ー それではここからは商品の話を聞かせてください。
柿本: 今シーズンの洋服は〈コモリ〉〈ナイスネス〉〈インディゴエイエム〉、靴は〈レ・ユッカス〉、あとは40、50年代の〈フレームフランス〉のデッドストック、うつわでは〈富井 貴志〉さんの木工、漆のものなどを置いています。



ー この空間に似合うものばかりですね。まず〈コモリ〉の話から聞かせてください。

柿本: 〈コモリ〉には着れないなっていう服がひとつもないんですよね。小森(啓二郎)さんがやってること全部が好きです。〈コモリ〉の服ってルーツがあるものをベースにしていて、過度にデザインしないんですよね。僕にとってはすごく安心感のあるブランドであり、普段から一番着ている服です。最近はすごく売れているので斜めから見ている人もいるんですけど、〈コモリ〉はもうそういう次元にはないと思います。
ー 小森さんはこの取材で、自分でつくった服は自分の子供みたいなものだって言ってました。どんな人にピックアップされるかというのがすごく重要になってきているとも。
柿本: このお店の話をしたら、そういうお店であればということでOKをいただきました。小森さんの、やりたいことしかやらないという姿勢にすごく共感します。いまのところ「柿乃葉」はオリジナルがないんですが、〈コモリ〉は自分のなかではオリジナルを扱っているような感覚で置いておきたい服です。
ー 〈ナイスネス〉とは別注のアイテムもつくっています。
柿本: デザイナーである郷(裕一)くんの感性が好きなんです。素材も作れるし、そこから先の作りもすごく丁寧、本当に服が好きなんだなって思います。デザインのひとつひとつに考えや意味があって、アーティスティックな部分もあります。あとは値段を考えて物作りをしていないし、自分の思いを素直に形にして、出来上がったものに真っ当な値段をつけていますよね。色々なデザイナーに会いますが、彼は天才肌と言うか人と見ているところが違うんです。


柿本: ジャケットはミュージシャンが着崩しているようなイメージらしいのでちょっと大きめです。ジャケットなんですけど、チェスターコートとの合いの子みたいな。それを超上質な素材で作っているというものですね。80年代~90年代のデッドストックのカシミアを使っています。展示会で見た生地見本に無染色のものがあったんです。それがすごく気になったので、その生地で作ってもらったものです。あとは毛抜き合わせ含めて、ほとんどがハンドで作られています。ものすごく手間暇かけているのに、着崩しているというイメージっていうのが独特ですよね。
ー コートはいかがですか?

柿本: このコートの素材は綿ビーバーです。形自体は今季の新作で、前身頃がフランス、後ろ身頃がイギリスっていう、40年代くらいのコートをドッキングしているものなんです。襟の角度とか、肩の傾斜とかがフランスで、後ろはサイクルコートをベースにラグランの袖とか、深いベントとか、そのあたりに特徴があります。

ー 色がすごくいいですね。
柿本: そうなんです。ネイビー一色なんですけど、アメリカの茄子紺みたいな色ですよね。なので、いろんな国がミックスされてるコートです。毛布が歩いているような感覚で、すごい一着ですね。

ー ところで9月のオープンから何度か並びができたらしいですね。
柿本: はい、びっくりしました。
ー お店の告知はインスタで徐々にという感じですか?
柿本: はい。写真を少しづつアップしながらやっていました。
ー 写真も自分で撮ってるんですよね。
柿本: そうなんです。サーフィンを始めたときに撮り始めて、それ以来ずっと写真は好きですね。
ー あとはウェブサイトもいい感じですよね。
柿本: このサイト、実は「ブルーム&ブランチ」で、バイヤーのアシスタントをやってた子に作ってもらったんです。もともと僕のアシスタントなので、好みとかをばっちりわかってくれてたので、一発OKでしたね。
ー 宣伝という意味ではそれくらいですよね。それで並びが出る、うーん、すごいですね。
柿本: 「柿乃葉」は土日しか開けてないんですけど、土曜に1、2型だけ新しい商品が出るようにしてるんです。それを月曜あたりに告知するようにしていて、その商品が欲しい人は、土曜日のオープンを目指して来てくれるので、それで列ができるんだと思います。開店時に来る方はみなさんはっきりとお目当てのものがあって、それを買いに来ている感じですね。

ー その多くは地元の人ではないとか。
柿本: はい。鎌倉の方は一割くらいですかね。なかには茨城とか静岡から来ました、みたいな方も並んでいて。
ー お客様にも、もちろん一人で対応するんですよね。
柿本: はい。最初は少しお待たせしてしまったりもしました。実は22歳くらいからレジに触ってなくて。。
ー だいぶ久しぶりですね。ちなみに接客はいかがですか? こういうお店をやるくらいなので、そんなに苦手ではないと思うんですが。
柿本: 接客は好きですね。正直、結構得意な方です。高いものとか難しいものを売るのは得意かもしれません。ただこのお店の場合は、さっきも言いましたが、お客様が事前に買うものを決めてきている感じなので、またちょっと違う感じではありますね。
ー お店開けるまでは、どうなるかな?という不安はありましたか?
柿本: はい。けど、自分のやりたいことをやれていて、赤字にならなければいいかなぐらいの気持ちがあるので、そこはそんなに心配していなかったです。でもまずはいいスタートが切れたのでよかったです。
ー お店を開けてみて、どんな感想が届いてますか?
柿本: みなさんとくに空間については褒めてくださいます。僕のことを知っている人には、自分の好きな感じを形にしたね、って言ってもらえました。

ー お店の形に正解はないですけど、こういう主人のキャラクターが前面に出ているような、店主そのものみたいなお店をフイナムではやっぱり追いかけていきたいと思っているので、そういう意味では「柿乃葉」はすごくいいなと思いました。
柿本: ありがとうございます。
ー 行くこと自体がイベントになるようなお店ですよね、ここは。
柿本: そういうお店でありたいですね。ものを買わなくてもいいけど、なにかを持ち帰って欲しいです。さっきカメラマンさんに言ってもらった「ここ教会みたいですね」っていう言葉はすごく嬉しかったですね。
ー このお店は柿本さんの個人商店という趣きなんですが、こういうお店をやりつつ「ブルーム&ブランチ」のディレクターもやるというのが、意外と新しいなと思いました。どちらも柿本さんそのもののようなお店でありながら、アプローチが少し違うというか。
柿本: そうですね。どういう風に棲み分けていくかは考えていかないといけないと思っていますが、確かにどっちも自分ですね。「ブルーム&ブランチ」では僕一人ではできないことをやらせてもらっているので、「柿乃葉」では「ブルーム&ブランチ」では逆にできないことをやっていきたいなって思います。

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