わざわざ行きたいお店にしたい。

ー 南さんが思う京都の魅力って何ですか?
南:古いものが残っていることと、その価値をちゃんと住んでいる人が理解していることでしょうか。東京はあまりその気質が感じられないというか、どちらかというとスクラップ&ビルドで、新しいものをどんどんつくっていく文化ですからね。この建物壊しちゃうんだっていう。もちろん残す方が費用もかかるし、いろんな事情があるのは分かるんですけど、時間の経過はデザインできないので、そういう部分で京都の価値観は好きですね。それを受け入れられる度量がちゃんとある。
ー それは京都に拠点を構えているからこそ言えることかもしれないですね。
南:何ヶ月も住んでみて見えてくるものがあるんです。ご飯屋さんひとつとってもそう。ハイからローまである。あとは時間の流れが東京の半分くらいに感じるかな。でも、それって京都に住んでみて分かったことで。ホテルに泊まったりもしましたけど、それだと分からない部分がやっぱり多くて。拠点を持つことでいろいろと勉強になりましたね。飲み屋もおもしろい人多いし(笑)
ー 地元の人ならまだしも、よその人がローカルに受け入れられるっていうのは、そう容易いことでないですしね。
南:そう、だから毎晩飲み歩いてます。おかげさまでプレオープン中も、ファッション関係の人はほとんどいなくて、飲み屋で知り合った人ばっかり。“あのいつも大声で笑ってる人、洋服つくってる人だったんだ”って(笑)

ー 実際に住まれてみて、京都のファッションってどうですか?
南:京都のファッションはこうだ! っていうような特徴はそんなにない気がします。これまで、日本全国いろいろ行きましたが、昔って、この地域の人はこういうファッションっていうのがありましたけど、最近はどこに行っても変わらないかな。
ー その理由はどこにあると思いますか?
南:純粋に情報の早さでしょうね。
ー それは京都を活動拠点にしている堂阪さんも感じられますか?
堂阪:ものすごく感じます。昔って街のオシャレ番長みたいな人がいて、その周りに同じ格好した人が集まるような局地的な文化が根付いていました。でも、SNSが普及したことによって、そういった文化や特性が失われつつあるのは確かですね。やっぱり東京って発信元だと思うのですが、その情報がどこにいてもみんなすぐ得られるという意味でも、すごくフラットになっていると思います。
南:ただ、お店は特徴あるんですよ。すごく辺鄙な場所にあるとか、そこでしか買えないものがあるとか、いろいろおもしろいお店はあるんです。着こなしやスタイル的な部分でいうとそんなに変わらないのかなって。その中でも京都は突飛ではなく、比較的シンプルな服を好む人が多いのかなとは思います。

ー そういう意味では、〈グラフペーパー〉の服は京都の人に受け入れらやすい気がします。
南:そうあってほしいんですけどね(笑)
堂阪:やっぱり大阪は個性が強いと思うんですけど、京都はベーシックというか、シンプルなものが好きな人が多いので、〈グラフペーパー〉との相性はいいと思います。実際にプレオープン中も、たくさんの方に来ていただいたのですが、みなさんから好評いただいてます。あと、今後はやっぱり誰から買うのかがキーワードになってくると思うので、スタッフはもちろん、もっとローカルに根付いて動いていこうと思っています。
ー たしかにここでしか“買えない、体験できない”というのは、今後のお店の在り方にとって重要な要素かもしれないですね。
堂阪:五感六感あると思うんですけど、お客さんがお店に来て、〈グラフペーパー〉の世界観を体感していただいた上で、気持ちよく買い物していただきたいので。何も知らないで流行ってるからオンラインで買うのとはまったく違いますからね。

ー 実際、京都の「グラフペーパー」をつくるにあたって、何かコンセプトはあったんでしょうか?
南:それこそ最初は、「グラフペーパー」のテイストはこうです、みたいにパッケージにすることが大事だと思ったんですけど、いまはその土地によって変えることの方が求められていると思っています。京都の「グラフペーパー」でしか買えないもの、体験できないことですね。

ー 小上がりの和室もそのひとつですか?
南:はい。以前、好きで京都の伝統工芸や建物のつくりについて調べたことがありました。それこそ元々お寺だった物件を見に行ったり、書物を買って読み漁ったり。それもあって、通り土間や茶室に見られるような、京都ならでの伝統やルールというのは、京都店のベースにあります。さらに、おもてなしや所作とった行動的なことで、何か表現できないかなって模索して辿り着いたのが和室でした。ここでゆっくりしゃべれるとか、買い物しなくてもくつろげるとか。お会計の場所としても機能しています。
堂阪:たしかに南さん、“わざわざ行きたいお店にしたい”と、つくっている最中も口癖のように仰っていました。それは僕も強く印象に残っています。この畳のイグサの匂いもひとつの体感ですしね。土壁も、いわゆる茶室ようにかしこまった感じではなく、あくまで民家のような馴染みのあるものにしています。
南:ただでさえ緊張感のあるお店って言われるので(笑)

ー 他のお店はどれもクリーンで無機質なイメージが強いです。
堂阪:なので、青山店と正反対ではないのですが、“馴染みやすさ”は感じていただけるのではと思っています。
ー 和室がお会計の場所というのもおもしろいですね。
堂阪:お会計の際は、靴を脱いで上がっていただくオペレーションにしています。ちなみにその障子を開けていただくとレジ周りのものがすべて入ってます。
南:和室をつくりたいって話したときに、「毎回靴を脱いでお会計するのは大変だと思います」って堂阪さんに言われたんですけど、正直そこまで考えてなくて(笑)
ー でも、逆に言えば、その所作がお客さんにとっての体感であって、楽しみひとつとも言えると思います。
南:あと、こういうことを東京でやろうとすると、まず職人さんがいないので難しいですよね。でも京都はちゃんと職人さんがいるので、つくっている最中も、“このデザインはルール上問題ないか”とか、逐一確かめながら進めていきました。そこを間違えちゃうとせっかくのお店が台無しになってしまうので。


ー トラッドのルールみたいなものですね。奥の蔵の部分は、いわゆる催事的なスペースですか?
南:そうですね。やっぱり“洋服もそれ以外のものも並列にする”というのが「グラフペーパー」の根底にあるので、作家さんの個展やヴィンテージの家具展、ワークショップなど、京都店でしか体験できないことを発信するスペースとして使っていこうを思います。
ー 見た目も京都の歴史や風情を感じます。
堂阪:そもそもこの蔵がお店の場所を決めた最大の理由でしたし、外も中も昔のまま残っていたんです。元々は2階建てだったんですけど、天井をなくして梁を上げてもらってひとつの空間に仕上げています。直近の催事では、南さんが〈グラフペーパー〉とお付き合いのある日本人の作家さん10名にお願いして、特別につくっていただいた作品を展示販売しています。

ー この庭も元からあったんですか?
堂阪:中央の丸い石はそのまま活かしていますが、それ以外はほぼゼロからつくっています。
南:雨が降るとまた絵になるんですよ。内見で最初見たときは本当に悲惨な状態でしたけど、鎖樋の銅や竹、苔など経年と共に味を楽しめる様にしました。秋になれば紅葉の色も変わるので、季節によって景観を楽しめるようにしています。