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足るを知るキャンプ場、水源の森 キャンプ・ランドのすべて。
HOLIDAY IN THE MOUNTAIN.

足るを知るキャンプ場、水源の森 キャンプ・ランドのすべて。

日本一のキャンプ場密集地帯と言われる山梨県の道志村。ここに新たなキャンプ施設が誕生しました。その名も「水源の森 キャンプ・ランド」。総合ディレクションを手がけたのはご存知、〈マウンテンリサーチ(Mountain Research)〉の小林節正さんです。「何を持っていくかより何を持っていかないかを考える場所」というコンセプトは、小林さんが求めるキャンプ場の在り方を表現する言葉。では一体、その理想はどんなところにあるのか? 施設を案内してもらいながら、その想いを語ってもらいました。

  • Photo_Fumihiko Ikemoto
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Yosuke Ishii

具体的な場所の設定をファッションの文脈に盛り込みたかった。

ー 先ほど、話が巡り巡ってきて、小林さんがプロデュースをする形で「水源の森 キャンプ・ランド」はスタートしたとお話しされていました。

小林:とある人がここをキャンプ場として運営したいということだったんですけど、実際どうすればいいかわからないということで、知り合いの建材屋さんに相談したそうなんです。でも彼はキャンプ場のことをそこまで知っているわけじゃないから、ぼくの友人に話を振ったら、今度はその彼がぼくに相談してきてくれたという経緯ですね。

ー 小林さんは「CAMP CREW」という会社を、そのご友人たちと3人で立ち上げたんですよね。

小林:そうです。厳密にいうとこのキャンプ場は自治体の持ち物になっていて、それをぼくらの会社が借りてディレクションしているというような構図ですね。

ー 小林さんご自身は、この道志村に由縁があったり、キャンプで来られたりしたことはあるんですか?

小林:〈マウンテンリサーチ〉をはじめる前、カメラマンの安部英知さんに誘われて、元来彼が夢中になっているモダンなキャンプ道具を一切合切持って、この近くのキャンプ場まで足繁く通っていたことがあります。安部ちゃんのおかげでキャンプ道具のことを少しずつ知りはじめることができたんですね。要はぼくのキャンプデビューの場所がここの土地。

ー これまでにいろんな場所でキャンプされてきたと思うんですが、この場所にはどんな印象をお持ちですか?

小林:空抜けが悪い(笑)。あとは谷底に川が流れているのが印象的。高原のようにスパッと景色が抜けているというよりも、木々がこんもりこもっているという感じですね。

ー ある意味では自然が豊かというか。

小林:川が近くて立木が日光を遮っている場所だから涼しいわけです。東京からちょっとクルマを走らせれば簡単にこられる立地というのがこれまた最高にいいですよね。ここら辺はキャンプ場銀座と呼ばれるくらい数多くのキャンプ場もあるわけだしね。

ー プロジェクトがスタートして、ここを視察に来られたと思うんですが、そのときに頭の中でアイデアは生まれたんですか?

小林:ぼくらがここを手入れする前は休眠? 放置? 状態の元オートキャンプ場だったんだけど、まず真っ先に思い描いたのはオートキャンプ場にするのはやめようと。

道志は釣りをやる人も多いから、川辺までクルマで行っちゃう人も多いんです。その結果、この辺りはオートキャンプ場がほとんど。この場所がそれ前提のところだとしたら、そうじゃないものをつくりたかった。

だけど、キャンプ場やりませんか? って言われていざここへ来ると、ぶっちゃけクルマがないと大変だなって思ったんですよ(笑)。わかっちゃいたけど(笑)、でも、なんとかクルマなしでそれを成立させたかったんです。

ー 利用者は駐車場にクルマを駐めて、一輪車や電動バギーを利用してキャンプサイトまで荷物を運ぶ仕組みになっていますね。

小林:個人的に好きじゃないんです、クルマの横でキャンプするの。クルマが好きな人たちはオートキャンプ場を利用したらいいと思うんですけど、そうじゃない人たちも世の中にはいるはずだから。手段がどうであれ、一度キャンプに来たら、誰だってテントに寝るのがキャンプってものでしょ。そのすぐ横に、言い方が極端かもしれないけど、ステータスの塊みたいなクルマがあるのって、いまひとつピンと来なくてね、気持ち的にも絵面的にも(笑)。その手のものが目に入らない場所で、隣の人にすこしだけ気を使いながらキャンプをするってのはぼくなりのちょっとしたおこだわり? (笑)、流儀なんです。

