェックして、“気になった部分を整える”という感じですかね。例えば女性キャラって、口の位置をちょっと上げたり、輪郭の線をちょっと細くするだけで一気に可愛くなったりするんですよね。そういった部分をチェックして“仕上げる”役割を担っています。
ーなるほど。ここから早速『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』について伺っていきます。まずは半田さんが本作に参加することになった経緯を教えてください。
半田: これがかなり長い話になってしまうのですが……もともと自分が関わることもないと思って、モコちゃんに会った際に好き放題言ってたんですよ。「これまでのアニメももちろん良いけれど、せっかく士郎さんの描く女の子は可愛いんだから、自信を持って原作の絵で(アニメを)作ればいいんだ!」とか、 ゲーム『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』(PS・1997年)のムービーを見せて「これが最高なんだよ〜!」みたいな感じで、ああすれば・こうすればなんてことを無責任に(苦笑)。
そうしている内に、ぼくのところに依頼の連絡がきて……。これが参加の経緯になります。
半田さんのデスクには攻殻機動隊シリーズをはじめ、士郎正宗作品や画集が資料として並ぶ。他には半田さんが生まれた1984年発行の『POPEYE』や『Hot-Dog PRESS』も。
ーめちゃくちゃハードルを上げる特大ブーメランになってしまったと(笑)
半田: あんなに好き勝手言った手前、これでさすがに「やりません」なんて言ったら「あいつ、何なの!?」って絶対になるじゃないですか。サイエンスSARUの当時の代表取締役のチェ・ウニョンさんから言われた「攻殻機動隊をやることは、私たちの世代に残された宿題」という言葉に「たしかにそうだな」と思って受けるかどうかを悩んでいた時に、TRIGGER(半田さんが所属するアニメーション制作スタジオ)のプロデューサーに話をしたら、「攻殻機動隊っていう作品は誰もが携われる作品じゃない。あんたのところに話が来たのなら、アニメーターとしては絶対にやった方がいい!」と、強く背中を押されまして。
ーそれで参加の意思を固めたワケですね。
半田: はい。TRIGGERの仕事もあるため、当初は「キャラクターデザインを無理のない範囲でよいので受けて欲しい」という話だったんですが、プロデューサーから「TRIGGERのことは気にしなくていいから、キャラクターデザインだけではなく総作画監督として作品の最後までちゃんと付き合ってきなさい!」と言われたので、「やってやろうじゃないの!」とサイエンスSARUにデスクを移し、今日へと至ります。
ーなるほど、依頼を受けた際のファーストリアクションはどんな感じだったんですか?
半田: もちろん声をかけてもらえたことはうれしかったですよ。アニメの絵って漫画風とリアル風の絵の2種類に大別できるんですが、攻殻機動隊シリーズは押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)をはじめ、どれもリアル風の絵だったんですよね。ぼくはどちらかと言えば漫画風の作品が得意なので、「ぼくのアニメーター人生において、『攻殻機動隊』という作品に絡むことはきっとないだろうなぁ」と今までは思っていました。
ただ、よくよく話を聞いたら今回は士郎さんの原作漫画をベースに作るという話だったので「それならぼくにもできそうだな」と思ってお受けしました。さっきも言ったように、『攻殻機動隊』という作品に絡むことはないと思っていたので、大好きな作品に関わることができてすごくうれしいです。
悩み、葛藤しつつ仕上げたキャラデザは拍子抜けするくらいスムーズにオールOK。
ー本作のキャラクタービジュアルは原作漫画版のタッチに近く、ポップでユーモラス、そして軽やかです。監督やプロデューサーからはどのようなオーダーがあったのでしょうか?
半田: なんかあったかなぁ……? う~ん、特になかったと思いますし、マジでストレスゼロでした。自分のやりたいように好き勝手に描いて提出。すると「いいね!」という言葉とともに回収されて、じゃあ次は…みたいな(笑)。そりゃあ、自分自身の中での悩みや葛藤はメチャクチャありましたけど、それってクリエイターなら誰もが経験する孤独な戦いじゃないんですかね。
ー原作者である士郎さんのチェックは、どんな感じなんですか?
半田: チェックはしていただいているそうなんですが、士郎さんの方から何か言われたことは特にないですね。ただひとつ気になっているのが、今回の絵柄について。士郎さん的に恥ずかしいしイヤなんじゃないかなと思うんです。昔描いていた絵柄って、過去として穴に埋めてきたもの。それをぼくが喜んで掘り起こして持ってくるワケで。どう感じているのかが気がかりではありますね。
ー最近では、80年代~90年代のアニメを令和版にリブートする流れもありますよね。そういうケースの場合、どの程度までベースの雰囲気を拾うのが正解なんでしょうか?
半田: 昔の雰囲気を再現したいのか、今っぽくしたいのか。そこは作品ごとの正解があるのでしょうが、アップデートさせて、令和の今だからこそできる表現に挑戦することは絶対に必要だと思います。例えばセルに手描きして絵の具で色を塗るのでは難しかった髪の毛の複雑な描き込みや、繊細な色のグラーデションなんかそうですよね。それもデジタルなら可能ですし。
ー半田さんらしさという点で言えば?
