自分のTシャツは着たくないんです。恥ずかしいから(笑)

HIROSHI NAGAI for Graphpaper
*こちらのTシャツはすでに完売しています
ー 今回のTシャツにプリントされている作品も、すごく涼しい感じがします。〈グラフペーパー〉の南さんからのラブコールを受けて、今回のコラボレートが実現したと聞きました。
永井:そうですね。知り合いの紹介でね。ブランドのカタログを見させてもらって、雰囲気がすごくよかったんですよ。サイズ感とかがゆるい感じがしてね。ぼくはビックポロとかむかし大好きだったから。あと素材にもこだわってますしね。
ー Tシャツにプリントされているイラストは南さんが選ばれたそうですね。
永井:そうそう。うちに来たときにぼくがたまたまこれを描いてて。「じゃあ、これで」って。

ー そしてそれをシルクスクリーンで刷ったわけですね。
永井:南さんのアイデアでね。いまこうやってシルクスクリーンでやろうなんて思わないですよね。この絵をシルクで刷るなんてすごいですよ。そもそもの生地の素材であったり、形もいいですしね。自分では自分のTシャツを着たくないんだけど、恥ずかしいから(笑)。
ー 永井さんは普段どんなTシャツを着るんですか?
永井:なんでもない、首元がゆるんだTシャツですね。自分のは恥かしい。人が着てるのを見るのは好きなんだけどさ、うれしいですしね。
ー ここに描かれているプールもすごく涼しいですね。
永井:そうですね。水色と濃い影だけで涼しさが出ちゃうようなね。そこがポイントだと思います。こういうタイプの絵は何度も描いているんです。シンプルな絵なんだけど、デカくしたらおもしろいかなと思って大きく描いたんですよ。
広告はいつの間にか忘れ去られるけど、音楽は残りますから。

ー 永井さんのイラストは幅広い世代から支持されています。ご自身でそれはどうしてだと思いますか?
永井:たまたまシティポップがブームになったのがラッキーだったんですよ(笑)
でもね、欲があると物事うまくいかなくなる。有名になりたいとか思っちゃうとダメですね。地道にやっていると、ひょんなことからいい話が転がりこんでくる。ぼくは湯村輝彦さんっていう先輩のイラストレーターのところによく出入りしていて、湯村さんがいろいろ後押ししてくれました。『A LONG VACATION』のときもデザインの担当をしていたひとが「永井くんはどうかな?」っていうことで、ぼくのところに話がきたりして。
ー なるほど。
永井:そこから時間が経って、マンハッタンレコードでは嘱託で仕事をしていたことがありました。そうするとレコード会社の人に会うでしょ?なんか繋がっていく感じはしますね。あとは六本木に「ジョージス」っていうバーがあるんだけど、90年代にそのバーのつながりで知り合った方から『breeze』っていうAORのコンピレーションシリーズの仕事をもらったり。まだAORが流行る前の話なんですけどね。
ー 永井さんは音楽が好きで、それが活動の源になっているというのが大きいのでしょうか?
永井:広告はいつの間にか忘れ去られるけど、音楽は残りますからね。

ー ずっとイラストを描き続けてきて、絵を描くという行為は永井さんにとってどんな意味を持つようになったのか、最後に教えてください。
永井:ぼくはイラストレーターになる最初の動機が不純なんですよ。絵を描いて稼いだお金でレコードを買いたいっていうね。そこがはじまりなんですよ。これが職業になるなんて思いもよらなかった。だから本業ではないっていう感覚がどこかにあって。
ー それでも続けられるのはどうしてなんですか?
永井:続けられる秘訣はね、危機を迎えることじゃないですか? なんの不満もなく順風満帆だと、いつか辞めざるを得なくなると思う。経済的な危機だったりとか、なにか問題にぶち当たって真面目にやらなきゃいけない状況がでてくると立ち直るというかね。ぼくはそれの繰り返しでしたね(笑)