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フイナム政経塾 VOL.2 反緊縮財政の話。
Interview with TADASU MATSUO

フイナム政経塾
VOL.2 反緊縮財政の話。

政治や経済のニュース。大事なことだと思いながらも、とっつきにくい専門用語ばかりで、いまいちわかったようなわからないような。フイナム政経塾は、そんな人たちに向けた学び舎です。いまさら聞けない基本のことも、すこし理解するのが難しい話も、わかりやすく解説していきます。第二回目は、経済学者・松尾匡さんに聞いた反緊縮財政の話。

コロナ後の経済を立て直すキーワード「反緊縮」。

緊縮という言葉を辞書で引くと「しっかりと引き締めること。また、引き締まること」(広辞苑 第六版)とあります。なので緊縮財政とは「国の財布の紐を引き締め、なるべくお金を使わないようにする経済政策」という意味。日本はこのところ、強めの緊縮財政になっていました。コロナの補償金も、当初はお金を全然出さないつもりだった。さんざん叩かれて多少増やしましたが。

一方で、世界のトレンドは反緊縮財政です。緊縮財政とは逆で「国がたくさんお金を出す経済政策」ということ。

政府がたくさんお金を出すようになると、病院や教育が無料になったり、子育ての支援が充実したりと社会保障が手厚くなります。税金も少なくなったり雇用も増える。いいことだらけ。

だけれど、反緊縮財政をやろうとすると、かなりのお金がかかるんです。ただでさえ借金まみれの日本で、これ以上借金を増やしてどうするんだって話もあります。そこを真っ向から否定する松尾匡さんの意見を聞きながら、反緊縮財政のなんたるかを見ていきましょう。

反緊縮財政は格差をなくす。

昔は郵便局も、電車も、すべて国が担う事業でした。なので、そこで働くひとたちは公務員だったわけです。そして1987年に国鉄はJRと名を変え民間企業になり、郵便局は2003年に民営化されました。2018年には水道までも民営化する法律ができました。

となると、公務員だった鉄道員や郵便局員たちは一般企業の会社員になりますよね。なので国は給料を払わなくてよくなります。法人税なんかも徴収できるようになる。これが、緊縮財政のはじまりです。

欧米諸国を中心に1980年代からこのムーブメントは起こり、これを新自由主義やネオリベラリズムと言ったりもします。それと同時に、各国は支出をより抑えていこうと緊縮財政をとっていくようになったんです。

「具体的に何をやっていったかというと、国の赤字を減らす名目で医療や教育にかかる社会保障費を削り、消費税をあげて収支を増やしていきました。その一方で、国際競争力などを旗印に大企業や富裕層への減税を進めた。その結果、中間層がいなくなり貧富の差が拡大したんです。この差はコロナ不況のもとでますます開き続けていますよね」(松尾)

福祉も医療費も削られて賃金も上がらない。お金を持っているのは、ほんの一握りのひとたちだけ。単純に「それってちょっとおかしくない?」ってところからはじまったのが反緊縮の経済政策です。

松尾さんが考える反緊縮経済政策の特徴は大きく4つあります。それが「社会保障の充実」「景気対策の財政出動」「金融緩和」「金持ち課税」

「社会保障の充実」は医療や介護、教育などの分野を手厚く保障しようというものです。例えば、病院は診察料0円、学校も無料、年金の給付額を上げる、介護職は国が給与の一部を負担して低すぎる賃金をもっと上げるなど。これ、実現させたいと思いませんか?

「景気対策の財政出動」は公共事業を増やすことに加え、社会保障の充実のために国や自治体がおカネを使うこと。そうすると人々のふところが温まって、暮らしに必要な財やサービスが売れるようになります。そうやって働き口を創出することが重要です。

それで、そんなおカネどうするのと言われたときに「金融緩和」です。たくさん通貨を発行しましょうという話。「金持ち課税」は金持ちのひとや大企業から税金をたくさん払ってもらおうということです。

この4つを実行すると、将来のことを心配せず生活できるようになります。誰もが正社員として働けるから派遣切りの心配もないし、病院も無料だから手術費で破産する心配もない。老後も保証されている。すると格差は縮んで、みんなの暮らしが底上げされるわけですね。

