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FEATURE|Please Show Me Your Bookshelf 本棚からのぞき見る、あなたの人となり。第二回:藤本やすし(CAP)

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Please Show Me Your Bookshelf

本棚からのぞき見る、あなたの人となり。第二回:藤本やすし(CAP)

本棚は頭のなかのワードローブと言える存在。本棚にどんな本をどんな風に並べているか眺めることで、その人のキャラクターや考え方のクセはもちろん、持ち主のライフスタイルや来し方行く末までを推測することができるのではないか。そんな仮定のもとに、各界のクリエイターたちの本棚とおすすめの本を紹介します。

  • Photo_Takuya Kimura
  • Text_Shunsuke Hirota
  • Edit_Yosuke Ishii

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クリエイティブ集団「キャップ(CAP)」を率い、『STUDIO VOICE』『VOGUE JAPAN』『Casa BRUTUS』といった有名雑誌のアートディレクションを手掛け、現在も多くの雑誌・広告のデザインをはじめ、ギャラリー「ロケット(ROCKET)」の運営など、多方面で活躍している藤本やすし氏。常に時代の先端を走り続けているクリエイティブの源泉は本棚にあるのではないか。その答えを探しに、藤本氏が「本棚ビル」と呼ぶ「キャップ」のアトリエに訪れました。


13トンに及ぶ蔵書はエディトリアルデザインの引き出し

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藤本さんのアトリエである「キャップ」の地下フロア。ここは主に写真集などが並べられている

—三階建てのビルの壁全体が本棚になっていますが、それぞれの階ごとに使い分けをしているんですか?

藤本:地下のフロアは来客を通すための打ち合わせスペースなので、壁を白く塗って本棚も低く抑えてインテリアとして機能するような見栄を張った作りにしています。来客が多いので恥ずかしくないような本でも入れるか、という感じですね。二階にはあまり見られたくないデザインに関する実用書の類い、中二階には『Esquire』や『Sports Illustrated』といった古い雑誌とタイポグラフィに関する本や色々なブランドのカタログといった仕事の資料になるもの、3階のデザインスペースにはこれまで自分が手掛けた雑誌類を中心に置いています。『BRUTUS』が創刊号から全冊揃っているのはマガジンハウス以外ではここだけかもしれませんね。

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(左)様々な資料が所狭しと積まれた中二階。(右)高い天井まで壁一面ビッシリと雑誌で埋まった三階のデザインスペース

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(左)コレクションしているという『Esquire』のバックナンバー。(右)自身も仕事で携わる『BRUTUS』は全てコンプリートされている

—(地下のフロアに降りて)綺麗に並んだ本棚ですね。何かこだわりはありますか?

藤本:棚の高さを何度も微調整したり圧迫感が出ないように3段までに抑えたり、このフロアの本棚に関してはプレゼンの場所としての見栄えを気にしています。みんな本を読んだあとに元の場所に戻さないから今は少し崩れてしまったけど、もともとは背表紙の色ごとに分類して入れていたんです。「黒と白と赤とオレンジと緑ぐらいで色分けしたら楽しいかな」と思ってやったんですけど、緑がどうしても揃わないんですよ。

—誌面をレイアウトする感覚で本棚を作っているんですね。この場所はいわゆるプレゼンに効く本が中心ですか?

藤本:プレゼンに効くと言うか、ここに来たお客が興味を持ってくれそうなマニアックな写真集や現代美術関連の本ですかね。「スティーブン・クライン、いいですね」みたいな感じで、本が話題作りのきっかけにもなるじゃない? 個人的にプレゼンに効くと思ってる本は〈コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)〉が出していた『Six(Sixth Sense』という雑誌。小指敦子さんという編集者が作っていたんですけど、とにかく川久保さんの写真をセレクトするセンスは凄い。

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—本棚を作ることを意識したのは、いつ頃からでしょう?

藤本:本格的に興味を持ちはじめたのは平凡社(編注:雑誌『太陽』などを刊行していた出版社)に勤めはじめてからですが、実際に自分の本棚を持ったのは独立して市ヶ谷に事務所を構えたときですね。平凡社は資料用の蔵書を大量に持っていて、専門の司書がふたり常駐していて地下三階まである300㎡ぐらいの空間にびっしりと本が入っていた。鍵が掛かっていて入れない場所もありましたね。荒俣宏さん(編注:博物学者、研究家、小説家などマルチに活躍。代表著書『帝都物語』など)も専用のデスクを持っていて、資料を閲覧するためによく通っていましたよ。平凡社を退社する時に「蔵書のなかから1冊だけ記念に貰いたい」と思い、随分悩んだ末にずっと気になっていた写真集を黙って貰いました、スミマセン。その時は知らなかったんですが、後からロバート・フランクという有名な写真家の写真集だとわかって「僕って写真を見る目あるじゃないか」と我ながら感心しました(笑)

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—普段の本との付き合い方や楽しみ方は?

