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いい生地は、いい服に宿る。Hakuroの流儀と、そのはじまりの話。
His relentless passion is the evolving material and clothes.

いい生地は、いい服に宿る。
Hakuroの流儀と、そのはじまりの話。

いかなるときも、本質に立ち返る。それが彼らの服作りの流儀です。本質とは、すなわち“生地”のこと。新石器時代に発明された織物の基本は、約1万年ものあいだ、脈々と受け継がれてきました。そして令和のいま、そのたしかな歴史を証明するかのように生まれたのが〈ハクロ(Hakuro)〉というブランドです。技術やノウハウを余さず注ぎ込んだというパンツは、ローンチされるやいなや、津々浦々の目利きたちの目に留まり、その事実にはさもありなんと頷くばかり。
今回フイナムは、そんな〈ハクロ〉の母体・山栄毛織が居を構える愛知県津島市へ。ブランドの仕掛け人である四代目にことのあらましを聞いてみると、よどみなくこんこんと湧き出てきたのは、ただひとえに、生地への飽くなきこだわりでした。

  • Photo_Shintaro Yoshimatsu
  • Text_Masahiro Kosaka(CORNELL)
  • Edit_Yuri Sudo

いい生地は、いい服に宿る。

ー 自分たちの思う生地の魅力を自分たちの手で届けることに決め、立ち上げたのが〈ハクロ〉というわけですね。21AWでは、テーパードとワイドのパンツ2型を6種の生地で展開するということですが、そもそもどうしてパンツだったのでしょうか?

ひとつには、自分自身が、ウールのパンツを年がら年中穿いているからです。とくにウールのイージーパンツは10本近く持っていて、その良さを多くのひとに伝えたいと思った。

ー イージーパンツって、2010年代初頭頃にブームになったアイテムで、いまは一旦落ち着きを見せているように思います。でも、あえてイージー仕様のパンツをつくった。どうしてですか?

生地の良さをシンプルに伝えたかったんです。それには、できるだけ余計なものを削ぎ落とした方がいいと考えた。あちこちのディテールに目が行くアイテムより、生地を感じるアイテムにしたかったんです。

ー パンツを選んだのも、イージー仕様にしたのも、ひとえにそこに集約されるですね。無地にこだわったのも、またしかりでしょうか?

そうですね。山栄毛織には、黒無地で勝負していた時代があって、その経験はいまでも私たちの根底にあります。無地はごまかしが利かないので、そこで勝負するのはすごく難しいことです。でも、私たちの強みはそこにある。2000年頃からは、ウールだけでなく、リネンやコットンといったさまざまな素材を扱うようになりました。そうしたことが、〈ハクロ〉の服づくりに活かされています。

ー そうした脈々と受け継がれてきた山栄毛織の技術とノウハウが、〈ハクロ〉の真ん中にあるのですね。21AWシーズンには、どのようなアイテムがラインナップされますか?

The serge

doeskin

alashan cash

ウールの基本中の基本であるサージ生地を使った「The serge」や、山栄毛織でおよそ40年にわたってつくりつづける歴史ある生地を〈ハクロ〉用に少しアレンジした「doeskin」など、生地マニアのような方にも楽しんでもらえるラインナップです。なかでもカシミヤ100%の「alashan cash」は自信作と言えます。ふつうカシミヤは紡毛で仕立てるところを、あえて、スーツ地なんかに使われる梳毛に。梳毛でカシミヤの良さを表現するのは一般的には難しいのですが、せっかく機屋なので、そこに挑戦してみました。

〈UNITED ARROWS〉別注「white flannel」 肌当たりの気持ち良さと仕立て映えを両立するよう、タテ糸だけにすこし繊度の細いウールを使用。まさに隠し味なこだわり。生地は地球にやさしい無染色で、リアルに天然繊維を感じられるところも魅力。

ー どれも物静かに見えますが、触れると、生地の迫力にはたと気付かされます。〈ハクロ〉を通じて、生地づくりから製品にするまでを一貫しておこなってみたからこそ、改めて機屋として気づいたことはありますか?

やはり生地の話になってしまうのですが、再認識させられたのは、適性の範囲内でしっかりとした打ち込みで織られたものは、やはりいいということ。実際に商品を試着したバイヤーをはじめ、プロの方々の反応からも、これまでのものづくりは間違っていなかったと実感しました。“いい生地はいい服に宿る”とはよく言いますが、やはりいい生地というのは、洋服になっても伝わるんですね。

ー 最後に、今後の展望について聞かせてください。デビューから2シーズンは2型のパンツを通して生地の良さを伝えてきたわけですが、新型や、あるいはパンツ以外の展開なども視野に入れていますか?

いまのところはパンツ専業でやっていますが、そこにとりわけこだわっているというのでもありません。あくまで、これまでの山栄毛織の歴史やノウハウを活かしながら、天然繊維のよきも悪きも伝えていきたい。つねに新しい生地開発をしながら、学びながら変わっていきたいですね。

ー お話を聞いていると、アパレルブランドではありつつも、洋服はあくまでいい生地と向き合い、届けるための媒介に過ぎない。そんな風に感じられます。言うなれば、生地をブラッシュアップしていくための、キャッチアンドリリースの実験のような。

お恥ずかしいことに、私も話していて、すべてにおいて結局は同じことを言っているような気がしていました(笑)。裏を返せば、やりたいことはそれだけ明確なのかもしれませんね。この事務所にある大量の生地見本を見てもらうとわかるように、かつてとてつもない種類の生地が開発された時代があった。生地や洋服に、いまより夢があった。そんな過去に負けないよう、〈ハクロ〉を通して、いい生地をとにかく追求していきたい。その一心です。

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