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FEATUREPlease Show Me Your Bookshelf|本棚からのぞき見る、あなたの人となり。第二回:藤本やすし(CAP)

エディトリアルデザインの「いままで」と「これから」を知るための3冊

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「雑誌が目立たなくなってきた今だからこそ、そろそろ雑誌のことも語らなくちゃいけないかな、と思って選んでみました」と藤本氏が語る3冊。いずれも藤本氏がエディトリアルデザインの面で影響を受けた雑誌だそう。長年に渡って雑誌業界の第一線で活躍してきた藤本氏が選んだ3冊は、雑誌というメディアの来し方行く末を知ることができるものになりそうです。

1冊:雑誌が向かう先の指針となるヴィンテージマガジン

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『GENTRY』

「僕は結局この時代のあり方に雑誌が戻ってくるんじゃないかなと思ってるんです。これは50年代のアメリカの雑誌なんですけど、もう美術工芸品の1歩手前で、見開きに花の種が綴じてあったりシャツのページには生地見本がついていたり、かなりハンドメイドで作られているんです。これからは小さいコミュニティに向けて、こだわった作りの比較的高価な本が作られていくようになると思います。雑誌ってもともとは新聞のダイジェスト版で、それが服やクルマといった趣味ごとに別れていったんですが、わりと近い将来にこういった草創期の姿に雑誌は戻っていくと思っています」

1951年から1957年にかけて22号発行されたアメリカのメンズライフスタイル誌。誌面で紹介している商品の生地の見本を貼り付けたり飛び出す絵本のような仕掛けが施されていたり、手の込んだ作りになっているのが特徴で、コレクターズアイテムにもなっている。

2冊:雑誌のヴィジュアルを作り上げた、CAPのデザインの原点

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『VOGUE ITALIA』

「1989年の『VOGUE ITALIA』です。この頃の『VOGUE ITALIA』はその時にいちばん良い仕事をしているデザイナーに1年間デザインを依頼するというやり方で作っているんです。当時はイタリアもバブルの時期で、この年はファビアン・バロンという有名なアートディレクターが手掛けたもの。それまで雑誌のデザイナーって編集者が持ってきた材料を整理してレイアウトするだけの仕事だったんだけど、この人は明らかにデザイン先行で誌面作りをやっている。モデルの着てる服とフォントの色を合わせたり写真全体に文字をかぶせたり、その頃にこれほど斬新なことやっている人はいなかったんですよ。こんな雑誌があるんだ、こんなことやっていいんだって驚いちゃって、実際に彼に会うために仕事場を訪ねて見学しました」

当時29歳だったファビアン・バロンがヴィジュアルを刷新して作り上げた『VOGUE』のイタリア版。ファビアン・バロンがデザインを担当していた1989年から約1年半の号は人気のため古書店でも品薄状態。ファビアン・バロンはその後、アメリカ版『ハーパース・バザー』やマドンナの写真集『SEX』などを手掛けている。

3冊:雑誌デザインのマイルストーン

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「デビッド・カーソンってデザイナーが友達から貰ったフォントが11個しか入ってないMacintoshでデザインしてて、フォントを刻んだりしてレイアウトしたらこうなったみたいです。読めなくても良いというデザインのはしりで、五感で雑誌を見る、感じるためのデザイン。読みにくいんだけど、音楽雑誌に必要なグルーヴ感みたいなものが出てるデザインが画期的で、みんな真似したんだよね。『STUDIO VOICE』もすごく影響を受けてて、デザイン史としてもエポックメイキングな雑誌です」

92年創刊のカリフォルニア発の音楽カルチャー誌。表紙ロゴのデザインも毎号ごとに変わる、目次やノンブルが無い、本文をグラフィカルに並べるなど、あえて情報を未整理のままカットアップすることで読者に雑誌の世界観を体感させる作りになっている。デビッド・カーソンの手によってタイポグラフィを解体していった誌面のレイアウトは、電算写植からDTPへの時代の移り変わりを象徴する出来事でもあった。


70年代から現在に到るまで、雑誌のヴィジュアルをクールに仕上げることを続けてきた藤本氏。その本棚は貴重な蔵書の数々に目を見張るだけでなく空間としての見た目に至るまで、藤本氏の美学のもとでレイアウトされていました。そして、出版不況が叫ばれ続けているなかで雑誌が新たなステージを迎えるための方法論は、どうやら藤本氏の頭のなかと本棚に既にしっかりと収蔵されているようです。


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藤本やすし
1950年生まれ、愛知県出身。大学卒業後に平凡社勤務を経て、1983年にアートディレクションを手掛けるデザイン集団「キャツプ(CAP)」を設立。『STUDIO VOICE』『GQ JAPAN』『GINZA』『ku:nel』などを手がけ、現在は『VOGUE JAPAN』『BRUTUS』『CasaBRUTUS』などの媒体をはじめ、多くのファッションブランドのエディトリアルデザインを手掛けている。

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