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三原康裕と相澤陽介によるファッションデザイナー論。

三原康裕と相澤陽介によるファッションデザイナー論。

三原康裕と相澤陽介。ともに長年にわたって海外でファッションショーを開催しているブランドのデザイナーであり、国内のみならずグローバルなフィールドで活躍している俊英です。遡れば二人は多摩美術大学という同じ学び舎で学生時代を過ごした先輩・後輩という関係でもあります。今回、フイナムでは本邦初となる対談企画を実施。ロジカルでありながら、パッションをも持ち合わせている二人には驚くほどの共通項がありました。

  • Photo_Ko Tsuchiya
  • Edit_Ryo Komuta

ー 相澤さんは学校で生徒にどんな風に教えているんですか?

相澤:最初に大学側からお話をいただいたときには、三年生しか教えたくないということを伝えました。三年生というのは社会に出る直前なので、学生たちのマインドもきちんとファッションデザイナーを志しているという前提なわけです。それだったら引き受けさせていただきますという感じでした。で、実際にやることになったので、僕が大学で教えてもらわなかったことを全部教えようかなと思っています。

ー 具体的に言うとどんなことでしょう?

相澤:例えば、短い期間のなかでどうやって情報を集めるのかとか。たぶん三原さんもお話あると思うんですけど、制服の仕事ってあるじゃないですか。

三原:あるある。

相澤:自分は、過去に(ロンドン)オリンピックのやつをやったりもしましたけど、ものすごく短い期間で莫大な数のアイデアを出さなきゃいけなかったりするわけです。しかもそれが叩かれる可能性もあります。パブリックデザインはリスクが伴う仕事なんです。ひとつのものを作るための過程のなかで、どういう風にトライ&エラーを繰り返して、モノを作っているのかということを授業ではやっています。

ー なるほど。

相澤:どうやって情報を集めるのかという点で言えば、インターネット上の情報を使っても別に構わないと思っていますが、それに自分の経験や私見をどう噛み砕いて融合させていくのかという独自の方法論がないと、ファッションにもデザインにもならないんです。

三原:本当にそうだよね。自分のデザインとしての方法論をどのように追求していくことが大事。

相澤:学生には週ごとに課題を出していくんですけど、最終的にどんなものを作るかというのは生徒が決めるわけです。例えば航空会社のCAの制服とか。で、それを作るにあたってどうやって情報を集めるのかというのを見ています。その情報が、どこかの資料から飛行機の歴史をコピーしてくるだけじゃつまらない、もう全然足りないです。これって僕がクライアントだった場合に、あなたがどんな仕事をするのかっていう準備のプレゼンテーションなんです。もちろんみんなゴールを目指しているわけなんですが、むしろそこに向かう過程が気になるんです。

ー 思考の訓練であり、情報処理の練習なんですね。

相澤:ゴールにたどり着いたときにはもう修正が効かなかったりします。だから過程が大切なんです。そういう意味で言えば僕らがやっているショーも同じです。ショーのアイデアを一人で考えているとどこかで限界がきます。ではスタッフにどのタイミングでシェアをするのか。そのときに彼らにしっかりプレゼンできないとダメなんです。自分の力以外のものを味方にするということをしていかないといけない。そこから自分の考えを融合させて膨らませていくといった過程がとても重要です。

ー 相澤さんは、近年よくそういう趣旨のことを言いますよね。

相澤:僕は、机に向かってデザイン画を描いて満足するという行為が嫌いで、絵を描くまでの時間と思考が大切だと思っています。大学で面白い作品ができました、というだけだと中々伝わらない。なんのために作ったのか?どういうルーツがあって、ゴールまでの過程があったのか?それを説明できないひとはデザイナーに向いていないと思っています。

三原:相澤くん、さっき職人肌っていう言葉は嫌いだって言ってたわりには、すごく職人肌だよね。けど相澤くんの言ってることはすごくよくわかる。

相澤:僕よりも少し上の世代のデザイナーって、みんなストイックに見えて、実はコミュニケーション能力がすごく高いんです。だから、しっかりと業界で生き残っていると思います。表層の部分だけで見てしまうと間違えてしまう。

ー それは大きな勘違いだと。

相澤:そうです。ちなみに三原さんもコミュニケーション能力が高いです。

ー コミュニケーション能力が高いって、つまりどういうことですか?

相澤:自分が考えていることを、きちんと言語化できて、それをデザインで表現できるということです。わかりづらいことって意外とすごくないと思うんですよね。三原さんは自分が作るモノで言語化していくことをずっとやってるので、そこは見習いたいなって思います。そういう意味では三原さんのところにいた子がやってる〈ダブレット〉はすごくわかりやすいですよね。

三原:そうだね。前に対談したときにも話したけど、井野くんにはデザインをさせる前に、考え方のところからスタートしているからね。

相澤:僕が大学で言おうとしていることとまったく一緒ですよね。

ー たしかに。

三原:モノを作るには哲学がないとダメですけど、その哲学にオリジナル性がないとそれは僕は認められないんですよね。だってデザインが似るとか似ないとか、そんな話っていくらでもあるわけで。じゃぁオリジナルかそうでないかの違いがどこにあるかっていうと、やっぱり考え方なんです。ものづくりのプロセスをちゃんと説明できるかどうか。それができない限りは難しい。説明できない抽象絵画のようなものばかり作っていたら、長続きしません。どんな企業のどんな仕事をするにせよ、その仕事が自分のコレクションと違ったものであっても、きちんと自分の意見が述べられないとダメです。例えば〈ホワイトマウンテニアリング〉というブランドが始まってそれが世の中にどんな影響を与えているのか、そういうことを踏まえてものづくりができるか。ここを理解できずにその表層をコピーしたとしても、哲学まではコピーできないわけです。

ー 三原さん、〈ホワイトマウンテニアリング〉というブランドについてはいかがですか?

