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世界観を排除したものづくり。 アプレッセが提示する匿名的なファッションの在り方。
CLOTHING EDITORIAL DEPARTMENT

世界観を排除したものづくり。 アプレッセが提示する匿名的なファッションの在り方。

「このブランドの強みは世界観がないことです」。2021年秋冬にデビューしたブランド〈アプレッセ(A.PRESSE)〉のディレクター・重松一真さんによる言葉です。匿名性を保ち、ブランドの色を排除することで生まれる究極のシンプルネス。しかしながら、そこには服好きだからこそ気づくことのできる豊かさが隠されています。これまでに数々のファッションブランドやプロジェクトのプロデュースを手掛けてきた重松さん。彼だからこそ生まれる視点で“編集”されたファーストコレクションについて、公私ともに交流があるという「1LDK」のディレクター・三好良さんとともに語ってもらいました。

  • Photo_Ari Takagi,Shunya Arai(LOOK)
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta

世界観がないというのが強味。

ー 実際のものづくりについて聞きたいのですが、どのように編集をして服のデザインを考えているんですか?

重松: どうせつくるなら長く着られる、いわゆるいい服をつくりたかったんですよ。でも高級だからいいとか、そういうのはセールスポイントにしたくなくて。「いい服はいい」、ただそれだけで、そういう服をつくりたいという気持ちがベースにあります。

編集作業に関しては、めちゃくちゃ細かなところまでこだわります。そもそもどうしてそのアイテムをつくりたいと思ったか、そうしたストーリーまで大事にしているんです。たとえばこのカシミヤのフィッシャーマンセーターは、重量がキロ越えなんですよ。

Fisherman Pullover Sweater ¥154,000
1/20のカシミアの糸を10本取りし限界までに度詰めにした、手に持つとズッシリと感じるほど贅沢なセーター。二重織りメルトンなどで超ヘビーウェイトなモノを1kgメルトンなど表現するときがあるが、これは1kg超えセーター。 それでも着用時は全く重さが気にならないカシミヤ感満載なアイテム。

なぜつくったかというと、コロナによってクルマ移動が増えてアウターを着ることが減ったんです。でも、ミドルゲージのカシミヤのセーターを1枚だけ着ていてもちょっと物足りない。だから1枚でも成立するセーターをつくりたかった。ぼくはフィッシャーマンセーターが好きだから、それベースにして、あとはああだこうだ話し合いながらデザインしていく感じです。だから常に編集会議ばかりしていますね(笑)。

ー すべてのアイテムにそうした元ネタがあるんですか?

重松: ありますよ、このワンラックはすべて〈アプレッセ〉のサンプリングソースです。たとえばデニムパンツなんかは、これを元にしていて。左が色、右は形を参考にして1本のデニムをつくりました。

ー 古着はよく買ってるんですか?

重松: 仕事で地方に行く機会が多くて、地元のショップに挨拶まわりをしながら、どこの古着屋がいいなどの情報をゲットして、教えてもらったお店に行ってゴッソリ買い込むみたいなことを繰り返しています。でも古着をそのままリプロダクトするというよりは、男性はちょっとしたポイントが肝になったりするので、そうした細かなところをみんなできっちり話し合って詰めていきながらつくっていますね。

ー 三好さんは〈アプレッセ〉の服をご覧になられて、どんなことを思いましたか?

三好: 単純にすごくいいなと思いました。たとえばこのドリズラーなんかは、袖を通したときの感じやサイズ感がいいし、素材もいい。値段は結構するんですけど、それだけの価値をしっかりと感じられるんです。〈ユニバーサルプロダクツ〉でも似た服をつくったことがあるんですけど、ドリズラーってすごい難しいんですよ。ぼくらの場合はオリジナルなので値段をあまり高くできないし、サイズ感を極端にデカくしすぎないようにとか、いろんな塩梅を気にしながらつくったんですけど、思い描いた反応は得られなかった。でもこのドリズラーを見たときに、やっぱり手にとって袖を通したくなって。