藤本:インテリアとして楽しむのもあるし、コレクターっぽいところもあります。ですのでコンプリート欲に駆られてブルース・ウェーバーの写真集も全冊買い集めたり、『Esquire』を全冊集めようとしたりしますね。いやらしい話ですが「この写真集は値段が上がってるから、今のうちに買っておこう」みたいなこともあります。日本だけでは見つからないので世界中から探して買うんですが、40年代の『Esquire』はなかなか見つからないですね。いまはかなり整理して表に出てるのはなるべく1冊ずつにしているんですけど、気に入ったものは閲覧用と保存用で2冊欲しい。特にブルース・ウェーバーの『O RIO DE JANEIRO』は本屋で見掛けたら「僕が救わないと」みたいな気分になって買ってしまうので、5、6冊ぐらい持ってます。

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—エディトリアル関連で影響を受けた本や写真集はなにかありますか。

藤本:一番はやはり、ブルース・ウェーバーの『O RIO DE JANEIRO』ですね。あの写真集を見て『STUDIO VOICE』をデザインしたので。表紙や中面の紙質とか、写真に色かぶせたりとか、編集や装丁の仕方まで物凄く影響を受けています。ブルース・ウェーバーって造本や編集がすごく上手いんですよ。実は以前にブルース・ウェーバーが日本で初めて写真を販売したんだけど、何も買わずにギャラリーを後にしたことがあります。写真集を全冊持っているほど彼の作品が好きなのに、単体で欲しいと思う写真が1枚も無かったんですね。彼はエディットがうまいので、僕にとってはオリジナルプリントよりも写真集のほうが魅力的みたいです。

—言われてみると、確かに『O RIO DE JANEIRO』と『STUDIO VOICE』は何か同じものを感じます。

藤本:そう言われると嬉しいね。『STUDIO VOICE』では1枚の写真を10等分に切り刻んで拡大して使って5ページ分のレイアウトを組んだり、あの雑誌では五感で感じられる誌面作りをやっていました。僕が『STUDIO VOICE』のデザインをやってた頃は、写真集の特集をやると物凄く売れていたんです。僕が持っていた写真集を誌面に出したりしていたし、写真集を縮小して全ページを見開きにずらっと並べるというデザインを試したら色々な雑誌が真似したり、ずいぶん自由にやらせてもらいました。『STUDIO VOICE』が写真集ブームのきっかけになった側面も大きいんじゃないかな。

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—写真集のデザインは手掛けているんですか?

藤本:いっぱいやりました。グラビアや写真集は、撮った写真を大きなテーブルにズラっと並べて「これが表紙で次にこの写真で、こう展開してからエッセイを挟んで…」という感じでページネーションを考えるのが、映画を作るような感覚で凄く楽しい。独立してからしばらくの間は誌面の流れを考えるタイプの仕事がまったく無かったので、そういう仕事は楽しかったですね。平凡社に勤めていた頃に『太陽』というヴィジュアル誌で似たような作業を毎月やっていたのでテーマが風景のときは自信があったんだけど、人物やモデルが被写体だと勝手が違ってて不安もあるぶん面白味もありましたね。その頃は勉強というか、とにかく色々な写真集をたくさん見ました。いまはどの雑誌も編集者がページネーションを決めていくから、デザイナーはせいぜい飾りを考えるぐらいでデザインや構成で遊ぶ自由度が無くなっちゃった。雑誌の元気が無いのは、そういう側面もあるのかもしれないね。

—iPadが発売してすぐにアメリカから取り寄せて使ったり、藤本さんは電子書籍にもいち早く順応していましたが、電子書籍はブックコレクター的な価値観とは正反対なサービスだと思うのですが。

藤本:写真集に関してはページをめくる感触や紙の手触り、印刷の具合まで含めて考えるべきものだと思っています。やはりモニターでは満足できないですよね。雑誌に関しては僕も電子書籍のアプリで読んでいるし、出版社も電子出版で収益を上げはじめている。いまは過渡期の段階なので雑誌のありかたも変わってくると思いますし、近い将来、それに対応したクリエイティブが出てくるのではないでしょうか。それも思ったより早く、あっと言う間だと思います。

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次のページでは藤本さんがデザイナーとして影響を受けた3つの雑誌をご紹介
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