自分がしてきた経験というのは“どの口”の部分に影響する。

PROFILE
ラッパーであり、自身のレーベル「DREAM BOY」を主宰。2006年、当時会社員でありながらアルバム『プロローグ』でデビュー。その後もコンスタントにリリースを続け、これまでに10枚のアルバムを発表。現在は「フリースタイルダンジョン」のレギュラー審査員としても活躍中。今年でデビュー15周年を迎え、5月に2枚組のベストアルバム『15th anniversary DREAM BOY BEST ~2012-2020~』をリリースしたばかり。
ー 今年でデビュー15周年を迎えたそうですね。昨年10枚目のアルバム『UNBIRTHDAY』をリリースされたときは「集大成とは思ってない」という話をされていましたが、いまどんなお気持ちでいますか?
KEN:節目みたいなものはあまり意識してなくて。そうしたキリのいい数字は、活動を活発化させるためにはいいかもしれないですけどね。ヒップホップって時代に合わせて進化する音楽で、そのスピードが早いんです。ぼくの場合はその進化にどう対応していくか、というところにモチベーションがあります。すると、おのずとリリースも増えるし、それをやっているのが単純に楽しいんです。
ー 5月に発表したベスト盤は、そうしたKENさんの変遷を改めて確認できる1枚になってますね。
KEN:そうかもしれません。会社員を辞めて自分のレーベルをはじめたのが2012年で、そこからいままでの8年間をコンパイルした内容になっています。ラッパーとしてレーベル活動する中で、きちんとキャリアを重ねてベスト盤を出せる人はそんなに多くはいないと思うので、自分のやってきた証をここで発表するのはいい機会だなと思ったんです。

ー 1曲だけ新曲も収録していますね。この曲にはどんな想いが込められていますか?
KEN:自分のなかでネガティブだと思っていた要素が、実は武器だったんだと気づく瞬間があって。自分が普通の大学を出て、サラリーマンになってラッパーをやっていることに対して、負い目を感じることもあったんです。でも、いまこうして自分の活動を振り返ると、そうした苦境を乗り越えたからこそ、いまの自分があるんだと気づいたんですよ。サラリーマン時代の経験が自分の強みだと思えるようになったんです。
ー 苦境を乗り越えながら自身のアイデンティティが形成されていったと。
KEN:「なんでこんなことしているんだろう」と路頭に迷うような時期もあったんですが、それでもヒップホップが好きでやり続けたんです。それはいつかは自分に戻ってくる。1年後かもしれないし、10年後かもしれない。でも、いつかそれが自分の財産になるから、つらいときでも踏ん張って欲しい。そうした思いを伝えたくてつくった曲ですね。
OZROSAURUSのMACCHOさんが「どの口が何言うかが肝心」というリリックを書いてて、ぼくはそれがすごく好きなんです。ヒップホップって “なにを言うか” も大事なんですけど、“どの口” で言うかが問われる音楽だと思うんです。つまりはラッパーの人となりや、普段の行いもそれに反映されるということじゃないですか。
そう考えると、アウトサイダーな人たちのメッセージはそうじゃない人からすると明らかに重いし、そうじゃなくても自分の仕事や、どこかしらストラグルしたり苦境で戦ったりしてて、一見ヒップホップや曲と関係なくても、そういう経験というのは “どの口” の部分に影響する。ぼくはデビューしたときよりもいまのほうが、“どの口” においては成長できてると思うし、メッセージも伝わるようになってると感じてます。

ー KENさんはファッションにおいても、オーバーサイズなラッパーのスタイルとは異なりますよね。そこもやはり、自分らしさを保つ上で重要だったのでしょうか?
KEN:高校生や大学の頃はもろヒップホップな格好してたんですよ。ただ、就職した際に普通の格好になって。オフィスカジュアルだったので、ポロシャツとかよく着ていたんです。普段そういう格好しているのに、夜になると急にラッパーみたいな服装になるのも、自分が切り離されている感じがしてリアルに感じませんでした。だから昼間の延長のような格好でクラブに行くし、ラップもするようになりました。だから風当たりも強かったんです。
ー ラッパーの精神性を抱えながら、ファッションとしての表現はより自由さを求めたわけですね。
KEN:そうですね。でも〈ラコステ〉のポロシャツはオフィスでもクラブでも着て行きやすい服ですごく重宝しました。何枚も持ってましたよ。まさに今日みたいなこういうポロシャツをよく着ていたんです。無地にスラックスやチノを合わすとシンプルになりすぎちゃうので、こうしてラインが入っていたりポイントがあると嬉しいですよね。会社員だからといってカチッとしすぎるのもイヤだし、いままでの自分の延長として着られるのがよかったですね。

袖のラインがスポーティさを演出したポロシャツで、脇に縫い目のない丸胴Tシャツの製法を活かして生まれたアイテム。やや大きめのフィットながら、きちんと台襟をつけた大人に向けたルーズフィット。¥15,000+TAX
ー 会社員でありながらも足繁くクラブに通っていたように、ミュージシャンにとって現場はもっとも大事な場所だと思うんですが、新型コロナによって大きな影響を受けています。そうした状況について思うことや考えることはありますか?
KEN:ぼくは基本ライブがメインだったんですが、こうした状況で配信に力を入れるところも出てきて、そんな状況をポジティブに捉えるようにしています。ただライブの臨場感は現場でしか味わえないものだから、それを配信でやっても薄まるだけ。それならば、配信でしかできないバーチャルな体験方法の魅力を模索することがいまは大事だと思うし、実際に考えています。そうすればこの状況が収束した後も、現場と配信の2軸でぼくらもお客さんも楽しめることができると思うので。
ー 最後に今後の目標について教えてください。
KEN:アーティストとしての活動以外に、楽曲の提供や、舞台の音楽を担当させてもらったり、他ジャンルの方々と関わることが増えてきて、その分いろんな文化を知りました。そうした経験の中で自分をアップデートする方法を考えていて、最終的にそれを自分の活動に取り入れて、ヒップホップに還元できればいいなと思っています。