13年ぶりのフルアルバム。思ったよりも時間の経過が早かった。
三原:最近のテクノシーンはどうなの?
KEN ISHII:若い子たちの熱が上がっている感じがする。特にヨーロッパとアメリカ、南米もそうかな。テクノとかアンダーグラウンドなカルチャーが盛り上がってきてるね。
三原:アンダーグラウンドってやっぱり重要。いまでこそテクノっていうものがみんなに認知されてるけど、はじめはアンダーグラウンドだったじゃん。そこで実験的に鳴っていた音が結果的に新しいジャンルになっていった。そういう現象がまた起きそうな予感がするんだよね。
KEN ISHII:さっきも話したけど、曲づくりにおいては最近ハードウェアブームが起こってたりとか、クラブでかかっている音もそぎ落とされたものになっていて、より原始的なムードに回帰してきてる。若い子たちにとってはきっとそれが新しい音なんだろうね。
三原:そうなんだよ、ここ最近テクノが人間っぽく感じるんだよね。トラックを聴きながらすごい打ち込み方してるとさ、「こいつ相当な打ち込みオタクなんだろうな」とか思ったり。新しいアーティストでおすすめの人とかいる?
KEN ISHII:いるはいるんだけど、本当にジャンルが細かくなってるし、そのぶんアーティストも増えているから正直覚えられない(笑)。
三原:昔はレコ屋に行けばまだ把握できたじゃん。でもいまは自己配信できるもんね。
KEN ISHII:そうそう、バンドキャンプとかビートポートとかね。だからリリースはいくらでもできるけど、売れるかどうかはまた別の話になってくる。そこはプロも含めて苦労しているところだね。
三原:今度のアルバムはどんな感じなの? ダンスミュージックじゃないトラックもあるの?
KEN ISHII:ダンスミュージックはEPでたくさんリリースしてるから、せっかく13年ぶりのアルバムだし、自分の得意なところに力を注いだよ。
ー 13年ぶりになったのは、気づいたらそれだけ時間が経っていたという感じなんですか?
KEN ISHII:そうですね。思ったよりも時間の経過が早かった。昔なら1年とか2年に一枚リリースするっていうサイクルが主流だったと思うんです。でも音楽業界のシステムがまるっきり変わって、配信がメインになりましたよね。だからアルバムをつくらなくても、とくにDJなんかは、人前でパフォーマンスをして、あとはたまにEPをリリースしていれば活動が成立しちゃうんです。
ー アルバムにこだわる必要がなくなったと。
KEN ISHII:そうです。だからこそアルバムをリリースするということは、それだけ本気という意味でもあります。そのぶんお金も時間もかかるけど、昔みたいなリターンは見込めないわけで。だからテクノのアーティストだと、どれだけビッグネームでもシングルですらだしてない人もいる。カール・コックスなんてまさにそうですよね。だけどずっとトップに君臨している。
三原:トップでい続けるってすごいことだよね。ケンケンもそうだけど。
KEN ISHII:オウテカもすごいなぁと思うよ。彼らは定期的に音源をリリースしているし、昔からやってることがブレていないし、なおかついいポジションをずっとキープしてるでしょ。
三原:前に、なにかの雑誌でオウテカのインタビューを読んだんだけど、彼らは曲をつくるときに最初にメインのリフをつくるんだって。そこからドラムとかを入れていくらしいんだけど、最後曲ができたときに初めにつくったメインを抜くみたいなんだよね。だから中途半端なベース音とか、変な残響音が残る。それがオウテカの独自の音につながっていて。
KEN ISHII:すごいよね。俺もエクスペリメンタルなものが好きでつくってるけど、一方ではデリック・メイやジェフ・ミルズに憧れてDJの楽しさも味わいたくて、その両方をやるようになった。でもオウテカはずっと実験的なことをやり続けていて、いまでも受け入れられてるじゃん。彼ら以外はみんなドロップアウトしていってるもんね。
三原:たしかにすごいよね。
KEN ISHII:ブラックドッグとかもたまにリリースしてるし、B12とかも変わらない。どうやって生計立ててるのかわからないけど(笑)。
三原:ホアン・アトキンスもまだやってるでしょ?
KEN ISHII:やってるね。彼らががんばってる限りは自分もがんばれるかなと思ってる。ホアン・アトキンスなんてたぶん60歳くらいだし、それでもかっこいいトラックをつくってる。ジェフ・ミルズもそれぐらいの年齢で精力的に活動してるし、デリックも相変わらず元気だから、俺も負けてられないなって思うよ。
三原:いまの若い子たちもデトロイトのDJたちに影響を受けているって話を聞くよね。これからおもしろい時代になることを願いたい。最近中国の人たちと話すことが多いんだけど、彼らは80年代から90年代のエレクトロミュージックをまるっきり知らないんだって。それまで社会主義だったから、当時のそうした文化がブランクとして完全に抜けちゃってるんだよね。だから逆にいま掘ったりして、すごい貪欲になってる。日本にきてレコードをたくさん買ってるみたいだよ。
KEN ISHII:彼らにとっては新しいものなんだよね。
三原:そうそう。だからそういうハングリー精神から新しいものが生まれるといいなって思うよ。
KEN ISHII:中国は2000年頃から毎年プレイしているんだけど、すごいポテンシャルを感じるよ。いま話してたように知らなかったものを知りたいという欲もあるし、クラブシーンに関してもヨーロッパに近い勢いを感じる。むしろ東京よりもそれは強いかもしれない。音楽やコンテンポラリーアートがずっと先を走ってるし、業界の人たちがクラブで遊んでるんだよね。アーティストやクリエイティブな人たちが集まってる感じが昔の日本のクラブにもあったじゃん。
三原:それがいまの中国にはあるんだね。
KEN ISHII:中国ってインターネットが制限されてるから、FacebookとかYoutubeがダメだったり、Soundcloudも開けないんだよね。だから外に出て情報をキャッチしてきたり、ヨーロッパのクラブへ行って、そこで感じてきたものを中国に持ち帰ってシーンをつくったりとか、そういう貪欲さというか情熱はすごく感じる。良くも悪くも日本のシーンは成熟しきった感覚もあるからね。これからどうなるのか楽しみではあるけど。
三原:でもこれからまた盛り上がってくる感じはするよね。また一周回ったというか。