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FEATURE
時代は健康なのか。6人のクリエイティブを支える健康白書。
What the Health?

時代は健康なのか。6人のクリエイティブを支える健康白書。

猛威を振るうコロナウイルスをまえに、自粛の日々がつづいています。それに伴い、さまざまなものに対する考え方を見直す機会も増え、とくに健康に対する意識はそのアップデートが必要不可欠となりました。幕を開けたばかりのニューノーマル時代ですが、その変化をいち早く察知し、順応しようと先鞭をつけるクリエイターたちがいます。彼ら彼女らは何を考え、どう行動したのか、そしてそれぞれのものづくりにどんな影響を及ぼしたのでしょうか。それを知るべく、今年1月、6人のクリエイターにインタビューを敢行しました。前半は、窪塚洋介さん、塩塚モエカさん、ハイロックさんの3人が登場です。(3月24日発売の雑誌『フイナム アンプラグド Vol.12』より抜粋)

  • Text_Taiyo Nagashima(窪塚洋介、塩塚モエカ)、Shogo Komatsu(ハイロック)
  • Illustration_Yoshimi Hatori

No.2 塩塚モエカ

PROFILE

羊文学でボーカル/ギターを務めるほか、ソロでも活動。瑞々しくも儚い音楽を届け、若者の支持を集めている。ファッション・カルチャーシーンなど、音楽以外の多方面からも注目を集め活動の枠をひろげている。
Instagram:@hiz_s

これまでの生活にはなかった、自分自身を見つめ直す時間。

2020年12月。3ピースバンド・羊文学のオフィシャルサイトで「塩塚モエカが新型コロナウイルスに感染した」という発表があった。ほぼ無症状で、すでに回復していると記載されていたが、メジャーデビューアルバム『POWERS』のリリースのタイミングと重なったコロナ体験を、塩塚さん自身はどう感じたのだろう。

「正直言って体調はほとんど変わらなくて。ただ、あるとき味覚がおかしいことに気づいて、もしかしたら? とPCR検査を受けたら陽性でした。もう、とにかく『どうしよう』って思いましたね 。翌日の仕事のこととか昨日会ったひとのこととかを考えて、自分の管理の甘さを悔やみました」

どれだけ感染対策をしていたとしても、普通に社会生活を行っている以上、感染リスクはゼロにはならない。それでもやはり自分を責める気持ちが最初に芽生えたと塩塚さんは言う。感染することがまるで罪を背負っているように感じられる、その精神的な負荷は、新型コロナウイルスが社会心理にもたらした症状のひとつと言える。

「変な話かもしれないんですけど、『仕事をせずに家にいてください』って言われて、ちょっと楽になったんです。体調そのものよりも『自分はコロナなのか?』という不安な精神状態が苦しくて。もちろんこれは自分の症状がすごく軽かったから言えることなんですけどね」

個人差が大きいことはこのウイルスの特徴。幸いにも症状がほとんどなかったからこそ、療養中に塩塚さんはいくつかのポジティブな気づきを得た。

「メンバーも、事務所のみんなも、ファンの方も、自分のことより先にわたしの心配をしてくれて、ひとの優しさにたくさん触れることができました。分かる範囲だけですが、うつしてしまったひとがいなかったことにもほっとしましたね。あと、とにかく家から出られないから、初めてネットフリックスのドラマシリーズを通して観て、『こんな時間の使い方がこの世に存在したのか!』とはっとしました(笑)。音楽の勉強をしたり、本を読んだり、ヨガをやったり…。ここ最近の自分の生活のなかには存在しなかった時間の使い方ができたんです」

自分の音楽がだれかの健康のためや逃げ場になってほしい。

コロナにかかったことをきっかけに生活を見つめ、そのいびつさをあらためて再確認したと塩塚さんは言う。その背景には、加速しつづける情報社会がある。

「わたしはずっとスマホ中毒というか、中学生のときも携帯を手放せなかったんです。つねにいろんな情報が頭に流れ込んでくるというか、頭のなかでひとりごとが絶えなかったり、『次はどうする?』って考えつづけてしまうんです。感情とか、やりたいこととか、考えごとが絶えず行ったり来たりしている。ワーカホリックっていうのかな。仕事だけじゃなく、どうやって生きていくかみたいなことも含めて、つねにたくさんの選択肢を追いかけてしまって、それを効率よくどんどん進められるわけでもなくて、いつも迷ってしまうんです。占星術の占い師の方に見てもらった時、『葛藤の星の位置に生まれてますね』って言われたんですけど、まさにそうだなって…(笑)。この状態をずっとつづければ、精神的なバランスが悪くなりそうだって、コロナになって気付きました」

葛藤の星。それは塩塚さんの心の核のようなものなのかもしれない。葛藤の矛先は、自身の内側だけにとどまらず、社会へと向けられていく。

「大それたことを言いたいわけではないんですけど、社会に問題がたくさんあって、どうしたらいいかな? みたいな気持ちになるんですよね。たとえばトランプ前大統領に対しても、さまざまな考え方とかひとそれぞれの事実がある。国際的な事情、個人の思いなんかまで含めると本当に複雑で。自分が見ていることだけが事実じゃないって思うんです。そういうことを考えるうちに、どこに希望を持つべきなんだろう? わたしが歌うことには意味があるんだろうか? と思い悩むようになって」

悲観的にも思える考えを、彼女はあくまで軽快に言葉にしていく。葛藤の振り子のなかで揺れ動く体は、あるいは何かを生み出しつづける原動力と表裏一体なのかもしれない。

「わたしはストレスに弱くて、だからこそ音楽をやっているんだろう、とも思いますね。思ったことを声にできるのがいいのかもしれません。単純に歌うことが好きなのかも。自分の音楽を通して、だれかが精神的に健康になってくれたらいいし、ただポジティブな考えを押し付けるのではなくて、葛藤していてもいいし、暗くてもいいし、難しいことを言わなくてもいいのかな、と感じてもらえるとうれしいです。同じようなことで悩んでいるひとがいるんだな〜とか、逃げ場のように受け取ってもらってもいいんじゃないですかね」

悩みや葛藤との上手な付き合い方は、複雑な社会を健康に生き抜くために必要不可欠なサバイバルスキルだ。表現することは健康的な心身をつくる、ひとつの近道なのかもしれない。

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