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知っているようで知らなかった焼き物の世界。マルヒロが見据える波佐見焼のこれから。
MADE IN HASAMI with PRIDE

知っているようで知らなかった焼き物の世界。マルヒロが見据える波佐見焼のこれから。

波佐見焼と聞いて一般的な和食器を思い浮かべる人も多いはず。でも、伝統は受け継がれ革新していくもの。想像してみてください、スニーカーの形をしたものや、ビールの瓶を象ったもの、はたまた伝統の形に現代的なアーティストがペイントした波佐見焼があるとすれば、より身近で親しみやすいものになると思いませんか? それを実現しているのが長崎県の波佐見町で商社として企画をおこなう「マルヒロ」。代表の馬場匡平さんは「波佐見焼の裾野を広げたい」と語ります。とはいえ、そうしたアイテムの数々は多くの職人の手を介して丁寧につくられています。波佐見焼は一日にして成らず。その生産工程を追いかけながら、波佐見焼の中に宿る秘めたる魅力を発掘していきましょう。

  • Photo_Fumihiko Ikemoto
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Yosuke Ishii

浅いようで奥深い。そうした深みが波佐見焼の魅力。

完成した焼き物はヒビや割れなどがないか商社でひとつひとつ検品が実施され、さまざまなショップへと卸されますが、「マルヒロ」には直営店があってそこでも販売されています。ここからは馬場さんに、「マルヒロ」についてや、波佐見焼にかける想いについて語ってもらいましょう。

ー 「マルヒロ」は馬場さんで3代目ですよね。どのようにして会社がはじまったんですか?

馬場:もともとは露天商からはじまったんです。じいちゃんの代だから、いまから50年前くらい。当時はガサ物と呼ばれるものを扱っていたんです。茶碗の高台とか口が欠けてたりするもので、そういったものは窯元からするとゴミ同然に扱われていて、捨てられる運命にありました。それをうちが買い取って欠けてる部分を研磨して手直ししてから安く売りさばいていたんです。

ー はじめはA品を扱っていたわけではないんですね。

馬場:A品をつくるようになったのはバブルがはじけたあとですね。急にモノが売れなくなって、ものづくりも精度が求められるようになりました。それでガサ物も手に入りずらくなるし、A品をやるしかなくなったんです。とはいえ、それでも売れない。どうしようって会社がなっている頃にぼくも仕事を手伝うようになっていて、そこで自社で企画しようということになったんです。14年前くらいのことですね。

ー それは馬場さんのアイデアでそうしたんですか?

馬場:いえ、うちの父ちゃんなんです。 父ちゃんが中川政七さんの『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり』っていう本を読んで、中川さんの会社に連絡したんです。当時、中川政七商店の業績がすごい伸びていて、その本にも“自分の知識を伝統工芸を扱う人に教えたい”といった文面があったみたいなんですよ。それで実際に中川さんとお会いして、父ちゃんは自社ブランドをつくりたいって相談したんです。

ショップのフロアは約2万5000個の波佐見焼が何層にも積み上げられ、その上に什器などが並んでいて、内装がユニーク。

ー なるほど。そこから馬場さんが関わってくるんですか?

馬場:そうですね。ブランドの立ち上げをいきなり丸投げされました(笑)。

ー そんな急な話だったんですね(笑)。

馬場:それが2010年のことで、1年くらい準備をしてから「インテリア ライフスタイル」という大きな合同展示会ではじめて商品を発表しました。ぼく自身、焼き物とかつくったことなかったんで、窯元の馬場さんや型屋の喜久美さんに相談しながら最初はマグカップをつくったんです。

左から〈HASAMI × HOUSE INDUSTRIES〉ブロックマグ ¥2,000+TAX、〈HASAMI〉ブロックマグリトル ¥1,000+TAX、
ブロックマグ ビッグ ¥1,800+TAX、ブロックマグ(ピンク、ブルーともに) ¥1,500+TAX
「マルヒロ」のオリジナルブランドである〈ハサミ(HASAMI)〉の定番アイテム「ブロックマグ」。
生地を厚めに形成し、熱と圧力を加えながら生地をつくっているので丈夫なのが特徴。
左側の柄入りのアイテムはアメリカのフォントデザインオフィス「ハウスインダストリーズ」とのコラボ。

ー どうしてマグカップだったんですか?