だけど、これについては周りの人にはすごく文句を言われて、ここの運営会社を一緒にやってるふたりですら「オートキャンプ場」の方がいいんじゃないかって(笑)。よくよく考えてみれば、キャンプサイトにはクルマがすぐ傍に置いてあるのがじつは当たり前だったりするんだよね。だから尚更そうじゃないことをしたくなっちゃった(笑)

小林:いまのオートキャンプ場でなにが起こっているかというと…山のような道具を持ってきてそれを降ろして設営して、セッティングが終わったら記念撮影して、落ち着いたと思ったら朝が来てあくせく撤収して、帰りには渋滞に巻き込まれたりして、やっとの思いで家に着いたと思えば、今度は道具の手入れをしなければならない。そんなことばかりしてたら疲れちゃうだけだし飽きちゃうでしょ。だからもっと安易に、大変な思いをしていろんな荷物を持っていかないでも済むところがあれば、って考えたんですよ。ちゃちゃっと来て、ちゃちゃっと帰る。たまにはそんなのもよくない? ベランダキャンプの延長でやれるようなところ。そういうのをイメージしたんです。

ベランダキャンプって、なにを用意するでもなく思い立ったら、さっさとテント立てちゃったりして、水とか食い物とかグッズをいちいち家の中に取りにいくじゃないですか。あの感じにしたかった。ここの場合は家じゃなくて、このクラブハウスを使ってくれればいいやっていう。だからフードやグッズレンタルを充実させたんです。

ー そもそもキャンプは、山登りをしたりなど、アウトドアアクティビティを楽しむためのサブアクティビティだったわけですよね。でも、いまはキャンプ自体がメインのアクティビティとして浸透している感覚があります。

小林:ソローというぼくの好きな作家がいるんですけど、彼がずっと言い続けていたのは、構造としてなるべくシンプルにするということなんです。自分の行動もそうだし、持ち物もそう。複雑はできるだけ避ける。キャンプにいろんなものを持ってきて展示するのもおもしろいんだけど、シンプルに過ごすというところにいま一度立ち戻りたかった。

だからこのキャンプ場のスローガンも「何を持っていくかより何を持っていかないかを考える場所」としたんです。いろいろ持ってくることへの防御になるし、いつものスタイルがある人なら、持っていかないものを考えるいい機会にもなる。現場でいかにシンプルに過ごせるかを考えるというか…そんな感じの思考の転換があってもおもしろいんじゃないかと思うんですよ。

何を持っていかないかを考えるっていうのは、作家の田渕義雄さんがバックパキングの本の中で書いていた言葉で、ぼくにもそれをよく言ってくれていました。持っていくものを考えると、「延々とはじまっちゃうでしょ」って。それはギア好きならではの話で、ぼくだってもれなくそうなんだけど(笑)。でも、今日はこれを持っていかないっていうのを考えたほうがラクじゃないですか。田渕さんのカウンター的な考え方は、断捨離をやっている都心での生活にも当てはまる。なんかいい言葉だなと思ったんです。

ー 小林さんは長野の川上村でご自身のキャンピングベースを開拓してこられました。そうした経験はここで活かされていますか?

小林:そうですね。長野へ行ってああいう山暮らしや山仕事を15年近くやってきた中で得られたアイデアやスタイルくらいしか、ぼくには確実なものがないもの。やってておもしろかったことは取り入れてあるし、あぶなかったことや怖い思いをしたことは極力排除してっていう、そんな要素はいっさいがっさいこの場所に盛り込まれています。

原則として山で実験したことしかここではやってません。たとえばボルダリングとか、自分で炉を組んでやる焚き火とか。焚き火台でやる焚き火もいいんだけど、そこから石を集めてきて自分で炉を組むのもおもしろいんですよ。平べったい芝生の上でテントを張ると、中で寝るとき気持ちいいっていうのもそう。全部山で体験したことをここで実践しているんです。それをおもしろがってもらえたら嬉しいな。さっき言ったように、ベランダキャンプの延長でそういうことができるようになっているといいなって。

ー いままで服やギアを通してアウトドアの魅力を伝えてこられたと思うんですが、こうした“場所”をつくって一般に提供するのははじめてですか?

