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知っているようで知らなかった焼き物の世界。マルヒロが見据える波佐見焼のこれから。
MADE IN HASAMI with PRIDE

知っているようで知らなかった焼き物の世界。マルヒロが見据える波佐見焼のこれから。

波佐見焼と聞いて一般的な和食器を思い浮かべる人も多いはず。でも、伝統は受け継がれ革新していくもの。想像してみてください、スニーカーの形をしたものや、ビールの瓶を象ったもの、はたまた伝統の形に現代的なアーティストがペイントした波佐見焼があるとすれば、より身近で親しみやすいものになると思いませんか? それを実現しているのが長崎県の波佐見町で商社として企画をおこなう「マルヒロ」。代表の馬場匡平さんは「波佐見焼の裾野を広げたい」と語ります。とはいえ、そうしたアイテムの数々は多くの職人の手を介して丁寧につくられています。波佐見焼は一日にして成らず。その生産工程を追いかけながら、波佐見焼の中に宿る秘めたる魅力を発掘していきましょう。

  • Photo_Fumihiko Ikemoto
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Yosuke Ishii

試行錯誤を経て獲得するさまざまな化学の方程式。

配合が数パーセント違うだけでもご覧のように仕上がりが変わってくる。
釉薬づくりは細かな計算あってこそ。完全に化学の世界だ。

釉薬は、焼き物の生地の表面にかけるガラスのコーティングのこと。焼き物を丈夫にしたり、ツヤを出したり、色をつけたりするためのもの。釉薬を施すことで、上絵付けをしたり転写シールを貼ったりと、釉薬や下絵付けだけでは表現できない柄や色を表出させることが可能になる。

たくさんの釉薬を同時進行で仕込み中。一ノ瀬さんの頭の中にはさまざまな化学の計算式がインプットされている。

ここは、その釉薬をつくる工場。機械の中ではまさに釉薬がつくられています。それを真剣な眼差しでチェックしているのが一ノ瀬茂樹さん。40年もここで釉薬をつくり続けている職人です。「釉薬はさまざまな鉱物や顔料を混ぜ合わせてつくります。出したい色や質感によってその配合が変わるのはもちろんですが、難しいのは焼き物を焼くときの温度や焼き方、それに生地の性質によっても仕上がりに変化がでるところ。もう化学の世界ですね」。

この一ノ瀬さんの言葉に続いて、馬場さんはこんなことも話してくれました。「あとは窯によっても質感の出方が変わるし、焼き物を窯の中のどこに置くかによっても変わってくる。それによって失敗することもあれば、想像を超えたユニークな焼き上がりになることもあるんです」。

こちらが原材料の一部。原料にもさまざまな種類があり、焼き物に合わせてそれを調合していくので、
数え切れないほどのパターンが存在する。

工場には釉薬をつくるためのたくさんの原料、そしてそれを混ぜ合わせるための機械が所狭しと肩を寄せ合っていました。「釉薬の骨格となる長石類、それを溶かす溶解原料、釉薬が生地にくっつきやすくするための粘土質など、さまざまな原料があって、それを配合してつくってます。定番で置いている釉薬もありますが、最近はオーダーメイドも増えてきましたね」と一ノ瀬さん。「鉄のように硬い表情に仕上がる釉薬があれば、一方では雫が垂れたような質感の柔らかい釉薬もあって、焼き上がりのイメージを共有しながらどんな釉薬を使うか決めるんです」と馬場さんが続けて話してくれました。

1週間、計50回ほど臼を回し、原料をすりつぶしていく。想像するだけで気が遠くなる。

配合した原料は一度焼いて成分を溶かし、そのあとにたくさんの機械を通じて粒子を細かくしていくのだとか。一ノ瀬さん曰く「ひとつの釉薬をつくるのに半月くらいかかる」とのこと。「微粒子レベルになるまですり潰すのにすごく時間がかかるんです。粒子が粗いままで生地に傷をつけてしまったら大変ですからね」。最後は人の手で何度も何度も臼を回しながらすり潰し、最終的にペースト状の釉薬ができあがります。

まるで我が子を見つめるように優しい眼差しで釉薬を眺める一ノ瀬さん。
独学で勉強し、トライ&エラーを繰り返しながら技術を磨いていったそう。

焼き上がりのイメージを想像しつつ、それに合わせて釉薬の配合をおこなう。でも、そこにあるのは化学の世界なので、思わぬ反応が起こったりもする。釉薬づくりはクオリティコントロールがいちばん難しい工程なのかも知れません。それにも関わらず安定した供給をおこなう一ノ瀬さんに脱帽です。

ということで、釉薬づくりはここで終わり。つぎは最後の仕上げの工程である窯元へと向かいます。

INFORMATION

有限会社マルヒロ

TEL:0955-42-2777
FAX:0955-42-2737
store.hasamiyaki.jp

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