パターンもディテールも変える、攻めた別注。
「ジャーナル スタンダード」が〈キャプテン サンシャイン〉をセレクトする理由を教えてください。
中本ぼくらが好きなものと児島さんの好きなものが似ているということもあって、共通点が多いというのが最大の理由ですね。
児島さんは「ジャーナル スタンダード」に対してどんなイメージを抱いていますか?
児島正統派なメンズのクラシックなブランドやアイテムを扱いつつ、一方では現代のトレンドもしっかりと表現していて、そのバランスの取り方がすごく上手だなと思っています。とりわけ、オーセンティックなアイテムをすごく大事にしていて、そこが共感する部分ですね。
両者ともアメリカの服やブランドに対してはすごく思い入れをお持ちですよね。
児島そうだと思います。アメリカがベースではあると思うんですが、それはあくまで基盤の部分で、そこだけに固執するわけでもなく世界中に目を向けてアイテムをセレクトしているところも惹かれますね。
2年ほど前からトリプルネームという形で別注アイテムをリリースされていますが、「キャプテン サンシャイン × ジャーナル スタンダード」ではなくて、そこにもうひとつブランドを介するのはなにか理由があるんですか?
児島〈キャプテン サンシャイン〉のインラインを結構なボリュームでやっていただいていて、店頭ですごく評判がいいということだったんです。それをさらに発展させる意味でも、なにか一緒に取り組みをしましょうとお話をいただいたのがきっかけですね。まずは話題性のあるものをということで、お互いが刺激を受けてきたブランドのアイテムをエディットしましょうということになったんです。
中本ぼくたちが昔から着ている服や、日常的に身につけているものを児島さんの手によって生まれ変わらせたらどうなるんだろう? という気持ちがはじめにありました。
デザインのやり取りはどのようにして行っているんですか?
児島どんなアイテムをつくるか、そもそもの題材を決めたあとに、お互いが持つイメージの擦り合わせをして、あとの細かなデザインはおおむね任せてもらっています。〈キャプテン サンシャイン〉というネームが付くからには、うちらしいものづくりをしなければならないと思っているので。
デザインは古いカタログやアーカイブを参考にされているんですか?
児島そうですね。ここにいる中本さんをはじめ「ジャーナル スタンダード」のバイヤーの方々はオーセンティックなアイテムの知識を持っているので共通言語があるんです。だから、「あのアイテムの、あの年代の、あの感じ」っていうのが話すだけでわかる。ベースの部分から同じ目線で話ができるので、すごく助かってます。
いわゆるオーセンティックなブランドやアイテムだと、いままでにエディットされ尽くした感覚もあると思うんですが、それらの別注アイテムとどのようにして差を出していますか?
児島たとえばセレクトショップがどこかのブランドを別注した場合、正統な方法でやられると思うんです。生地を春夏仕様に変えるとか、サイズ感をちょっといじるとか、オリジナルのアイテムの良さをそのまま残して、季節やショップの色に合わせたエディットをすることが多いですよね。
たしかに、別注とはいえ、ほぼオリジナルのままというケースも少なくないような気がします。
児島うちの場合は、もっと踏み込んだ別注をしたいなと思ってます。パターンから見直してシルエットの異なるものをつくったり、そもそものディテールを変えることもあります。とはいえ、元ネタとなるブランドの良さというのはしっかり残さないといけない。そのバランスのギリギリのところを攻めるようにいつも工夫してますね。
ビギナーから玄人まで楽しめる新感覚の〈バブアー〉。
今季の別注についてもお話を聞きたいのですが、まずは〈バブアー〉とのアイテムについて。これは中本さんからこのブランドでいきたいという意向を伝えたと聞きました。
中本〈バブアー〉ってオーセンティックなブランドでありながら、着るときと着ないときの波が激しいというのを個人的に思っていて。最近トレンドの服ばかり着ていたという人たちをもう一度オーセンティックなアイテムに振り向かせるような別注にしたいという思いがありました。なおかつ、日頃から〈バブアー〉に慣れ親しんでいる人にも新しい解釈が生まれるようなアイテムにしたかったんです。
