「『これがドッグスなんだよ、ほらね!』っていう気持ちです」(落合)

気になるその中身はというと、普段王子のショップでも扱っているオリジナルアイテムをはじめ、〈ファセッタズム〉とのコラボレーションによるキャップやTシャツなど、エクスクルーシブなものばかり。
しかし、中でもひときわ目を引くのが、中央に展示された大きな車だ。実車がこの空間にあるだけでも驚きだが、さらにそれが見たこともないような1台なのだから、来場者が受ける衝撃は想像に難くない。


これはKOHHさんの楽曲『Mitsuoka』の由来にもなっている光岡自動車の希少車、「ラ・セード」。実際に彼が愛用していたものを基に、エクステリアやシート周りなどを「ドッグス」の視点でアップデートしたカスタムモデルで、もちろん販売されている。ファッショニスタがひしめく都心にあっても、彼らの自由度とエネルギーは健在だ。
なんでも、「ドッグス」へのオファーにあたり、落合さんは内容にほとんど口を出さなかったという。その理由はこうだ。

「ドッグスってその瞬間、瞬間が大事なクルーで、他人の言葉は必要ないなと思ったんです。だから、このポップアップにはファセッタズムの色は1ミリも入ってないですね。…いや、1ミリくらいは入ってるかな?(笑)」


「(笑)。さすがに車が入れられるかどうかはちゃんと確認しましたよね」とSUZUさん。こうやって、「ドッグス」の面々と落合さんが談笑する光景はきっといつも通りのことなのだろう。
「ドッグス」の近況はと言えば、特に顕著なのがずっと続けていたWEBショップを廃止したこと。多くの小売店がコロナ禍でオンラインに望みを託していることを思うと、英断と言うよりも異様なアクションという形容の方がしっくり来る。だが、実際にそれ以降、売り上げや来客数は以前の倍をはるかに超えるものとなったそうだ。

「そもそも人がそうそう来ないであろう王子にたくさんの人がわざわざ足を運んで、やらなきゃいけないはずのECも止めちゃって、でも本人たちがそれを楽しんでるっていう。その全部が好きだし、そのムーブメントを近くで見せてもらえたのは本当に嬉しいなと思ってます。これが格好いいんだよ、っていうのをみんなに見せたいっていう気持ちが、友達としても、同じファッションの仲間としてもありましたね」
落合さんのそうした想いが伝わったかどうかは、初日から100人規模の並びが出たことを考えれば明らかだ。それでもCOZAさんは「やってる感覚は青山でも王子でも別に変わらないですよ。ここら辺に来たら、絶対またここに寄るだろうなとは思ってますけど。溜まり場にさせてください(笑)」と至ってマイペースだ。


蓋を開けてみれば件の「ラ・セード」もオープン初日に売れてしまったというから、彼らと、それを取り巻くヘッズたちのエネルギーには驚かされる。
「買ってくれたのは、いつもドッグスに来てくれる人なんですよ。4人組で、『これ乗ってみんなで旅行行こうぜ!』みたいな。超ポジティブっすよね」とJELLYさん。

「僕自身は『これがドッグスなんだよ、ほらね!』っていう気持ちです。お願いした手前、盛り上がって欲しいなとは思ってましたけど、やっぱりそうなったか、って」と落合さんの顔もほころぶ。
人々が実社会での接触に消極的にならざるを得なくなり、人がひしめくフロアの熱狂にも、路上で自由にハングアウトする人たちの姿にも、出会う機会はめっきり減ってしまった。新たなカルチャーやムーブメントが生まれにくい時代にあって、ここには確かにその源流たる熱量が集まっている。
「車が売れた後、『2倍のお金を払うから売ってくれないか』ってDMが来ましたね。300万っすよ。ヤバくないすか?」。KOHHさんもそう言って笑った。


落合宏理
1977年生まれ、東京都出身。文化服装学院を卒業後、テキスタイルメーカーへの勤務を経て独立、2007年に〈ファセッタズム〉を設立する。当初より東京コレクションに参加していたが、2017年春夏コレクションより発表の場をパリへと移し、世界的に高い評価を得ている。
Instagram:@facetasmtokyo

ドッグス
北区王子をフッドとする仲間たちで結成された7人組のコレクティブ。2018年に同名の完全予約制ショップをスタートした。アーティストのKOHHをはじめ、各メンバーが異なる個性と才能を持ち寄り、洋服・ビジュアル・音楽など様々な手法で発信を続けている。
Instagram:@dogs.oji
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