閉塞感のあるファッションシーンに光を当てる。
ー 『エポック』をつくるに当たり、コラボレーションする相手も独特で面白いですね。
吉岡:これまで日本酒、花(ニコライ・バーグマン)、和菓子(老松)、音楽(フェンダー)、柿沼康二さん(書家)らとコラボレーションしてきました。例えば一見、全く異なるフィールドにいるような、ファッションと日本酒を組み合わせることで、新しいものが生まれればという狙いがあります。伝統やモノづくりにかける思い、進化を恐れない姿勢など、繋がる部分は多かったですね。
ー 2018年と19年に行われた『エポック』ならではのイベントも「伊勢丹」らしい豪華な内容でした。
吉岡:『エポック』というマガジンはある意味でおもてなしのひとつです。情報があふれるいまだからこそ響くコミュニケーションとは何かと考えるなかで、顧客さま向けのイベント「EPOCH KNIGHT」も定期的に行っています。我々の顧客さまは個性的な雰囲気を持っている方が多いので、顧客さま自身にモデルになってもらい、プロのヘアメク、演出チームによるファッションショーも行いました。参加者には『エポック』の写真家によるファッションシューティングを行ったりと、顧客さまには大変満足してもらえたイベントになりました。
ー 『エポック』そのものへの顧客の反応はいかがですか。
吉岡:お陰様で、好意的な意見をたくさんいただき、それは制作の励みになっています。やはりひとつのルックではなく、誌面全体の世界観を含めて楽しんでいる方が多い印象です。改めて好きなブランドへの認識を深めたり、そしてそれがメンズ館に足を運ぶきっかけになったり、また店頭のスタッフと共通の話題になったりと、いろんな楽しみを提供できればいいなと。EC連動など新しいコンテンツも含めて、そこは常に考えています。
ー 昨年はコロナ禍という大変な状況で、2号のみのリリースとなりました。
吉岡:2020年は3月号の発刊以降、6月・12月号は休刊し、9月に特別号という形で作成しました。テーマは「FASHION GIVES US POWER, ALWAYS」。「ファッションにはいま何ができるのだろう」ということを見つめ直す側面と、困難な時代を乗り越えていくために、ファッションは私たちを癒し、安心感を与え、そして前向きに進んでいくためのパワーとなるはずだと希望を込めてつくりました。よりポジティブなメッセージを伝えるべく、各ブランドのモデルカットはすべて笑顔の写真を使用しています。大変な一年でしたが、文字通り特別な号になったと思っています。
ー 最新号は、若年層やファッションラバーから高い支持を誇るニュースター、吉井添さんをモデルに起用しています。
吉岡:これまでは海外のファッションショーなどで活躍している外国人モデルが多かったのですが、初めてインフルエンサー的な立ち位置で活躍されている方を起用しました。吉井添さんを起用した理由は、彼自身がハイファッションと親和性が高いことに加え、彼と同じく若い世代にも「伊勢丹新宿店メンズ館」を知ってもらいたいという狙いもありました。ラグジュアリーな世界に足を踏み入れてもらうきっかけになればいいなと。実際、お会いしてみるとティーンらしく可愛らしい一面もありますが、カメラを向けられるとすごいエネルギーで、モデルやそれ以外のことも天性のものを持っている方だと感じました。
ー 今回の号では動画やウェブでの展開に力を入れているとのこと。これからはどのような誌面が見られるのでしょうか。こちらも楽しみです。
吉岡:前述した通りウェブの利点を生かした見せ方も取り入れていて、紙だけでは伝えられない部分を補う役割を持たせています。動画ではドローンも使って、素材やカッティング、ディテールの繊細さ、コーディネートが持つ空気感などを表現しています。また、今回のように「フイナム」さんに取り上げていただくことも新しい取り組みのひとつです。いろんな方にリーチして「伊勢丹って、こういうこともやってるんだ」と新鮮に感じていただければ嬉しいですね。