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三原康裕と相澤陽介によるファッションデザイナー論。

三原康裕と相澤陽介によるファッションデザイナー論。

三原康裕と相澤陽介。ともに長年にわたって海外でファッションショーを開催しているブランドのデザイナーであり、国内のみならずグローバルなフィールドで活躍している俊英です。遡れば二人は多摩美術大学という同じ学び舎で学生時代を過ごした先輩・後輩という関係でもあります。今回、フイナムでは本邦初となる対談企画を実施。ロジカルでありながら、パッションをも持ち合わせている二人には驚くほどの共通項がありました。

  • Photo_Ko Tsuchiya
  • Edit_Ryo Komuta

ー さて。三原さんのコレクションについてもお話を伺いたいなと。

三原:いや大丈夫です、なんか恥ずかしいし。今日は相澤くんのことをいろいろ話できたので、もういいかなって。

ー いやいや(笑)。

相澤:三原さんはレディス結構ずっとやってますよね。

三原:うん。レディスって結構考えちゃわない?

相澤:難しいですよね。

三原:海外の男性デザイナーってゲイが多いから、レディスの服を作るとなると、彼らの方がいろいろな女性像を生み出すのに長けてるのかなって思う。僕なんかレディスを考えるときには、若い子とたくさん話をしなきゃけいないな、って思うんだよよね。

相澤:そういった意味で日本の男性デザイナーがレディースで成功するのって、中々ハードルが高い気がします。

ー レディスはやっぱりやってみたかったんですか?

三原:というか、僕はレディスからスタートしているんです。

ー それはシューズの話ですか?

三原:はい。ハイヒールとかあって、マーケット的にもそっちの方が多かったので。なので、女性の持ち物というところから入ったんです。ある海外のデザイナーに「なんでお前はノンケなのにレディスやるんだ?」って言われました。

相澤:それ海外にいるとけっこう言われますよね。

三原:けど、レディスをやっていると、メンズをやるときにバランスが取れたりするんだよね。メンズっていう世界のなかでは、変わらない美意識が多くを占めていて、そのなかでどう変化させていくかっていう話だけど、レディスの方がもっと自由だからね。だから自分のテリトリーを決めるのにすごく迷ったことがある。いきなりアフリカ大陸を自由に走り回りなさいって言われても、そんなに広大な敷地をうまく使えないんだよね。自分が作った囲いのなかで、深みをつけていくと逆に宇宙が広がっていくっていうか。盆栽と一緒だよね。そのなかに時間が堆積することによって、いろいろなものが見えてくる。そうなるとレディスはできるようになる。

ー なるほど。

三原:一つのことだけをやればいいなら、そんなに切り替えはいらないだろうけど、さっきまでスカートの丈が何センチってやってたひとが、次は全然違うことをやらなきゃってなったときになかなか難しいよね。相澤くんも〈ホワイトマウンテニアリング〉と〈ハンティングワールド〉があって、しかもレディスがあるじゃない。どうなのその辺は?

相澤:僕は三原さんと真逆ですね。完全に混ざってます。混ざってないとできないんです。唯一スイッチを切り替えるとしたら、先生をやるときですかね。だからずーっとスイッチが入ったままです。一回スイッチ入ったらそのまま走り抜ける感じですね。レディスに関しては、骨格とか肩の感じをすごく見ますね。スポーツ選手とかよく見てますよ。

三原:そうなんだ。僕は気持ちを切り替えるために俳優の勉強もしたよ。

ー いろいろな役柄になるという意味で、ですか?

三原:そう。例えば〈プーマ〉とコラボしてたときとかは、向こうはずっとスニーカーのことを考えてればいいわけだけど、こっちは違う。でも絶対になめられたくないから、自分は一流のスニーカーデザイナーだっていう風にスイッチを入れないとなかなか難しかったんだよね。彼らよりイノベイティブなことができるんだっていう、メンタリティにならないといけなかった。けど企業のデザイナーをやる経験っていうのも大事だよね。桁が違う売り上げのブランドをやることで、大人数相手のプレゼンはうまくなるし、押し負けなくもなる。

ー 二人とも多くの仕事を抱えるなか、どうやって思考していくかのやり方はそれぞれですね。

三原:とにかく違うことをやるのが大変な時期もあったな。外の仕事は全部自分一人でやってるので。

相澤:僕はもともと〈コム デ ギャルソン〉にいる時から複合的に仕事はしていたので、逆に違和感がないです。

ー ところで、相澤さんから見て、三原さんの作るものはいかがですか?