馬場:中川さんのお題だったんですよ。この辺りにはリサイクルショップがたくさんあるもんで、100円くらいのやつを片っ端から買ってどんなデザインが優れているかを勉強することからはじめました。あと、近所のおばちゃんたちにも「どんなんが使いやすい?」って意見を聞いてまわって。そうしたら「場所を取るのはイヤやけん」って言われて、スタック収納できる波佐見焼をつくったんです。

ー へぇ! 足を動かしながらデザインを決めていったんですね。

馬場:中川さんに「どんなブランドにしたい?」って聞かれたときに、はじめはなにも考えずに「中川政七商店にずっと置かれるようなブランドにしたい」って答えたんです。それなら食いっぱぐれないって(笑)。でも社員に言われたんですよ、「本当にそれで続けられますか?」って。ぼくは中川さんみたいなライフスタイルを送っているわけでもないし、波佐見焼のことをすべて理解しているわけでもないのに、それで大丈夫なの? って。いま思えば、そのときにハッとして方向性を考え直したのは大きいです。

〈BARBAR〉色絵 小皿 ¥1,200+TAX、色絵 蕎麦猪口 各¥1,800+TAX、
色絵 菊形鉢(中) ¥2,300+TAX、色絵 菊形鉢(小) ¥1,400+TAX
〈BARBAR〉は現場で培われた技術、時代を超えても変わらない魅力、
自由で枠に捉われないアイデアを組み合わせてつくられる食器。
伝統的な和食器のスタイルを継承しつつも、描かれているモチーフはどこかポップでかわいらしさを感じる。

ー そうしながらブランドをどんどん増やしていったんですか?

馬場:そうですね。はじめに〈ハサミ〉というブランドを立ち上げて、あとは父ちゃんがもともと和食器のブランドもやっていたので、それもぼくがテコ入れして2つのブランドからスタートしました。それをベースにいろんな方々との縁があって、コラボレートをする機会にも恵まれていきました。

ー いちばんはじめにコラボレートされたのはどなたなんですか?

馬場:竹内俊太郎くんです。彼との出会いは大きいですね。2010年に「場と間」という展示会を表参道のスパイラルホールでやったんですけど、そこに俊太郎くんも出展していて。すごいドープな絵を描いていたんですよ、「これナニ!?」みたいな(笑)。それで話しかけたら仲良くなって、東京滞在中はずっと一緒に遊んでいたんです。その話の流れで一緒に波佐見焼をつくることになって。

〈HASAMI × 竹内俊太郎〉アリセット ¥4,200+TAX、〈BARBAR × 竹内俊太郎〉そばちょこ 各¥2,000+TAX
イラストレーターである竹内俊太郎さんとのコラボレート。
60年代のアメリカの偉人をテーマに毎年発表するシリーズでは、今年はモハメド・アリをイメージ。
蕎麦猪口は竹内さんらしいタッチで相撲や富士など和柄が描かれているが、中にはユーモアの効いたイラストもあり。

ー 思いがけない出会いだったんですね。

馬場:そうなんです。それがきっかけでアメリカの偉人をモチーフに1年に一回アイテムをリリースするようになりました。その商品を見ていろんな人から声をかけてもらうことが増えたんです。

〈BARBAR〉ノンチェリー そばちょこ ¥2,000+TAX

ー 竹内さん以外にも、ノンチェリーさんやポピーオイルさんなどなど、クリエーターの中でもひと際個性が立っている方々とコラボレートされています。そうしたところに、馬場さんの趣味やらしさが見えます。

馬場:ただ単に仲が良い人たちとやっているだけなんです。さっき話した「インテリア ライフスタイル」に、じつはその前の年にもぼくたちは出展してたんですよ。そこには約2万人の来場者があるんですけど、その年にぼくが名刺交換したのはたったの5人だったんです(笑)。その原因は、自分自身とそこに置いてあるモノがリンクしてなかったから。だから職人さんにしてもクリエイターにしても、自分が信頼できる人と一緒に焼き物をつくって、それを売るほうが説明するときに自然と気持ちも入りますよね。

なのでコラボレートの話が挙がったときは、まずここに来てもらうようにしてます。波佐見焼を知ってもらって、職人さんたちにも会ってもらうと、みんなまぁまぁ感動してくれるんですよ(笑)。そうしながら信頼関係を築いてます。

ー 馬場さんと職人さんたちの信頼関係の厚さも、今回の取材を通して伝わってきました。「会社にいないで、工場によく顔を出してる」と話していたのがすごく印象に残ってます。

馬場:正直会社にいてもぼくは仕事がないんです(笑)。それに社員もそっちのほうが働きやすいですよね。あとは単純にメールや電話で話すよりも、面と向かって話をしたほうが感度の擦り合わせができますよね。会って話したほうが気持ちいいじゃないですか。それに職人たちのところへ行くと、新しい技法とかいろんな情報も手に入れることができるので。

あとはクルマに乗りながら考えごとをするのが好きというのもあります。アイデアが浮かんだり、そのアイデアをどう活かすとか。運転中だとスムーズに考えがまとまるんです。

〈BARBAR〉KEEPWARE 25cmプレート 各¥3,000+TAX、KEEPWARE 21cmプレート 各¥2,000+TAX、
KEEPWARE 15cm ボウル ¥1,500+TAX、KEEPWARE 500ccカップ ¥2,000+TAX、KEEPWARE 250ccカップ ¥1,500+TAX
紙のお皿やカップを模したユーモアあふれる食器の数々。
「世の中にいちばんあふれている食器をサンプリングした」とは馬場さん談。
リアルを追求すべく、極限まで紙のように薄く仕上げているところもポイント。

ー 「マルヒロ」で売られている食器類は、いわゆる「焼き物=和食器」という固定概念を覆すものですよね。そうした意図はもともとあったんですか?