トランプもボリス・ジョンソンだって反緊縮チック。

じゃあ次は、世界がいかに反緊縮がトレンドかを松尾さんに解説してもらいましょう。まずはアメリカ。

「クリントンやオバマも表層的にはいろいろやっていましたが、結局は緊縮路線を辿っていたんです。おかげで格差は広がるし、経済は停滞して雇用は拡大しないし、社会サービスが削減されていって民衆の不満が高まりました。だから、前回の大統領選挙の候補者選びでは、民主党ではサンダースが、共和党ではトランプが躍進しました。サンダースは大学無償化や1兆ドルの公共投資などを提唱してもうちょっとで大統領候補になれるところでしたよね。トランプも大規模にインフラ投資をします、お金をたくさん使いますと言って当選しました。いま、コロナの対策費もどんどん出しています。悪い使い道も多いですが、お金を使うか使わないかで言ったら、かなり使っていますよ」

イギリスはどうでしょう?

「イギリスは強めの緊縮政策を長らくやってきた結果、社会が壊れてしまい、みんな貧困になってしまいました。そこで2017年の総選挙ではコービン率いる労働党が反緊縮マニフェストを掲げて躍進し、保守党を過半数割れにまで追い込みました。それに対して2019年に首相になった保守党のボリス・ジョンソンは、緊縮はやめて社会保障にお金を使いますと宣言して総選挙に臨んだのです。国民すべてが国営の医療サービス受けられる仕組みは守ります、最低賃金も上げますと言って。そしたら保守党は圧勝した。労働党がEU脱退問題への態度があいまいだったせいもありますが、それだけではあんな圧勝はできなかったでしょう」

そのほかの国でも、反緊縮を掲げる政治家が躍進中です。

右も左もどちら側も『一般庶民のためにお金を出す』と言っているひとが大きな支持を得ていますよね。コービンは2015年に党首選挙に出たときは泡沫候補でしたが、反緊縮政策がうけて圧勝しました。ほかにも、フランスのルペンだって極右ですが低所得者に1,500ユーロを支給する案などを掲げていて支持率が高い。アメリカの最左派議員のオカシオ=コルテスも、ハンガリーの極右オルバン首相もそう」

では、日本はどうか。

「小泉政権のときに派遣法や郵政民営化を推し進め、貧困な労働者を生み出してひどい不況に陥りました。民主党もそれを変えられませんでした。そこで安倍さんが『お金をたくさん出して景気をよくします』と言って総選挙に勝ち政権についた。最初は、内容はともかくとして、たしかに財政支出を噴かせましたが、2014年に消費税を8%にあげた時から潮目が変わってきましたね。基本的に財政支出を抑えて、選挙が近づくと公共投資を増やし、選挙が終わったら削減するの繰り返し。反緊縮から離れていったあげく、消費税を10%に引き上げました」

コロナの話で言うと、日本政府は対策費として追加で117兆円の事業費を掲げました(2020年6月23日現在)。前回の予算も合わせると約230兆円超です。この額は税金の猶予や政府からの融資額なんかも含まれていて、国民に配る10万円や企業に配られる給付金など直接市場に注入されるお金(真水と呼ばれるもの)は、専門家によっても異なりますが57兆円ほどと言われています。さらに言うと、使われないかもしれない「予備費」なんかも真水としてカウントされていて、それらも除くと30兆円あまり…。この額は一定の効果はありそうですが、景気の落ち込みを元に戻して、さらに働きたいひと全員をまっとうな給料で働ける環境を整えるには、まだまだ足りません

さらに、この対策費はGDP比で見るのが通例です。GDPとは国内総生産のことですが、それに対して何%の対策費を捻出しているかが正しい見方。金額だけで見てはいけないんですね。そう見ると、日本がいかに少ない対策費かがわかります。

「コロナの対策費も出し渋っています。真水で100兆円くらいは出してもらわないと。何もしないと、失業者と倒産が増えて、より悲惨な状態になってきます。余力はあるわけだから、出し渋ってる場合じゃないんです」

でも、そもそもそんなお金があるのかとか、借金大国なのに大丈夫かとか、不安視する声も大きいです。次は、反緊縮財政でも日本が大丈夫な理由を探っていきましょう。

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