相澤:ボキャブラリーのある服だなと思います。いま三原さんがやられているようなことを、何も素養がないひとがやると、ごちゃごちゃになってしまうと思うんです。

ー そうかもしれないですね。相当複雑で凝った作りをしていますし。

相澤:でもそういうことを三原さんがやると、きちんとまとまる。そこが凡百のブランドと違うところだと思います。

三原:ありがとうございます。たしかに最近の服には色々な要素が入ってるんだけど、今まではそれを表立って話すことを良しとしてこなかったんだよね。けど、最近はちゃんと細かいところまで話すようにしてます。

ー ショーに関して言えば、高橋ラムダさんのスタイリングもすごくいいですよね。三原さんの作るものと合っている気がします。

三原:ラムダくんはいい感じですね。彼はすごく緻密なスタイリングを組むんですよね。仕事がすごく丁寧。それでいうと僕はショーではふざけてますね。マラカス持って出てきたからね。いかに笑ってもらえるかが大事なんです。

ー 三原さんは自分が作った服を着てますよね。

三原:着ますよ。

相澤:僕も着ますけど、自分のブランドのワードローブラインがメインですね。360日くらいそのシャツを着ています。

ー そこは変わらないですよね。

相澤:やっぱり服は着てみないとわからないことがたくさんあるんですが、2019AWのショーでは身長が183センチ以上のモデルは使いませんでした。やっぱりサンプルはモデルだけではなく、バイヤーも試着するわけで、海外のモデルに合わせてサンプルを作るとリアリティがないんですよね。

ー たしかに。

相澤:ショーでモデルがパンツを穿いて、クロップド丈っぽくなっても、日本人が着たらジャスト。結局そのくらいのサイズ感の方が評判がいいんです。

三原:今回太いパンツを作ってたよね。

相澤:はい。上がジャストで下が緩い、三角形なスタイルです。ビッグシルエット全盛の今のトレンドに対して、そんなフォルムを作ってみたかったんです。不協和音というか。

三原:けどさ、僕も相澤くんも海外で評価されるなんて思ってなかったよね。

相澤:はい。

三原:僕は〈プーマ〉とやったことで、海外にも名前は出たけど、このMIHARA YASUHIUROっていうのは一体なんなんだっていう。そういう状況下のなかで、ひねくれてミラノでコレクションをやったんだよね。

ー そうなんですね。

三原:ミラノでコレクションをやるのはすごく大変でしたね。とにかく適当だった。準備がギリギリだし、数時間前にようやく本腰を入れて準備に入るって感じ。それに比べると、パリはすごくやりやすい場所ではありますね。

ー 海外でショーを見せることでどんなことを感じますか?

三原:やっぱりすごく発見がありますね。海外でやるってことはチャレンジでもあるし、戦いでもある。

ー 評論にもさらされる。

三原:そう。日本でやっててもいいことしか書かれないし。相澤くんも悪いこととか絶対書かれないでしょ?

相澤:いやいや、そんなことないですよ。日本と海外で異なるのは、ものすごく個人的な感想や意見をインタビューで聞かれます。しかもショー前に。

三原:『ヴォーグ ランウェイ』はめちゃくちゃ見るよね。シーズン中は毎朝見る。

相澤:僕も全く同じです。

三原:並み居るメゾンの服を見て、この感じを自分のブランドで作るには、どーしたらいいんだろうってすごく考えるもんね。だから、あのシーズンのあれとか、ものすごい覚えてるんだよね。

ー たしかにさっきの〈ホワイトマウンテニアリング〉の話でも細かいところをよく覚えてましたもんね。ちなみに三原さんは、いろいろなところでショーをやっていますよね。さっき話にあがったミラノだけではなく、ロンドンでも。

www.miharayasuhiro.jp/collection/2017-ss-lcm

三原:そうですね。ロンドンは日程は早すぎるんですよね。AWコレクションなんて、1月に入ってすぐに始まるので、年明けすぐに渡英しなきゃいけない。

ー それはなかなか大変ですね。

三原:そう。だからさっきも言ったけど、結局はパリが一番環境は整っているのかもしれないです。いろいろうるさい人たちはいるんですけどね(笑)。

相澤:色々と一筋縄ではいかない事が多いですね。スケジュールなども自分たちだけでは決められないし。〈ホワイトマウンテニアリング〉はいつも〈エルメス〉の前に組まれているので、時間が押したりすると大変なんです。

三原:そういうのあるよね。

相澤:「ピッティ」では、〈ホワイトマウンテニアリング〉のほかに〈アディダス オリジナルス バイ ホワイトマウンテニアリング〉、〈ハンティング ワールド〉、ミラノでは〈ハンティング ワールド〉のショーを発表しました。ロンドンでは〈バブアー〉との〈ビーコン ヘリテージ レンジ バイ ホワイトマウンテニアリング〉のショーを行ったので、ニューヨークだけ全くやっていないので、興味はありますね。

三原:僕もニューヨークだけやってないな。けどさ、僕も相澤くんもファッション以外の分野でもデザインできるんじゃない。

ー たしかに。お二人はかなり根本の部分で、多くの共通点があるように思います。

三原:これからはそういう風になっていかないとダメだと思いますよ。ファッションデザイナーになりたいひとってIQが低そうじゃない(笑)。それしかできないっていうひとにはなりたくないよね。

相澤:そうですね。コミュニケーション能力は大事ですし、それさえあればファッション以外のこともできるはずだって思います。現に今は「北海道コンサドーレ札幌」の仕事もしていますしね。僕、今年で42歳の年なんでけど、そうなると中堅の後半くらいになってくるじゃないですか。だからいろいろ考えますよね。ちなみに三原さんはもう大御所枠ですよ。

三原:いやいや。新進気鋭とかって呼ばれたいもん(笑)。

INFORMATION

MIHARAYASUHIRO

www.miharayasuhiro.jp

White Mountaineering

www.whitemountaineering.com

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