Dさんで始まり、Dさんで終わる。この曲はもはやMummy-D feat.Nulbarichと言っても過言ではないくらい。

ー 制作に関してはどのように進めていったんですか。
JQ: 通常はビートの制作からというのが多いのですが、『Be Alright』の場合は、曲のイメージが、一緒にご飯を食べてお酒を交わした時にもう二人の中で何となく膨らんで出来上がっていたので、それをあとはどう仕上げていくかの作業でした。まずテーマをDさんに投げると同時に骨組みをお渡しして、キックしてもらってそれで歌詞を書いてもらって…。
ー 先程の話にもありましたが、コラボレーションでもオンラインでの制作が普通なんですか?
D: いまは多いんじゃないかなぁ。コロナは別にしてメールでやりとりできるようになってから、コラボしても会わずに終わるってパターンがマジ増えたよ。昔は絶対にスタジオに行かないと録れなかったんだけどね。だからこそ今回は、最初に会って飲みに行って、色々と話しておいて良かったなって。JQは俺のことを歌っている曲だと思っているけど、俺はJQのことも曲に入れているんだよね。本当にヒップホップが好きで、でもヒップホップをやっていない男が、いままでどういう影響を受けてきて、いまどのようにシーンを見つめているのか。そういう“ちょっと外側から見ている人の想い”も入れたいなと思って。

JQ: とにかくスゴイんですよ、リリックが! 特にファッションや音楽をやっている人って労働と対価が割に合わないことも多いじゃないですか。カメラマンやスタイリストの方は、いわゆる修行時代があるし、ミュージシャンにも売れない時代があったりして。そういった人生の下積み時代を送っている夢追い人には、ジャンルが違っても絶対に刺さるんです。街を歩きながらこの曲を聴くとなんかイケる気がする。「未だ踏んでないFRESHなRHYME探してる」っていうリリックが最後にあるんですけど、もうコレですよ! コレコレコレ!って(笑)
D: 最初に渡した時にすごく喜んでくれて、「あぁ良かったなぁ」と思ったんだけど、こっちは本当に大変で。だってコード進行も入っていなければ、ただAメロのワンループだけで歌も入ってない。この状態から俺1人で始めるんですか!? みたいな(苦笑)
JQ: 客演の場合、通常は歌が入った状態で、空いてる部分を埋めてくださいと依頼するんですが、どうしてもDさんの曲にしたかったので、ぼくの声がどう入ってくるかを想像せず、自由に歌詞を書いてもらいたかったという思いがありまして…。

D: なんかイイ話みたいに言ってるけどさ、無責任なんだよね(笑)。プロデューサー体質と言ったように、俺も最後まで仕上げなくちゃ気が済まないタイプ。だからこのワンループで何とか仕上げなきゃ!って頑張ったよ。「でもちょっと待って、これってfeat.だよね!?」って疑問に思いながらも(笑)。どうなるか分からないサビの部分は空けつつ、とりあえずバースを書いて渡したら気にいってくれて。そうしたら、曲サビのコードを変えるって言ってきたらから、だよねって(笑)。だって、いつものNulbarichなら、Aメロ→Bメロ→Cメロにアンサンブルも超オシャレに決まっているのに、なんで今回だけすげえシンプルな骨太ビートなの? おかしくない? って思うじゃん。それが戻ってきたら、サビの素晴らしいコード進行に歌も入っていて、ビートも全く違う場面が広がっていてさ。それを聴いて思わず、「カッケー! Nulbarichになったよ!」って。あれはちょっとサスガだなと思いましたね。それまでは若干、不安だったけど(笑)
JQ: 日本だとサビを重要視されますが、ブラックミュージックはフックなので、サビはバースを補助するとかブレイクとしての立ち位置なんですよね。普段だったらサビを作ってからメロを作ったり、逆にメロの延長としてサビを作ったりするんですが、ぼくがDさんのラップパートのコンセプトを決めるっていうのはおかしいじゃないですか。Dさんの言葉なので、なるべく情報を減らした状態で取り掛かっていただきたいなと思ったら、正直困るだろうなとは思いつつも、ただのワンループを5分ぐらい渡すだけの形になってしまいまして…。
D: ホント悪いやつですよ。
JQ: (笑)。でも本当にイイ曲に仕上がりましたよ。それこそRHYMESTERの『リスペクト』を最初に聴いた時以来の衝撃を受けました! Dさんで始まり、Dさんで終わる。この曲はもはやMummy-D feat.Nulbarichと言っても過言ではないくらい。Dさんがラップと出会ってRHYMESTERを結成し、いまに至るまでの生き様と想い。それを知るだけでも沢山の子達に夢を与えるんじゃないかと。

