さり気ない一手で大きな効果を得ている。
ー 今回、5月15日の「Grey Day」にちなんで、定番モデルである「574」をフィーチャーし、さらにはそこに新しい解釈を加えたモデル「57/40(フィフティセブン/フォティ)」が同日に発売されました。栗野さんは「574」に対して、どんな印象をお持ちですか?

左から、〈New Balance〉「57/40 TA」¥16,500(tax in),「ML574 EGG」 ¥10,890(tax in)
栗野: グレーではなくて他の色でしたら、3色くらい持っています。ぼくがスーツに合わせるためにはじめて買った「576」もこれと似たデザインでした。シンプルで、無理にいじらないという潔さを感じます。
ー こちらの「57/40」に関してはいかがでしょうか?
栗野: こちらはですねこういう掟破りもあるんだ! と思いました。ここ5年ほど、ファッションはロゴの時代でしたよね。何にでもロゴが入っている。良くも悪くも、わかりやすくて簡単になります。ぼく個人の好みでいうと、ロゴはあまり好みではないんです。だからロゴ入りのモノは〈ニューバランス〉か〈ラコステ〉くらいしか持ってない。

栗野: それでこの「57/40」です。この大きな「N」は、あまりにも大きすぎるから、逆にデザインの中に溶け込んでしまってロゴだと一瞬気づかなかったんですよ。これはすごいと思いました。かなり知的な遊びで、賢いなあと膝を打ちました。次はこれを履きたいと思っています。
ー 〈ニューバランス〉のグレーは、一足のなかにたくさんのグレーが混ざってグラデーションになっているのも魅力だと思いますが、これもまさにそんな一足です。
栗野: ヌバックがあって、リフレクターがあって、スエードもある。パーツはザッとみても9か10種類くらい使われているのかな? このシンプルな一足のなかにたくさんの知恵が入っていますよね。

ー だけど、どのパーツも必然的に組み合わされているように感じるというか、すごくさり気ないデザインですよね。
栗野: アンデザインという考え方があって、ティボール・カルマンというグラフィックデザイナーが得意としていた手法です。彼は『(un)Fashion』という本を出していて、つまりはファッションしないっていうことなんですけど。その本はすべてストックフォトなど、有りものの写真で構成されているのですが、ページの作り方で意味を生み出していて、見開きの左右でユニークな想像が膨らむ内容になっているんです。彼はニューヨークのレストランのメニュー表も手がけているんですが、それも辞書に出てくるイラストを使って、上手にブラッシュアップしてつくっている。どちらも非常に洒落た仕上がりなんです。つまり、さり気ない一手で大きな効果を得ているわけです。〈ニューバランス〉も同様で、これみよがしにシャウトするよりも、よっぽど心に響くやり方を取っている。それがぼくがこのブランドを好きな理由なんです。
ー きちんと主張はあるけれど、それが控えめということですね。
栗野: そうですね。一見すると主張していないんだけど、ちゃんと主張があるということ。