馬場:全然ないです(笑)。自分がつくりたいものをつくった結果ですね。じいちゃんの代から商売をやっていたとはいえ、はじめは焼き物に対してそこまで興味なかったですし、知識も全然ありませんでした。だからこそ、職人のおっちゃんたちにも無茶苦茶なことを言えたのかもしれません。

ー 無知が故の大胆さであったと。

馬場:そうですね(笑)。ぼくの無理難題にはじめはいろんなこと言われましたけど、自分のやりたいことを伝えるとおっちゃんたちもアドバイスをくれるんです。でもそれはぼくのためではなくて、波佐見焼の産業全体のことを考えてやってくれていたんです。「お前のじいちゃんや父ちゃんに世話になったけん、俺らがしたことを今度はつぎの世代にしてやれよ」って。

ー 今回の取材で見せてもらった〈ブラックアイパッチ〉の瓶や、〈ナイキ〉のエアフォースワンなど、アートピースになると余計に手間暇がかかりますよね。そうしたものをつくるのはどうしてなんですか?

馬場:それに対しても「どうしてわざわざそんなものをつくるのか?」という声がありました。でも、あれを入り口に波佐見焼に興味を持ってくれる人が増えたらうれしいですよね。それに、職人のおっちゃんたちも知恵と技術があるから、難しいものでもできるという自信がありました。ぼくみたいな役割の人間がそういう仕事を持っていかないと、職人たちの技量もずっと一定のままになってしまいますから。でも、みんな意外と楽しんでつくってましたよ。

ー 今後はどういった活動をしていきたいですか?

馬場:じつは波佐見町に大きな公園をつくる計画をしてるんです。土地を買って私有地のなかに。

ー どうして公園なんですか?

馬場:この辺りには子供が遊べるような公園がないんです。だから公園をつくって、みんなで遊べる場所づくりをしたい。そこに新しいショップやスタジオも併設して、それこそさっき話したように、共感できる仲間たちを巻き込んで、その人たちが持っている力やバックグラウンドが活きるようなやり方をすれば、いままで波佐見町になかった文化をイチからつくることができるんじゃないかなと思ってます。そうやって街全体で大きなコミュニティをつくっていきたいんです。

ー 最後に、焼き物の魅力はどんなところにあると考えているか、馬場さんの気持ちを教えてください。

馬場:焼き物って形に意味があったり、作業をご覧になられて感じたと思うんですけど、焼いたら縮むとか、釉薬をかけたりとか、難しさを感じる部分もある。でも一方では粘土をこねれば子供にも簡単につくることができる。考えれば考えるほど難しくも感じるけど、逆になにも考えなくともできる気軽さもあって、そういう曖昧さというか、幅の広さがおもしろいなと思います。

さらに波佐見焼に限った話をすると、ちょっと鈍臭さがあるところがぼくは好きです。でも、きちんと人が一生懸命汗をかいてつくっている。人を知れば知るほどそれが反映されているのがわかります。浅いようで奥深い。そうした深みが波佐見焼の魅力だとぼくは思います。

大量生産という言葉を聞くと、フォーメーション化された機械生産を連想してしまいがちです。でも、ご覧になられた通り、波佐見焼の場合はちがいます。型づくりからはじまり、生地屋、釉薬屋、窯元、そして商社に至るまで、たくさんの人々の技術とアイデアがそこに注がれています。馬場さん曰く「生産工程のうちの7割が手作業」とのこと。そうしてつくられた器の数々は全国の食卓で、人々の暮らしを支えているわけです。

また一方ではこれまで培ってきた技術を活かしながら新しい方向へのアプローチもしています。「焼き物=和食器」という概念を壊す波佐見焼でつくられたアートピースの数々は、これからもたくさんのエキシビジョンで見ることができるでしょう。もちろん、「マルヒロ」がつくるモダンな食器の数々で気軽にそれを楽しむこともできます。

身近な存在だったにもかかわらず、あまりよく知らなかった波佐見焼。これを機会に奥深い世界に一歩足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

INFORMATION

有限会社マルヒロ

TEL:0955-42-2777
FAX:0955-42-2737
store.hasamiyaki.jp

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