三原:僕ってロマンが好きなんです、男の。それが相澤くんの作る服にはあるよね。だから、もしエドモンド・ヒラリーが現代に生きていたら〈ホワイトマウンテニアリング〉の服を着るだろうなって思うんです。〈ホワイトマウンテニアリング〉のショーで、雪を降らせたシーズンがあって。
2013 AUTUMN / WINTER

相澤:ピッティのときですね。

三原:あのときすごくいいなって思ったのは、洋服の先にロマンがあるんだよね。それがないブランドってたくさんある。あとは景色が見えるっていうか。それは山だったり川だったり。その景色がロマンチックだなって思うんです。

ー 〈ホワイトマウンテニアリング〉の2019AWのテーマは「MUTAION」でした。相澤さん、手ごたえというか、作ってみての感想はどうですか?

相澤:パリでのショーが9回目で、ブランドは今14年目、やっとパリでやる意味や自分に対する納得ができ始めたように思います。評価は色々あると思うんですが、プロダクトを作るということと、自分の考えをファッションショーで見せるということが理解できた感じです。

ー 今はスタイリストも入れてないですよね?

相澤:はい、全部自分でやっています。

ー すごくいいスタイリングですよね。迫力もある。2019AWのショーはここ数シーズンでベストだったなって思います。

相澤:ありがとうございます。けど、ショーというかスタイリングのことはまったく考えないでプロダクトを作っています。

三原:僕が思うにだけど、相澤くんの作る服がちょっと柔らかくなった気がしたな。前は時代がどうあれ、自分のやりたいことをやるっていう感じがしたんだけど、ちょっと変わったかなって。ものづくりをしていると、いろいろな選択肢が出てくるんです。例えば時代の先に行くのか、時代に合わせるのか、時代を追うのか。そういうとき、だいたいのひとは“追う”んです。しかもやってる本人は合わせてるつもりなんだけど、実は追っているっていうひとが多いんです。一方で時代の先に行くんだけど、先に行きすぎてダメになるひとっていうのもいる。

ー 相澤さんはどうですか?

三原:相澤くんの最初のコレクションって結構ダークだったんです。ダークというかシックかな。そのあとに何かしらポップさを取り入れようとしていた時期があって、2年くらい前から初期の感じが戻ってきたなって。19AWを見て思ったのは、その系譜もありつつこのコレクションは時代を作る方にいっているなって。けど彼は戦略家だから、ひとが見てきちんと合わせられる距離感のものだったんだよね。そういうのが見て取れました。

ー なるほど。

三原:今回、スノーカモみたいなやつを作ってたよね? あれを見たときにすごく提案があるなって思った。

相澤:その柄、実は全部文字でできてるんですよ。“White Mountaineering”っていう文字がたくさん寄り集まって柄になってるんです。なぜこんなことをしたかというと、単純にブランドロゴを入れるって言うことに対してのアンチテーゼがあって。けど、この柄のなかには無数のロゴが入ってて、でも誰も気づかないっていう。

三原:それいいね、粋だね。

相澤:ありがとうございます。

三原:僕は洋服好きだから、とにかく本物が好きなんだよね。だから今自分がやってることはチャラチャラしてるなって思うんだけどさ。そのロゴの話ひとつとっても、相澤くんはひねくれてるかもしれないけど、作るものはすごくプロダクティブだと思う。

ー ひねくれてるんですか?

相澤:そうですね、最近はとくにひねくれているかもしれないですね。こないだ『ヴォーグ ランウェイ』でのインタビューでもそういう話をしたんです。マーケットに対してすごくフラストレーションを持っているって言いたかったんです。さっき三原さんが言ってくれてありがたかったんですが、17AWシーズンからそれまでやってなかったことをやってるんです。具体的に言うと、自分がデザインするうえで、理想像となる男性を思い描いているんです。
www.whitemountaineering.com/collection/2017aw

三原:なるほどね。このときいい意味で違和感があったのはそういうことだったのかな。

ー さすがの慧眼ぶりですね。

三原:相澤くんは日本でショーを始めて、パリでやるようになって数年経って、やっと肩の力が抜けてきたのかなって思います。海外で評価を受けるときに必ず出てくるキーワードに“東京らしさ”っていうのがあるんです。僕も言われました。“ヨージ”とか“ギャルソン”をどう思っているのかって聞かれたり。でも、そういうことではなくて、自分がやりたいことができるようになってきた時期なのかなって。

ー なるほど。

三原:みんな最初はちょっとビクビクするんです。ちゃんとビジネスになるのかな、海外のメディアに認められるのかなとか。でもそういうことは何シーズンかやってればだんだんどうでもよくなってくるんだよね。いいことも悪いことも書かれるし。逆に悪い評価もウェルカムみたいな感じになってくる。そんななか、〈ホワイトマウンテニアリング〉はいいことを言ってくれるひとたちの期待通りになっていかない感じがいいなって。優等生のようなブランドって、僕からすれば牙を抜かれてるんじゃないかなって思うしね。好きなことを本当にやれてるの?って。相澤くんは言いたいことも言うし、もしかしたら嫌われたりすることもあるかもしれないけど、僕はそういうの嫌いじゃない。今やりたいことをやってる感じもするし。まぁそうじゃないとものづくりを楽しめないよね。

相澤:確かに気負いはまったくなくなりましたね。最近調子いいです。

三原:うん、自分が思ってたことよりも深みのある話が聞けてよかった。

ー ここで一回、場所を三原さんのオフィスに移しましょう。

INFORMATION

MIHARAYASUHIRO

www.miharayasuhiro.jp

White Mountaineering

www.whitemountaineering.com

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