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toffの9年間と、TFとしての0日目。
Talk About The Store

toffの9年間と、TFとしての0日目。

祐天寺と学芸大学のちょうど中間の五本木エリアにあるセレクトショップ「トフ(toff)」は、11月19日に9周年を迎え、慣れ親しんだ「トフ」という名前から「ティーエフ(TF)」へとショップ名が変わります。しかし、「名前は変わっても、スタンスは変わりません」とスタッフの岡本さん、鈴木さんは声を揃えます。そう言い切る理由はどうしてなんだろう。そして、“好立地”とは決して言えない場所ながら、人々を惹きつける所以はなんなんだろうか。そんなことが知りたくて、お二人とともに予約制オーダーサロン「ニートハウス」と中目黒のカセットテープ店「ワルツ」を訪ねました。さらに「トフ」のディレクターを務めるパリ在住の関 隼平さんを招いてインスタライブも敢行。そこから見えてきたものは、“人がいい店をつくる”という至極当たり前のことでした。

  • Photo_Hiroshi Nakamura
  • Text_Shogo Komatsu
  • Edit_Shun Koda

meets Waltz 角田太郎 商品は在庫ではなくて資産。

PROFILE

角田太郎

1969年生まれ。東京都出身。伝説的レコードショップから世界的大手IT企業を経て、唯一無二のカセットテープ専門店「ワルツ(waltz)」を2015年にオープン。アナログメディアムーブメントを牽引するキーマンとして世界中から注目される。その人気ぶりから、2017年に〈グッチ(Gucci)〉が世界中の限られた場所を選出するプロジェクト「グッチ プレイス」を日本で唯一飾る。

PROFILE

角田太郎

1969年生まれ。東京都出身。伝説的レコードショップから世界的大手IT企業を経て、唯一無二のカセットテープ専門店「ワルツ(waltz)」を2015年にオープン。アナログメディアムーブメントを牽引するキーマンとして世界中から注目される。その人気ぶりから、2017年に〈グッチ(Gucci)〉が世界中の限られた場所を選出するプロジェクト「グッチ プレイス」を日本で唯一飾る。

ー 「トフ」のBGMに、カセットテープを使うようになった経緯から教えてください。

角田: もともと関さんとは付き合いが長くて、関さんが〈1LDK〉で働いてらっしゃったころからなので、10年以上の付き合いです。

関: 「ワルツ」がオープンしたとき、僕はすでにパリに拠点を移していました。ポップアップショップを東京でやることになって、そこでカセットテープを売らせてもらえたらおもしろいと思って角田さんにご相談して。そこのBGMも「ワルツ」のカセットテープを使っていたんです。それで「トフ」と「ワルツ」が近いということもあって、毎月「ワルツ」で選んだカセットをBGMでかけることにしました。

角田: ラジカセも、うちで買ってくれましたよね。

岡本: そうですね。確か4年くらい前。それまではデバイスで流していたんですけど、僕が「トフ」に入るタイミングに「ワルツ」がオープンして、カセットテープでBGMをかけるのもいいですよねって関さんと話したことを覚えています。

ー カセットテープを使うようになって、音楽の捉え方は変わりましたか?

岡本: それまではただ音楽を流しているだけって感覚だったんですけど、カセットだときちんと選んで掛けるっていう主体的な選び方になりました。毎月「ワルツ」さんで選んでるんですが、それも楽しくて。角田さんに、これはBGMに合うんじゃないかってアドバイスしてもらいながら。お客さんの反応もすごくいいですよ。

ー 「トフ」では、どんなジャンルを?