中本そうですね(笑)。ただ、児島さんなら叶えてくれるかなと。
児島バランスの取り方に苦労はしたんですが、〈バブアー〉らしさって細かなディテールの集積で成り立っているような気がするんです。たとえば代表的なオイルドの生地だったり、前立てのデザイン、パーツの使い方、あとはこのポケットの形ですね。それを残しながらやれることをやりました。このブランドのアイテムはデザインが完成されているので別注するのが難しいんですけど、そのぶんうまくいったときの喜びはひとしおです。
児島アメリカの古いフィッシング系のジャケットと、〈バブアー〉のスペイジャケットをミックスするような感覚でデザインしました。
先ほど話されていたオイルドの生地ではなく、薄手の軽い生地になっているところが春らしいですね。
児島そうなんです。軽くてサラッと羽織れるようになっているのと、オイルドファブリックの独特の香りもなくなっています。とはいえ、見た目だけはオイルドっぽい雰囲気が出るようにこだわりました。生地に起毛感がでる加工を施していて、ちょっとだけヌメりのある質感がオイルドのムードと似ているかなと。
中本そういった生地への細かなこだわりは〈キャプテン サンシャイン〉ならではですよね。だからこそ〈バブアー〉らしさが出ているし、初めての人も、ブランド好きな人も、両方向から楽しめるアイテムになっていると思います。
ようやく実現した〈インディビジュアライズド シャツ〉のクレイジーパターン
続いて〈インディビジュアライズド シャツ〉ですが、クレイジーパターンで大胆なデザインが特徴的ですね。
〈KAPTAIN SUNSHINE × INDIVIDUALIZED SHIRTS for JOURNAL STANDARD〉シャツ 各¥37,000+TAX
児島先シーズンに「ごちゃごちゃしたネルシャツをやりたい」という話をしたんですが、生地が足りないということでできなかったんです。それを今回、春夏仕様にして実現しました。
ごちゃごちゃしすぎると、合わせにくくなりそうですが、このアイテムはそんなことなさそうです。
児島言葉にするのがすごく難しいんですが、ぼくのなかで「ここまでならオーケー」という線引きがあって、それを超えないようにバランスを見ながら配色を考えました。
児島そうですね。昔の映画や古い雑誌で見かけたボタンダウンの配色をイメージして、上手にバランスを取りながら。柄の配分に気を使ったりとか、色のトーンを合わせたりなど、整合性が取れるように意識して生地を配置していきました。
児島クラシックなフィット感のアメリカのB.D.シャツをイメージしました。少し大ぶりでどこかいなたいというか、野暮ったい感じを表現しているんです。
児島ただ、このブランドといえばやっぱり襟の形が特徴的なので、そこは変更せずにそのままにしています。実は前に同じ取り組みで〈インディビジュアライズド シャツ〉を別注させてもらったときの形で、ぼく自身そのシルエットがすごく気に入っていて、インラインで別注したときも参考にしたほどなんです(笑)。
中本このサンプルが上がってきたときにオフィスにあったラックに掛けて、店頭に並んだときのことをイメージしてバイヤー陣で大盛り上がりしたのを覚えています。柄の配置やサイズ感含め、このバランス感は児島さんならではだと思います。
児島〈インディビジュアライズド シャツ〉って独特の雰囲気がありますよね。同じものを日本でつくろうと思ってもできない。この生地感や縫製がオンリーワンのムードを出しているんだと思います。
お気に入りの生地を使った〈シエラデザインズ〉の3WAYアノラック。
この〈シエラデザインズ〉のアノラックは児島さんが一からデザインを手がけたそうですね。
児島このアイテムだけ、ぼくが「つくりたい」と言ってつくらせてもらったものです。先ほど紹介した2つのアイテムに加えて、もうひとつアウトドア感の強いアイテムがラインナップにあるといいなと思ったのが理由です。〈シエラデザインズ〉はもともとこういうライトウェイトなアイテムをつくっていたブランドで、それこそフェスとかキャンプで着られるようなアイテムがあるといいなぁ、と。
着丈を2段階に調整できるようになっているところがユニークです。デザインのインスピレーションはどんなところから来ているんですか?
