アメリカで大成功するのが完璧に見えている。
ー 漫画家として30年のキャリアを築いた三太さんですが、この先の30年に対してはどんな手応えを感じていますか。
三太: 本当のことを言うと、もう完璧に見えてるのね、未来が。アメリカに来てみて、僕が作ってきたヒップホップコミックというものが、すごくユニークだってことがわかっちゃったんです。普通に考えればヒップホップといえばアメリカが発祥で、産業としてものすごく大きくなっているだけに、ヒップホップアニメとかヒップホップ漫画がアメリカにあってもおかしくないじゃん、リアルなやつが。でも結局は、ヒップホップと漫画が交わる交差点に立っているのは、俺が元祖なんじゃないかなって。

渋谷のB-BOYにとって伝説的な場所であるCISCO坂。ヒップホップ・グループ、Naughty by Natureのジャケットの世界観を意識したイラスト(『井上三太画集 SARU』)。
三太: たとえば「ヒップホップっぽいもの」ってあるじゃん。ダボダボのパンツとか、アディダスとか、スケボーとか、ドラッグとかって。俺、それを盗んでくる人が嫌いなの。今こういうものがウケているから、ダボダボのズボンにしようみたいな。そういう人ってけっこういるんだよね。そのカルチャーに愛はないけど、盗ませていただきますという人がさ。で、俺はそうはありたくないなと思っていて。要はヒップホップが好きで、ヒップホップを尊敬していて、しかもそれを漫画にアウトプットできるのは、俺が世界で1番うまいんじゃないかなと思っちゃったわけなんですよ。
で、俺叶わなかった夢ってないわけ。漫画家になる前も、漫画家になって売れると思っていたんだよね。売れる前に、ある漫画編集者と言い合いになって、「いや、僕将来、売れますから」みたいな青いことを言っちゃったことがあって。そうしたらその編集者が「こんなところでね、すかしっ屁をかましていたって、なんにもならねえよ」と言ったんですよ。その通りかもしれないけど、俺は「でも、本当なんだよな。すかしっ屁とかじゃなくて、本当の屁なんだよ。めちゃくちゃ臭くて、音がデカイやつ」と思っていて。だから今度はアメリカで本当に映画になって、今までの何百倍も成功しちゃうんだろうなという絵が浮かんでいるわけ、カラーで、めちゃめちゃリアルに。

『井上三太』の 『SUBWAY』より(『井上三太画集 SARU』)。
三太: 確かに今アメリカに来て4年目で、ぶっちゃけ夢は叶っていないよね。でも自分が自分であることを誇っているから。竹ってさ、水をやり続けても5年間芽が出ないんだって。でも5年目にようやくポコっと地上に出てきたと思ったら、5週間であっという間に27メートルにもなるんだって。でも俺はまだ3年しか経っていないんだから、芽が出なくても5年とか10年とかとにかく我慢してみようと思うの。今までの計算でいくと、夢が叶わないはずないんだから。

三太さんの仕事場。
三太: そのためには日々努力しなくちゃいけないと思ってんの。努力しないでいくっていうのはあり得ないから。だから毎日愚直に努力して、漫画を毎日描いていこうって。でも毎日漫画を描くのって、努力とは違うんだよね。辛くてやっていることじゃないから。もっと面白い漫画が描けるはず! と思って、仕事場に毎日こもってるんだよね。で、面白い漫画を描けているときは、「うわ、やっぱり!」と思って、「こんなものを世の中に出したかったんだよ!!」と思っているから、ドクドクしてるの。ガマン汁が先っちょから出てきている、みたいな。何年ガマン汁出てないですか? って話ですよ。恋を何年休んでますか?じゃないけど。
ー ありましたね、そんなドラマが(笑)。
三太: 要は、ドキドキして生きてるかい!? っていう。RCサクセションの「愛し合ってるかーい!?」じゃないけど、結局は、いかにドキドキして生きているかなんだよね。大切なのは。
ー いいお話ですね。この先の三太さんにも期待しています。