岡本: 単純に僕と鈴木が興味ある音楽です。

鈴木: まずジャケットを見て、角田さんが書いているキャプションを読んでみて。そのコメントが重要なんです。

岡本: そうそう、コメントを見て聴きたくなるんですよ。だから、特にジャンルは決めずに。

関: 僕も帰国したら必ず「ワルツ」に寄らせてもらっていて、パリでやっているショップ用に買って帰るんですけど、いつも角田さんに相談しています。僕は気持ちいい音楽が好きなので、角田さんと話して、幅を広げてもらう感覚ですね。

角田: おすすめを聞かれればレコメンドしますけど、音楽を売っているお店って洋服屋さんと違って、お客さんの横に付いて接客をしないんですよ。だから、だいたいのお客さんは自分で選んでいかれます。そのために必要な情報は、商品につけているキャプションでも、インスタグラムでも提供していますしね。お店の中では、割と大きな音量で音楽を流しているから、「いまかかっている曲はなんですか? 」って聞いて、それを買っていく方も多いです。

岡本: その接客の考え方は僕らと近いかもしれません。お客さんに対して力を入れてガツガツ接客することは、あまりないんですよね。

鈴木: そうですね。洋服に触るたびに説明するようなことはしないです。気になっているようだったら、軽く声を掛けてみるくらい。

岡本: でも、ここ1年くらいは、「革靴に合わせるパンツが欲しい」って、ざっくりとした相談をいただくようになりました。それなら、こういうのはどうですか? とかって、もちろんご提案しますけど。

角田: そういう接客のスタイルはお店としての約束事になっているんですか?

鈴木: 特に決めたことではなくて、自然とそうなっていった感じです。お店が狭いので、圧迫感のないように距離を保って、のんびりと見てもらいたくて。

膨大な数のカセットテープが並ぶ店内は圧巻そのもの。ラジカセや書籍、雑誌などもセレクトされ、時間がいくらあっても掘りきれない。

ー 「ワルツ」をここにオープンした理由は?

角田: 僕、生まれも育ちも中目黒で、ここら辺に馴染みがあるっていう理由は大きいです。あと、商業エリアにお店を出したくなかったです。それは自分のコントロールできない理由で、美意識を崩されたくないから。例えば、向かい側や隣にオープンしたお店が、僕のお店の世界観と反していても、どうすることもできないじゃないですか。そういう要素を含めて、静かな場所にポツンとあったほうがいいと思いました。最寄駅から徒歩15分以内だったら、来てもらえるだろうし。駅から迷いながらお店まで来るっていうストーリーも含めて提案したかったんです。

岡本: その感じ、すごくわかります。

ー BGMとして、どのように音楽を捉えていますか?

角田: お店の雰囲気に合っているかということを意識してます。「お二人や関さんに音楽を勧めるときも、お店の空間を汚さないということは重要だと思ってます。BGMがお店の雰囲気とそぐわないだけで、空間が台無しになりますからね。そのくらい、音楽は空間を支配するものだと思ってます。

岡本: 確かに、僕らが取り扱っている洋服の世界観に合う音楽、というのは大事にしてます。あとは天気とか時間帯で曲を変えることも。お店としての居心地の良さは考えて選んでます。

ー コロナ禍となり、お店に変化はありましたか?

角田: 海外からのお客さんが多かったので、来店数こそは減りましたが、代わりに通販の販売数が伸びて、トータルでみれば変わっていません。僕はネットビジネスを長くやっていたこともあって、タンジブルなものに特化しようと思い、お店をオープンしたんです。通販の売上が良くなっても、その考え方は変わらず、お店を中心にやっていきたいと思っています。

岡本: 僕らもオンラインの売り上げは確かに伸びましたし、伸ばさなきゃって思いました。でも、いざやってみると、意外とお店に来てくれる方は変わらなくて、逆にオンラインに力を入れたことで、僕らが立っているお店に行ってみようと、来店してくれる人が増えました。やっぱりお店ってそういうものだなって改めて思いました。