ー Dさんご自身も「間違いなく5本の指に入る名作」とコメントされています。
D: 俺って“椎名林檎からしまじろうまで”、多分日本で1番feat.されているラッパーだと思うんだよ。その中で好きな曲も沢山あるんだけど、本当にマジックが起きる確率的はかなり低くって。今回は最初が不安だったっていうのもあるけど、それをポンと飛び越えてきたから「やられた!」って。Cメロをつけてきた時に、これはただの歌ではなく語りでちょっと横の方から聴こえてきたら、このリリックの世界観がぐっと広がるかなと思って試してみたんだよね。そうしたら、JQが自分のボーカルを引っ込めて俺をメインにしていて。あんまり自分のボーカルを引っ込めるシンガーっていないんだけど、そのジャッジが出来るというのがJQのプロデューサー体質なところ。自分の声さえも楽器の1つだと思っているっていうことだよね。
ー ラストに向かっての展開が、まるで映画のワンシーンみたいでメチャクチャ格好良かったです。
D: シアトリカルな演出が曲に深みが与えるし、場面展開も出来てイイよね。それで「バーみたいな雰囲気になったし、ガヤとかも入れたらいいんじゃない?」って返したら、「ちょうど入れようと思っていました」って(笑)。お互い目指すゴールが見えているから、とにかく話が早い! そういうマジックが起こったということがすごく嬉しかったので、これはなかなかないぞと。俺もこういうことはなかなか言わないんだけど、自分が関わってきたコラボの中で、確実に5本の指に入る大好きな曲になったんじゃないかな。色んなコラボの仕事も入ってくるし、RHYMESTERでも自分がやっているプロジェクトでも常に作詞しているけど、なかなかこういった幸運には恵まれない。最近あった1番幸せな出来事だったね。
JQ: こんなこと言われたらシビれちゃいますよね。今日は絶対、いまの言葉を肴にして朝まで飲みたいと思います!(笑)。でも冗談ではなく、本当に色んな人たちに聴いてもらいたいですね。日本語詞なので世界観がスッと入ってきますし、自分で言うのもなんですが、サウンドや展開など全体のコンポーズ感は洋楽にも負けないモノになっていて、街で聴いても全然ダサくない。聴く側が自分自身にリンクさせつつ“このまま進んでいてイイんだ!”と背中を押してくれる。そんな曲になっているので。

ー お二人の共通点として“プロデューサー体質”というワードが出ていますが、それぞれがプロデューサーの立場から意識していることや、コダワリとして持っている部分を教えてください。
JQ: 何でも気になっちゃうので、全部自分で把握しておきたいっていうのは大前提としてありますね。そして最終的にどういう効果が得られるかをゴールとして捉え、とりあえずアイデアを出す。そして絶対に妥協はしない。予算がないから出来ないではなく、じゃあ予算がない中で今あるカードを使ってどう戦うか、それは常に考えています。なので、今日みたいな撮影でも本当はずっと変顔していたいんです。
D: なんだよソレ、急に何の話?(笑)
JQ: 例えばですよ、Dさんと格好良さで勝負をするとなったら、絶対に敵わないじゃないですか。でも“変顔だけど、なんかオシャレな雰囲気がある”となれば、そこに勝機を見出せる可能性もあって。これだけはブレないという部分を決めて、それを貫き通しつつ自分というジャンルで勝負する。ヒップホップ界にぼくがいない理由っていうのがソコだと思うんです。外の世界からアプローチすれば、ヒップホップシーンにもNulbarichを知ってもらうチャンスがあるっていう。なので目標の立て方は人とちょっと異なるのかもしれませんが、プロデューサー体質かと問われたら、またちょっと違うのかも。

Mummy-D / 〈Children of the discordance〉バンダナキルティングジャケット¥264,000、バンダナキルティングパンツ¥165,000、〈Kazuki Nagayama〉Tシャツ¥14,300(STUDIO FABWORK / 03-6438-9575)、〈NEONSIGN〉ローファー ¥57,200(NEONSIGN / 03-6447-0709) JQ / すべてスタイリスト私物
ー しかしながら、俯瞰して自分の立ち位置が見えていて、かつ最高という目標を掲げつつ最適を目指せるのは、プロデューサー体質だからじゃないかなと。
D: だね。俺もコラボしてすごいプロデューサー体質の人だなぁって思ったよ。だからこういうスタイルでNulbarichをやっているというのも腑に落ちたし。感覚だけではなく、かといって論理的なだけでもなく、色んなモノが聞こえていて見えていている。だからコレはこの人に任せるという判断も出来る。プレイヤーって、歌ったり演奏は出来ても曲が作れなかったりするんだけど、それをまとめられる才能がある人だなっていうのは、今回すごく感じたかな。
ー Dさんはプロデューサーとして意識している部分ってありますか?
D: 最近分かったんだけどね、結局は“面白いかどうか”に尽きるって。格好イイとか美しいとかセンスが良いとか、芸術作品を評価する言葉は色々あるけれど、俺は”面白いか、面白くないか”っていうのを1番大事にしているかな。格好イイんだけどツルツルしていて、何も引っかかってこないモノってあるじゃん。それは音楽や映画だけでなく洋服だってそうだし、創作表現の全てに言えて、「ここが面白いんだよ」って部分がハッキリしているかどうか。これはファニーという意味ではなく、“何かが際立っている”って意味。相当の覚悟と勇気を持ってハミ出さないと、モノと情報に溢れている今の時代では埋もれちゃうし難しい。この『Be Alright』もそのままキレイに終わってもよかったけど、最後に「そんなことする!?」っていう展開に持っていったことによって、みんな面白いって引っかかってくれている。そのままでも良いモノを面白くする、それってサービス精神だと思うんだよね。
ー ますます有観客でのライブで、お二人が歌う『Be Alright feat. Mummy-D』が早く聴きたくなってきました。
JQ: そうですね。何をどうやっても格好イイ曲なので、聴いた人は全員刺さる自信があるので、生きているうちはなるべく多くの人に届くように、出来るだけ多く演りたいですね。