半田: キャラの線の太さじゃないですかね。それこそ自然と滲み出るTRIGGERらしさで、画としてのチカラもすごく強くなります。あとは線の処理ですかね。今回は撮影さんにちょっとザラッとしたテクスチャーを加えてもらっています。
ーコンテを拝見したところ、その線の太さを活かしたアクションシーンやギャグシーンも多く見受けられました。表情やキャラの演技という点で意識した部分はありますか?
半田: 原作漫画ではどの登場人物も表情豊かなので、キャラ表もいろいろと描きましたが、自分的にまだまだ足りないとは思っていて。もっとパターンを描けと言われたら永遠に描けるんですが、枚数があまり多くても混乱するのかなと思ってセーブしました。
ーたしかに登場キャラの人間くささが本作の特徴でもあります。ただメインキャラである草薙素子に関しては、押井版の雰囲気に引っ張られちゃわなかったのかが気になります。
半田: それは、逆に引っ張られないようにしてました。ただ、若い世代のアニメーターって、おもいっきりディフォルメを効かせたようなギャグシーンをあまり描き慣れてないから、どこまで崩していいのかがわからないと経験上思っていて。なので1話でチェックに回ってくる原画では草薙の表情もかなり硬かったように感じられ、「ギャグシーンはこんなテキトーな絵でいいんだよ」と修正を入れたりしました。
ーギャグシーンもまた、TRIGGERの本領発揮ですよね。続いて、キャラを含め色彩の部分についてお聞きします。色彩設計の橋本さんとは、どんなお話をされたんですか?
半田: 一応、イメージが伝わりやすいように、ぼくの方でキャラのラフを描く際に彩色して提出し、それを元に塗ってもらいました。色彩に関しては、ぼくよりモコちゃんからのオーダーの方が多かったのかな。「もっと暗い色にしてほしい」といったオーダーも取り入れながら、橋本さんが調整してくれました。
令和の世に“新たな攻殻機動隊”を提示登場キャラのファッションにも要注目。
ーティザービジュアルの草薙素子の青髪がすごく印象深く、「新たな攻殻機動隊が誕生する!」と期待する声も多かったです。
半田: 草薙の髪色って、シリーズの他作品では濃いめブルーや黒、紺色、時には濃いめの紫だったりするなかで、自分のイメージとしてはコミック1巻表紙の色なんですよね。なので、今回はより鮮やかな青色にしたいとオーダーして。
半田: 橋本さんから「とりあえず塗ってみました」と最初に上がってきたビジュアルが本当に衝撃的で。めちゃくちゃ90年代アニメのセル画絵みたいな感じだったんです。
これによって、世に出る最初のビジュアルとして、しっかり“サイエンスSARUが作る令和の攻殻機動隊”のスタンスを提示できたんじゃないかなと思っています。
ーキャラデザイン、色彩、そして構図とフレッシュなのに懐かしさも感じる。まさに“令和版『攻殻機動隊』”だなと。
半田: あの構図は、画集に掲載されたりもしているコミック1巻表紙のラフ案を元にしています。この元ネタ使いと素子の髪や瞳の色の明るさで「士郎正宗の原作漫画をベースにアニメ化している」「既存の攻殻機動隊シリーズとは作品のトーンが違う」。これらの点を示唆した……つもりだったんですが、伝わってたらいいなぁ。
ー今回、特別に原画もご用意いただいたのですが、素人目にはどの辺が見どころなのかイマイチわからずでして……。
半田: (原画の束をめくりながら)この辺は田中宏紀さんが原画を担当しているカットですね。この方は、デジタルではなくアナログ(紙)で作業されているんですが、本当に上手いしめちゃくちゃ格好いい絵を描かれる方です。このエフェクトとかヤバくないですか?
各アニメーターが描いた絵を作画監督がチェックし、さらにそれをチェックするのが総作画監督の主な仕事。「こんな感じでパラパラとめくってチェックします」(半田)
田中さんの原画を見ながら「やっぱり格好いいなぁ」と、おもわず声が漏れる半田さん。爆破などのエフェクトや重力表現は、アニメーターの腕の見せどころ。
ーたしかに格好いい! 半田さんが本作で一番注目してほしいポイント、そして本作を楽しみにしている読者へのメッセージをお願いします。
半田: そうだなぁ〜・・・作品自体の見どころはモコちゃんにまかせるとして、キャラクターデザインからの視点で言うと、「士郎さんの絵は令和のいま見ても可愛いんだぜ!!!」に尽きますね。
そして、『HOUYHNHNM』読者の皆さんにぜひ注目してほしいのが、登場キャラクターのファッションです。例えばバトーの私服では色こそ違えど迷彩柄をどこかに取り入れている点や、ドラマ『あぶない刑事』を参考にしながら描いたトグサのジャケット&パンツのシルエットなどなど。
士郎さんの原作漫画を意識しつつ、発表当時(1989年)の空気感とキャラごとの雰囲気が出せているんじゃないかなと思っているので、そんなファッションをした登場人物たちが、どのように活躍するのか。ぜひお楽しみに!
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