Drizzler Jacket ¥99,000
G-9ジャケットをベースにしつつ、全体的にゆとりをもたせている。本来ならタータンチェックを配すべきライニングも表地無双でミニマルかつ贅沢な仕上がり。 フロントに配したヴィンテージタイプのファスナーや、強撚した味のあるウールの丸胴リブ、色気のあるホーン釦など、細部まで抜かりなし。

三好: あと、今日重松さんが着ているクルーネックニットなんかも、一見すると普通に見えますけど、探すとあまりなくて。海外ブランドでも上質なニットをつくっているブランドはたくさんありますけど、サイズ感が合わなかったりするじゃないですか。だけど〈アプレッセ〉のニットは、そうしたニッチな隙間を的確に突いていると思います。シンプルに自分もこういう服を着たいと思ったのと、「1LDK」のラインナップにもマッチしそうだったので、すぐに取り扱うことを決めました。

ー 重松さんはアイテムをつくるときに、ターゲットみたいなものを設定するんですか?

重松: 具体的には決めていないです。ぼんやりとイメージしているのは、ぼくと同じように毎日似た格好をしている普通な人たち。がんばってファッションでキメるという感覚が、ぼくは得意じゃなくて。Tシャツにジーパンとか、こういうクルーネックのニットに軍パンとか、そんな格好がぼくは好きなんですよ。だったらファストファッションでいいじゃんと思われるかもしれないけど、シンプルでもきちんとこだわってつくられた服を着たい。そうした価値観を持っている服好きの人に着てもらえたらと思ってます。

ー お話にあったように、がんばってお洒落をしたくないという人がいま多いと思うんです。そうしたなかで、シンプルで上質な服をデザインするブランドも増えているように思います。そうした状況において、〈アプレッセ〉の強みはどんなところにありますか?

重松: そうしたブランドと明確に異なるのは、冒頭でも話したように“単品”という考え方ですね。他のブランドにはシーズンテーマやシーズンカラーがあるんですよ。つまりはコレクション全体にデザイナーの気分が反映されていて、お客さんはそうした気分に共感してそのブランドの服を買いますよね。でも〈アプレッセ〉の場合はそうじゃなくて、世界観がないというのが強味なんです。あくまで一点一点の完成度を高めたものづくりをしているので、好きになってくれる人も多いんじゃないかと思うんですよ。

ー 匿名性のある服というわけですね。

重松: そうですね。言い方が変かもしれませんが、ぼくらの服は誰でも着られる服なんです。着れない人を探す方が難しい。だけど値段は可愛くないので(笑)、そういう意味では本当に服が好きじゃないと手が出しにくいと思います。

ー 世界観がある服と、世界観がない服。それぞれにデザイナーの意図が隠されているわけですが、三好さんはそうした意図をバイイングする際のヒントにしたりすることはあるんですか?

三好: ぼく自身はあまり気にしないタイプです。世界観が前に出すぎてしまうと、自分はちょっとそういう気分じゃないなと感じてしまうこともありますし。服を見て、いいか悪いかで判断するのがいいのかなと。なので、うるさくないほうがいい気はしますね。

重松: ファッションって、どうしても先入観が多くなっちゃうと思うんです。ぼくはそういった先入観を極力排除したくて。だからネームも小さくしているのがポイントのひとつです。将来、古着屋とか二次流通に流れた際も、ネームが見えないくらいがちょうどいいと思ってて。自分自身、名前とか人とかに影響されて服を買わないから、そうした部分をソリッドにしたかったんですよ。

ー そうすることで流行り廃りの影響を受けにくくなりますし、何年間かタンスにしまってても、あるときふと思い出してまた着られますよね。

重松: そうですね。瞬間的に気分じゃなくなる可能性は大いにありますが、まぁそれはそれでいいのかなっていう。

ー 仮に気分じゃなくなったとしても、クオリティがきちんとしているから手放したくない服なのかなと感じました。

重松: やっぱり捨てられないポイント、好きだから持っておきたい気持ちがあって。そうゆう服は回り回って着たりするから、わりとベタな服が多いですね。

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A.PRESSE

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