角田: やっぱり店頭に来てもらいたいですよね。「ワルツ」の通販に出しているのは、新作だけなんですよ。でも、店頭には誰も知らないような音楽もたくさんあります。ジャケットがいいとか、キャプションのコメントが好みに合いそうって、理屈じゃなくて直感で選んでもらいたい。カセットテープはアートブックと同じだと思っていて、アートを売る感覚です。他の音楽ショップにはない、新しい感性なのかなと思っています。取り扱っているカセットは、洋服みたいにシーズンがないし、あったとしても来年の夏は聴けないかといったらそうでもない。商品は在庫ではなくて資産なんですよ。

岡本: うちはセレクトショップですけど、古着屋さんみたいに来シーズンも、数年後も着られる服を取り扱いたいと思っています。

鈴木: 僕ら、あまり流行を追ってないんですよね。トレンドはチェックしますが、それに合わせて仕入れるってことはなくて。

岡本: 僕と鈴木の2人がバイヤーなので、たまたま流行にハマることもありますけど、好きなものだけを仕入れてるんですよね。いまって流行のサイクルが早くて、ワンシーズン着たら流行遅れを気にするお客さんが多いと思うんですが、気にせず着てもらいたいですね。

鈴木: そうそう。流行り廃り関係なく服を着てる人はスタイルがあって、単純にかっこいいなと思います。

岡本: あくまで、僕らの提案は“普段着”なんです。気に入ったら、長く着てもらいたい。

角田: いまはトレンドが細分化されているんですね。音楽もそうで。何百万人が購入する作品って、生まれにくくなっていて、ジャンルも細分化されています。僕ですらキャッチアップできていないジャンルがたくさんあるくらいです。一回聴いて、いいと思う音楽は、いい音楽と言うより分かりやすい音楽なんだと思います。小学生が初めて「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」を聴いて、心から素晴らしいと思わないはず(笑)。だから、分かりやすい音楽といい音楽は別だっていうのが僕の持論です。

中央に置かれた新作のカセットテープ。それに添えられたキャプションも角田さんらしさがじんわりと滲んでいて、ついつい読みふけってしまう。

ー これから挑戦したいことはありますか?

鈴木: コロナ禍になる前、“どこでもトフ”って企画を立てていたんです。こういう服が欲しいって言っていただければ、来店しなくても、直接ご自宅でも職場にでも僕らが洋服を持っていくサービスです。始めようとしたら、ちょうどコロナ禍になっちゃって、それが止まっている状態なんですが。

関: スタッフの人数が多いと、知識や接客のレベルを統一するのが難しいけど、「トフ」だったら岡本さんでも鈴木さんでも、どちらが来ても「トフ」ですからね。みんながやっていないことをやっていきたいですね。

角田: 変わったことをやるのは、いいと思います。僕なんてファッション業界の人間じゃないから客観的に見ているけど、考えてることって、みんな一緒なんだなって思います。斬新なことをやっていかないと生き残れないと思うんです。

関: いつも仕事の相談を角田さんにすると、新しいヒントをもらえます。アパレルじゃない人からの話は、参考になることが多いですね。

角田: 売っているものが違うだけで、お店を運営することは同じだから、共通することは多々ありますね。お互い、商業エリア外にお店を構えているから、それがいい部分もあれば、大変な部分もあると思います。でも、正解なんてたくさんあるので、自分がやっていることだけが正解だとは思いません。「トフ」さんは9周年で、「ワルツ」は5年ちょっと。続けられている理由を検証しながら続けていきたいですね。

鈴木: 残すことは残して、変えることは変えていかなきゃいけないと思っています。

岡本: 続けられている理由を自分たちで自己分析して、次に繋げていかなきゃいけませんからね。これからも頑張っていきます。

取材当日、示し合わせたように全身真っ黒の服だった岡本さんと鈴木さん。「普段は服のテイストが違ってるんですけど、たまたま被ってしまってちょっと恥ずかしいです」と岡本さん。

ワルツ

住所:東京都目黒区中目黒4-15-5
電話番号:03-5734-1017
時間:13:00~19:00(月曜定休)
オフィシャルサイト

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