児島大元のデザインはミリタリーのアイテムから引っ張ってきて、着丈を長くしたのは、ロング丈の雨合羽を連想しました。たしか70年代の〈シエラデザインズ〉のカタログにそういうアイテムがあったなと思い出したんです。
70年代のアイテムからインスパイアを得ているとはいえ、生地は「ソロテックス®」を使用した現代的なつくりになっています。
児島適度なハリがある上にしなやかで、パッカブルにするのに理にかなった生地なんです。すごく気に入ってます。広げたときのシワの出方もすごくいい表情になってくれて。それに独特のヌメッとした触感も好きですね。
畳んだときにサコッシュにしたのはどんな理由からなんですか?
児島文字通り持ち運べるように。単純にそっちのほうが使いやすいかと思って、自分の経験からそういう仕様にしました。
中本突然のちょっとした雨のときにいいですよね。あとはキャンプへ行ったときに洗い物をするときも、着丈が長いと便利です。なにもないと太もものあたりとかがビショビショになっちゃうので(笑)。
うれしい連鎖が生まれる取り組み。
各アイテムともブランドの良さは残しつつ大胆に手を加えられているところに、“別注”という手法の真のあり方があるような気がします。
児島それはいつも気にしていることで、別注の意味を忘れないようにしています。「なぜそのブランドと一緒にやるのか」というのは常に考えているので。
新しいものをつくるというか、予想だにしないアイテムをデザインするということですか?
児島そのさじ加減が大事ですよね。飛ばしすぎてもいけないと思いますし。先ほど話した通り、うちの名前を入れさせてもらう意味も必要ですし。ブランドの特徴ってそれぞれ違うと思うんですよ。生地であったり、細かなディテールだったり、あとはヒストリーや背景であったり。それをしっかりと見極めて、いいところは残さないと、そのブランドと一緒にやった意味がなくなってしまいます。
中本ぼくらはそこに児島さんらしさを感じますね。各ブランドの特徴が活きたデザインがされているので、店頭に並んだときもそれぞれの主張がはっきりと出るんです。インラインのアイテムと並べても埋もれたりしないですし、かといって異色な感じもしない。常に鮮度がキープされていて、実際にお客さまの反応もいいんです。
一度だけの取り組みだけではなくて、シーズン毎にコラボレートをすることで、得られることはありますか?
児島いま中本さんが話していたように、「ジャーナル スタンダード」のバイヤー陣は店頭に並んだときのことを考えてアイデアを出してくれるので、いつも勉強になります。ぼくは自分のお店を持っていないので、それは普段意識しないところなんです。店頭のラック数やスペースも限られていますし、そこでどうやって世界観を表現するか。「インラインでこのアイテムがあるから、こういうのはいらない」とか、そういうやり取りが楽しいです。
中本普段のバイイングではぼくたちは選ぶ側なんですが、別注に関しては一緒につくっている感覚を味わえる。細かなディテールに至るまで話し合って決めるので、いつもとは違う筋肉を使えて楽しいんです。その楽しさをショップにいるスタッフに伝えると、「いいですねぇ!」って言ってくれて、今度はそれをお客さまにも伝えてくれる。つまり、うれしい連鎖が生まれるんです。原点に立ち返られるというか、素直に「服って楽しいな」と思わせてくれる取り組みなので、お客さまにもそこを感じてほしいですね。
JOURNAL STANDARD 表参道
住所:東京都渋谷区神宮前6-7-1
電話:03-6418-7961
営業:11:00~20:00(不定休)
Instagram:@jounalstandard.jp
journal-standard.jp