人の温度を感じるスタイリングにしたい。
この日の撮影場所である都内スタジオに到着した「カングー」。クルマを停め、素早く搬入をします。


「『カングー』って荷物の出し入れもすごくしやすいですね。職業柄、どうしても持ち上げる作業が多くなってしまうんですが、それがしやすい高さに設計されているというか。だから荷物を積んだときもそうだったけど、スタジオに着いて搬入するときもスムーズなのはうれしいですね」

搬入完了後、まずは編集やカメラマンと撮影の段取りを相談してからスタイリングへと取り掛かります。
「学生の頃からテレビや雑誌の企画を見ていてインテリアに興味があったんです。そうしたものを参考にしながら自分の部屋を模様替えしたりしていて。大学生の頃にとあるインテリアショップに行ったんですけど、そこで配られていた冊子のスタイリングがとにかくかっこよくて、よく見たら“インテリアスタイリスト”というクレジットを見つけたんですよ。それで『こういう仕事もあるんだ』と思ったのと同時に『これを仕事にしたい』という気持ちも芽生えて、大学卒業後にインテリアの専門学校に通うことにしたんです」


その専門学校で特別講師として教壇に立っていたのが、のちに遠藤さんの師匠となる窪川勝哉さんでした。在学中にアシスタントとなり、そのまま6年間働いたあと、晴れて独立。デビュー後は雑誌、ウェブ、広告など、さまざまな媒体でその実力を発揮しています。
「空間をカッコよく創り上げるのはもちろんなんですが、ぼくはそこに人の影をプラスしたいと思っています。たとえばひとつの部屋を写真で切り取ったときに、そこにモデルさんは写ってないんですけど、ちゃんと生活感を感じるスタイリングになるように意識しているんです。読者の方々がその写真を見たときに、人の温度を感じるものにしたい。ここ数年、そうしたスタイリングを求めてぼくに依頼をくださる方々が増えてきました」


そんな遠藤さんのクリエイションの中で重要な着想点となるのが「その部屋で生活をするのがどんな人物像なのか考えること」であると続けます。
「クライアントから細かなオーダーがあった際はそれに応えられるように表現するんですが、“北欧”や“インダストリアル”、“イタリアモダン”などの簡単なキーワードのみで、あとは自由に膨らましていい場合、『ここに住む人ならどういう生活をするのかな?』って考えるんです。旅行好きとか、アウトドア派じゃなくてインンドア派とか、イメージをしながらどんどんその人物像を紐解いていって、そうした要素を小物などで表現するようにしています。そうした細かな部分を蓄積していって部屋に生活感を生んでいます。そのポイントを読者の方々や撮影で周りにいる人たちが気づいてくれたときはうれしいですね」




この日のスタイリングも無事に完了。テーブルやソファなどは都会的なモダンさを感じさせますが、マウンテンブーツを鉢植えにしたり、シロクマのクッションが部屋にあったり、セージのお香やアウトドア用のライトをテーブルに置くなど、この部屋に住む自然好きであろう人物の趣味趣向がうかがえる空間になっています。
「たくさんの植物がある部屋だったので、室内だけど自然を感じられる空間にしました。むかし、雑誌で100円ショップのアイテムを使っておしゃれなインテリアをつくる企画とかをたくさんやったりとか、うちの師匠とインテリアショップへ行くと『このアイテムはこれに使えるな』とか大喜利みたいなことがはじまるんですよ。それでひとつのアイテムを本来の用途とは違う使い方に転換する技術がすごく養われました。マウンテンブーツなんかはまさにその技法ですね」