小林:ファッションには曖昧な場所の設定しかないですよね。例えばですけど、なんとなく都会の服とか、なんとなく旅の服とか。〈マウンテンリサーチ〉をはじめたときに、そうした“なんとなく”じゃなくて、はっきり日本の山に向けてやりたかった。自分が長野の川上村に土地を見つけてデッキをつくったりしたのは、要するに具体的な場所の設定をファッションの文脈に盛り込みたかったからなんです。ここもそんな感じ。自分たちがアウトプットするファッションに具体的な“場所”っていうものを盛り込むことが自分たちの存在理由だし、おもしろく思えるところです。言っても、ファッションという行為が好きなことに変わりはないわけだしね(笑)

ー 小林さんにとってこの施設は、あくまでファッションの延長であると。

小林:そうですよ。ナカメの川沿いで店をはじめたのと同じ気持ち、プレゼンテーションする場として今度は店を作るっていう。あのとき目黒川沿いに洋服屋なんて一軒もなかったけど、ここも一緒で、道志川のほとりで店をやりたかっただけなんです、川沿いってのも一緒だね(笑)

ー ファッションという言葉はいま、スタイルという言葉に変わりつつあります。表層ではなく様式を提示したいというブランドが増えているように思うんです。だけど、それを実現できているブランドは残念ながら多くない。そうした時代でありながらも、小林さんはあくまで“ファッション”を貫いていますよね。

小林:それはもう絶対に揺るがないですね。だって、それが好きでやってるから。だからヴィヴィアンのサル真似をしたりもしているわけで(笑)。もちろん、その真髄もごっそり理解した上で、です。批判もあるだろうけど、自分が好きなものであることには変わりはないですから。

ー 15年近く長野で開拓してきて、いまだに開拓中という感覚があると思うんですが、この場所もそれと同じように実験場所として機能させたいですか?

小林:最初に話したようにいまは人の場所を借りながらやっているわけだけど、少しづつ侵食して、最終的には完全に自分たちの景色にしたい。時間はかかると思いますよ。服は半年に一回のスパンでいいけど、こういう場所に関しては変えても落ち着くまでに最低でも1、2年はかかるから。それは山で実感したことだし、ゆっくり考えていこうと思ってます。

だけど、馴染ませるのはぼくらじゃなくて足を運んでくれるお客さんたち。地面が掘られたり、岩が削られたり、キャビンもボロくなってきた頃にようやく馴染んできたなっていう絵になるわけですよね。その馴染み方がすごく大事で、誰が来てどう使っていったかってことが重要なんですよ。

ある種、オートキャンプ場にしなかったのもそういう側面からの考えもあって、クルマを横付けにして楽チンと思う人に対してフィルターをかけているんです。多少面倒くさい思いをしながらもキャンプを楽しめる人じゃないと、ここは居心地がいい場所じゃないはずだから。そういうことをしておかないと、自分たちのクオリティを担保できないっていうのかな。さっきから言ってる道具をたくさん持ってこないという話も、ひとりふたりで来て、「やたら荷物が少なくて平気かな?」って思いながらひっそり過ごす機会を大事にしてもらえたらいいなって。そうした自分の考えが思い通りにいけば、2、3年後はいい感じになっているはずです。

ー 盛り込みたいことがたくさんあったと思うんですが、まだ余白はありますか?

小林:ありますよ、目下サウナはリサーチ中。サウナの後に川に飛び込むっていうのは、長野ではできなかったことだから(笑)。とにかく気持ちよく過ごして欲しいから、そうしたアイデアが生まれるたびに放り込んでいけたらいいといまは思っています。

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INFORMATION

水源の森 キャンプ・ランド

住所:山梨県南都留郡道志村馬場5821-2
電話;070-2673-1122
料金:
テントサイト / 1万6,500円、ソロ使用時 8,800円
キャビン/¥1万3,200円、ソロ使用時¥8,800円
Instagram:@campcrew_official
https://doshisuigen-mori.com/#/        

【HOUYHNHNM YouTube】水源の森キャンプ・ランド潜入レポート。マウンテンリサーチ小林さんにもお話を伺いました。

水源の森 キャンプ・ランド

住所:山梨県南都留郡道志村馬場5821-2
電話;070-2673-1122
料金:
テントサイト / 1万6,500円、ソロ使用時 8,800円
キャビン/¥1万3,200円、ソロ使用時¥8,800円
Instagram:@campcrew_official
https://doshisuigen-mori.com/#/         

【HOUYHNHNM YouTube】水源の森キャンプ・ランド潜入レポート。マウンテンリサーチ小林さんにもお話を伺いました。

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