メガネをかけることで創出される、別のイメージ。
ー 今日はお2人の近著のことも教えていただきたくて。

又吉:谷尻さんの『CHANGE』はどんなことが書かれているんですか?
谷尻:設計事務所って働き方がけっこうクラシックで、先輩たちは「こんな設計料じゃ安くてやっていけない」と不満を持っているひとも多いんです。そういう姿を見ていて、やり方を変えていかないと未来がないなと感じて。しかもいま、働き方について悩んでいるひとが多いじゃないですか。だからなにか、トリガーになるようなものにできないかなと思ったんです。
又吉:働き方についての本ですか。
谷尻:建築家って、ひとりでは仕事ができないんですよ。おもしろいアイデアが湧いても、それを依頼して、つくってもらわなければいけないので。なので働き方もそうなんですが、コミュニケーションに関することも書いてます。

谷尻:「社食堂」も最初はみんなに反対されたんです。「代々木上原駅から離れたところにわざわざ誰が来るの?」とか「ご飯の匂いが事務所に来るのは嫌だ」とか「守秘義務どうするの?」って。でも「これはまだ価値化されていないだけだ」と思って、やってみることにしたんです。いろんな方とコミュニケーションをとりながら。
又吉:それってすごく勇気が必要なことですよね。リスクのあることだから。
谷尻:そうですね。でも、みんなが嫌がることにブルー・オーシャンがあるんじゃないかと思うんですよ。だから、リスクは早く取りにいって、理想とするものをすぐにでも自分たちでつくってしまうのが一番いいと思います。
ー 又吉さんは自身の作品を通して表現したいことはありますか?
又吉:文学が賢いひとのためのものになってることがすごく歯がゆいんです。ファッションや音楽はあんなにも幅広い層に浸透してるじゃないですか。だから、とにかくいろんな層のひとに読んでもらいたいんです。
谷尻:そのほうが広がりも生まれますもんね。
又吉:まさにそうなんですよ。その思いもあって、音楽とかファッションに興味のある登場人物を書いたりしているんですけど、なかなか、そういう方たちに読んでもらえる機会が少ないんです。

ー 『人間』のなかに「仲野太一」という人物がメガネをかけている描写がありますけど、作品のなかにメガネをかけた人物を登場させるとき、どのようなキャラクター設定が多いですか?
又吉:知的な雰囲気を自己演出してるっていう設定が多いかもしれませんね。平凡ですが、こだわりの強いひととか、繊細なひとっていうイメージもそう。仲野太一は「自分はコレ」というものがない人物なんです。だから、周りの影響を強く受けやすい。
谷尻:メガネって現実でも、そういう自己演出の作用はありますよね。

左:『CHANGE-未来を変える、これからの働き方-』¥1,600+TAX、右:『人間』¥1,400+TAX
ー 谷尻さんはメガネをかけて気分が変わることってありますか?
谷尻:やっぱりありますよ。スーツを着ると背筋が伸びるように、メガネをかけると、それと似たような感じになりますね。あとファッションの一部でもあるから、鞄や靴と同じように、スタイリングの決め手にもなりますよね。
又吉:ぼくもメガネありきでコーディネートを決めることがあります。演劇を観に行ったり、美術館へ行ったりするときなんかは、気分の問題なんですけど、フレームがないものを選んだり。それなのにメガネを家に忘れてしまうことが、たまにあるんですよね。それを出先で気づいて、すべてが嫌になって、すぐにでも家に帰りたくなることがあります(笑)。