ツラい役柄でも、やってて楽しい、よかったって思える瞬間がある。
ー そうした自分を豊かにするための休日がある一方で、仕事へと頭のモードを切り替えるときに、柳楽さんの中でスイッチがあったりしますか?
柳楽:意外とぼくはパッとスイッチが入るタイプなんです。本番前でメイクが終わった後。ムードがそっちへ行きますね。
ー 柳楽さんは独特の存在感があるというか、演技をしているときも柳楽優弥という存在がその役に表れている、そんな感覚を覚えてます。
柳楽:それはよく言われるんですけど、自分の中では無意識ですね。演技をしているときはすごく必死なんですよ。相手のセリフに耳を傾けたり、自分のセリフを忘れないようにとか、そういう基本的なこと意識していて。でも、役の中に自分がいるってことは、どこかでそういう俳優になりたいと思っているのかもしれません。


ー ご自身ではどんな俳優になりたいと考えていますか?
柳楽:20代でたくさんの役にチャレンジしてきて、いろんなスイッチを見つけてきました。限られた役しかできないっていうのが怖くて、いろんな役をこなせる人に憧れていたんです。アメリカっぽい俳優さんというか。
ー アメリカっぽいというのは?
柳楽:とあるアメリカ人俳優が「アメリカの芝居は勉強に勉強を重ねたもの」みたいなことを話していて、演技とエンターテイメントのハイブリッド感がアメリカの芝居にはあるんです。ぼく自身もそうしたものが好きなんですけど、30代になってヨーロッパっぽくいきたいなと思う自分もいて。
ー ヨーロッパ?
柳楽:ヨーロッパの映画を見ていると、俳優さんのオーラとかムードがすごく強くでているような気がして。それが不思議なんですよ。どこかアートっぽい雰囲気もあったりして。30代になって、自分が持っているテンションとマッチする作品をしっかり選んでいきたいと思っているんですけど。

ー いま仰られたオーラやムードという点でも、他の俳優さんに引けを取らない強い個性を柳楽さんは持っていると思います。役作りをする上で大事にしていることはあるんですか?
柳楽:それっぽく見えたらいいなと思うんです。映画の『シークレット・サンシャイン』のメイキングを見ていて、主演のチョン・ドヨンさんが「それっぽければいいんですよ」みたいなことを話してて。つまり、深く考えすぎる必要はないってことなんですけど。
ー 余白を残すというか、そういうことなんでしょうか?
柳楽:そうですね。『シークレット・サンシャイン』にはソン・ガンホさんも出演していて、この前お会いすることができました。演技もすごく好きなんだけど、ご本人から滲みでている人間力みたいなものがとにかくすごくて。個人のオーラのようなものが作品を盛り上げていて、そういう俳優を目指していきたいんです。



ー いろんな役を演じる中で、芝居を通して得られるのはどんなことですか?
柳楽:よろこびですね、やっぱり。芝居が好きなんですよ。やっている最中は大変ですけど、いい作品に出演できたという気持ちが生まれると幸せだし、ありがたい。そういう気持ちって大事じゃないですか。どんなにツラい役柄でも、やってて楽しい、よかったって思える瞬間がある。だからこそ演じきることができるんです。
ー それを感じるのはクランクアップしたときですか?
柳楽:いえ、初号試写を見たあとですね。クランクアップのときはまだ役が入っているんです。
ー そこでようやくオフにスイッチが入るとか?
柳楽:そうかもしれません。初号を見終わって、ようやく作品に対して「いってらっしゃい」と思える。それがいい作品だと報われるし、気分的にも落ち着けるんです。気持ちよくスイッチをオフにすることができます。