FEATURE
バイヤーがモニター越しに観た、2021年春夏パリ・メンズコレクション。
2021 S/S PARIS MEN’S FASHION WEEK

バイヤーがモニター越しに観た、2021年春夏パリ・メンズコレクション。

新型コロナウイルスによるパンデミックの影響を受けて、史上初のオンライン開催となったパリ・メンズファッションウィーク。7月9日から5日間の公式スケジュールに参加した65ブランド、さらには会期外に発表したブランドが創意あふれる映像作品を発表しました。アニメーションあり、デザイナーが肉声で語るものあり、さらには従来的なランウェーショーを彷彿とさせるものありと、それぞれのテイストは千差万別。20世紀初頭から続いてきたフィジカルな発表形式ではなく、デジタルという新しい枠組みのなかでブランドの真価が問われました。これらの作品は、バイヤーの目にどのように映ったのか? そして、買い付けはどのように行ない、バイイングディレクションにどんな変化があったのか? 名だたるショップの第一線で活躍する6名に話を訊きました。なかにはロンドンやミラノからのブランドのチョイスも。

  • Photo_Hiroyuki Takashima(Top)
  • Text_Tatsuya Yamaguchi
  • Edit_Ryo Muramatsu

BUYER 06 日本のムーブメントを盛り上げて世界に発信することが有意義なんじゃないか。

PROFILE

KAMIMURA

2016年に大阪と広島に同時オープンした「コンテナストア」の共同創設者兼バイヤー。ドメスティックブランドや古着、海外の新鋭ブランドを扱う。18年に東京店をオープン。
www.contenastore.com

ー デジタルファッションウィークを観て、どのような印象を持ちましたか?

フィジカルではダイレクトにその世界を見ることができる反面、端末の画面というフィルターを通すデジタルの枠を与えられることで、表現の幅が狭くなると捉えられてしまうかもしれません。しかし、そもそもコレクションを発表するにあたりランウェーショー形式にこだわる必要はなく、むしろデジタルという形式の持つ利点や特性を逆手に取っているブランドはさすがだなと思いました。一方でフィジカルなファッションショーも必要だと思っています。たとえば、アーティストがライブするのに配信だけで良いですというのはやっぱり違う。ただ、今回のことでデジタルもけっこう良いんじゃないかと思った人も多いはず。両者のバランスをとっていく考え方も定着してくると思いますね。

ー そういった視点からも注目したブランドはどこでしょうか?

〈コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン〉は映像発表ではないですが、日本の職人さんなどを仕事場やその近くで撮影したものをまとめてブックにしていましたが、ひとつの場所で開催されるランウェーショーではできないこと。国内で伝統的な職人技を持っている方に向けた服をつくって、その人たちに着せて撮影する。方法そのものはシンプルですが、この状況下での発表の意義と “ローカル” を日本から世界に発信している点も含め共感しました。

今回はパリ・メンズに参加せず、写真家・北島敬三が撮影したヴィジュアルブックでコレクションを発表した〈コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン〉。モデルには、寿司職人、自動車メカニック、刀工、プロフライフィッシャーといった職人が参加。

〈ウォルター ヴァン べイレンドンク〉は、戦後とコロナ禍をなぞらえているのか、第二次世界大戦後に物資が不足している状況で行われた1945年から46年の「テアトル・ドゥ・ラ・モード」というオートクチュールの発表会を着想源にしていて、70cmくらいの人形に服を着させたのも、ショーではできないこと。サンプルの制作に必要な生地量を抑えることができているのは、サスティナビリティの視点から面白いと感じました。

〈ウォルター ヴァン ベイレンドンク〉は、第二次世界大戦直後に生地不足の解決策としてフランスのクチュリエたちが行った、ミニチュアサイズでデザインを発表するというアイデア(テアトル・ドゥ・ラ・モード)に着想。教子であるイーライ・エッセンベルガーらが人形を制作。

〈ワイ・プロジェクト〉の服は、1着で2通り、またはそれ以上の着こなしができるものが多いので、ランウェーのみではどうしても表現しきれない部分がありますが、デザイナーのグレンを含むチーム自らモデルの着付けを行うことで服の持つスタイリングの “多様性” を示していました。3つの画面に仕切られて次々とスタイルチェンジする様子は、連続的でリズミカルなデザインが象徴的なブランドイメージをより濃く体現していました。「エバーグリーン」のように、過去のアイデアやプロダクトそのものを再利用するという考えは、流行の消費やサイクルが早すぎる現状において、単なる “焼き増し” や “再生産” ではない新しい価値を与えるんじゃないかと思っています。

ー バイイングに関してはこれまでとの変化はありましたか?

ぼくたちは、実際のサンプルを見た後、持ち帰って、チーム全体の意見を聞きながら、最終的には共同代表の杉田と納得がいくまで二人で話し合ってオーダーを固めるというスタイルを続けています。チーム全体の意見や質問を聞いていると、展示会場では気付かなかった疑問点や確認すべき点がどうしても後々浮上します。気になる点はブランド側にとことん確認するんですが、いままでは曖昧な情報が上がってくることが多かった。今回はブランド側の体制が整えられていたので、丁寧で的確な回答が即座に得られました。その点では、むしろオーダーがつけやすかったかもしれません。

私たちは基本的に自分たちが欲しいもの、着たいと思うものをバイイングするように心がけていますが、オンラインでのオーダーはたとえるなら、私たちがオンラインショッピングをするような感覚でオーダーするケースも多かったですね。もちろん、実物を見ないと分からないサイズ感や肌触りの問題などが大きく絡んできますが、この世のなかになってオンラインショッピングの利用が多くなるお客様の環境と私たちバイヤーのオーダーの環境がリンクしているとポジティブに捉えました。オンラインオーダーでピックする際、目に留まるような商品に需要も感じます。もちろん視覚的な部分のみに頼らずに、その反動も考慮し、バランスを考えてオーダーしました。

ー 2021年春夏シーズンから扱う新しいブランドはありますか?

積極的な買い付けでいうと〈イーライ・ラッセル・リネッツ〉ですね。ここ数年を振り返ると、新しいブランドをどんどん取り入れることそのものが “トレンド” になっていたとも感じますが、いまはそこに積極的になるタイミングではないかなと。

ー 継続しているブランドが多いのには理由があるんですか?

前々からやってきたことですが、本当に共感できるブランドと長く付き合っていきたいと一層思うようになりました。お客様のなかには、デザインよりも、ものの背景やつくり手の思想に共感して購入している方が増えている印象もあって、かつてのDCブームのようにブランドの精神を着るようなことが再来するような気もします。このブランドしか着ないといった人も私たちスタッフも含め、増えてきた印象です。同時に、インポートが大半を占めている状況に、ちょっと懐疑的になっています。私たちは、国内の距離の近いデザイナーとの関係性をより強固にしていきながら、日本という “ローカル” のムーブメントを盛り上げて、世界に発信していくことが有意義なんじゃないかなと。デザイナーが同世代で友人でもある〈ティー(TTT_MSW)〉や〈ダイリク(DAIRIKU)〉といったずっと取引しているブランドの世界観や、彼らが繋がっているアーティストと直結する形を加速させたいという思いもあります。いまは人を集客するイベントが組みにくい状況ですが、私たちのお店でできることを計画しています。